同人サークル「ドリームスピカ」にようこそ!

あいう

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冬、リリース決定。

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 結果としてはなんの問題もなくテキストは上がった。

 ノベルゲームではないからセリフと全体的なストーリーの流れを考えるだけなのでホワイトスピカで一応働いてきた染衣にとっては前回のノベルゲームよりは慣れ親しんだものだったからだ。

 それでも初稿が上がったのが一月の下旬。そこから夫妻の指摘を受け改稿して最終稿が上がったのが二月上旬。正直あり得ないほど時間がない。

 一応初稿が上がった段階でスチルのラフも出来ていたし、マップやドットは楓が世界観の説明の時点で作ってくれていたので、完全なデッドスケジュールではあるが、三月上旬にリリースは可能ではある。ただし、おそらくリリース後に細かなバージョンアップが前提になるだろうが。どうしてプロでもないのにこんなボロボロになってるんだろうとふと思ったが、苦ではなく、むしろイキイキしていた。

『出来た!』

「お疲れ様です!」

『あとはこっちでやっちゃいますね。スクショ四枚送るので宣伝お願いします』

「了解です~! 本当にありがとうございます!」

 通話アプリで夫妻と会話しながら二月最終日にリリース日が決定した。三月十日の夜だ。SNSで告知を撃つと、前作の反響のおかげかそこそこの拡散結果が出た。楽しみだという純粋なファンもいたが、こんなリプライもついた。


『まともな王道ファンタジーで草。ライターは降りたし前作は炎上商法だったのかよ』


 根本は変わってねーんだなこれが、と画面を見て笑ってしまう。創作物は作者のものではない。受け取った人のものだ。それをどう受け止めても、解釈してもいい。だからこんな意見が出ることも間違いではない。

 創作物を出す上で一番怖いのは。

「……誰にも、届かないことだよな」

 叶に届くまで作ると決めた。例え夫妻の協力がなくとも、それが叶を傷つけた染衣の役目だ。だが、これが届かなければ? 叶だけに届けばいいと思っているなら全体公開など、告知などしない。夫妻には言っていない、染衣の欲がそこにあった。

「……叶くんに届かなくても、誰かには」

 どこかの誰かには届いてほしい。たったひとつでいい、たったひとつ感想があれば、届いたと言われればまだ書ける。そんな「ついで」の欲望が染衣から消えない。

「……吉川はやってくれるだろうけど、もう吉川からの感想じゃ意味ないんだよなあ」

 知らない誰かの背中を押したい。それは強欲だろうか。知っている人間が作ったものはどうしても下駄上げしてしまう。だから、知らない人間の感想が欲しい。

 叶はきっとドリームスピカのアカウントを把握しているだろう。ライターが変わったことも知っているはずだ。しかも今回は地の分がないから、バレる可能性は低い。

 これで外に出てくれれば、希望を持ってくれれば、名声なんてもらえなくてもそれだけでいい。

 リリースまであと数日。

 染衣はあまり眠れなかった。
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