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秋、決定。

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「『……そうして、新たな道を探す』……っと。できたあーー!」

 丸々一週間かけてしまった。

 とりあえず初稿は完成した。これを桃華と楓に読んでもらって変なところがあれば修正。その後はイラストとシステムのふたりにお任せだ。

「ふわあ……。ちょっと散歩がてら桃華さんとこに原稿持っていくか」

 寝巻きからジャージに着替え、スニーカーをつっかけ外に出る。秋晴れの今日は風も穏やかで心地よい。いつもの散歩道を歩きながら自然と考え事をする。

 ーーアレで、叶は元気になれるのだろうか。

 叶に必要なのは、未練を断ち切る勇気だ。書いている側の染衣がホワイトスピカへの未練を断ち切れていないのに、伝わるのだろうか。そんなことを考えながら川沿いを歩く。

 平日の昼間は人も少ない。

 電車に乗り姫路家の最寄駅まで一本。

 相変わらず大きくて豪華なマンションのエントランスに入り、インターホンで呼び出す。桃華は在宅していて、すぐに鍵を開けてくれた。いつもの様にお邪魔する。

「原稿できたの?」

「一応。読んでもらえますか?」

「勿論!」

 リビングテーブルの上に印刷した紙の束を置く。桃華はすぐにそれに手を伸ばすと、目を通し始めた。余程気になっていたのか、いつも用意してくれていたお茶やお茶菓子がないので手持ち無沙汰になってしまう。

 ちらりと桃華の表情をうかがうと、彼女は驚くほど真剣な表情で文字を読んでいた。

 待っている間、染衣は「あ」のツイートが更新されていないか確認したり、流されていた昼ドラを流し見したりしていた。

 丁度途中から見ていたドラマがエンディングに差し掛かった時だ、桃華が息を吐く音が聞こえてきた。

「読みました」

「……どうですか?」

 彼女は一呼吸吐くと、こちらを見て答えた。

「描くシーンは浮かびました! これで行きましょう!」

 第一関門はクリアだ。その日、桃華は早速キャラクターラフ、立ち絵、差分ラフ、イベントスチル計八枚を楓が帰宅するまでに描きあげた。

 その間染衣がしたことと言えば、部屋で集中する彼女の邪魔をしないように叶の相手をすることだった。
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