【R-18】今日からメイド♂始めます!【BL完結済】

あいう

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有限だから

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 必要な物を買って帰宅した時にはもう外は暗くなっていた。

 暗い部屋に明かりを灯し、カーテンを閉める。

「じゃあ、ソファで大人しくしていてくださいね」

幸太郎はてきぱきと調理の準備に入っていて、時嗣はやることがなくなってしまった。スマホもGPSでバレると思って置いてきてしまったから暇のつぶし方がわからない。テレビでも見るか、そう思いリモコンに手を伸ばしたがやめた。

(兄さんはもう失踪届とか出したのかな)

 外の情報はこの部屋以外の事を連想させられて見る気にならなかった。出来るだけ目の前の事だけを考えていたい。それ以外の事は考えたくない。

(……僕が櫻木家の人間じゃなければよかったのにな)

 そうしたら、何もかもうまくいったのに。普通に出会って、普通に恋をして、普通にこうして過ごせて。なのに、どうして主従だからと言う理由で結ばれることが出来ないんだろう。

(……あれ?)

 ひとつ、おかしい所がある。櫻木家の力でどうにでもなる事。

――今使ってる車って、幸太郎はどこから持ってきたんだ?

車のナンバーがわかれば、捜索などたやすいだろう。パーティ会場にはたくさんの富裕層の人間がいたし、その中にはあの場にそぐわない軽自動車を見かけた人間もいるかもしれない。兄が騒げば、正しくは時嗣を探す気があれば。ここを探し当てるなんて容易いはずなのだ。

(幸太郎の友達が協力してくれてるのか? いや、でもスマホを貸したのは一度きり……)

 あの数分の電話でそこまでの計画を練れるとは思えない。だったら、館の誰かが協力しているとか? 例えば、父の代から使用人をやっている伊藤は兄からの信頼もあり、外出することを許されている。幸太郎が伊藤に頼んで手紙なり電話なりで友人に協力を仰げば、何とかなるかもしれない。

(いや、それはない。もしそんなことがあったら確実に兄さんに話が行く)

 一之宮家との縁談には数億の価値がある。兄は交渉材料である時嗣を失いたくないはずだ。もし計画を知ったらその段階で幸太郎を問い詰めるだろう。だが、幸太郎はこうして五体満足で目の前にいる。つまりは「問題にはなっていない」のだ。

(キャリーケースの件だってそうだ)

 幸太郎は下手に動けない、と言っていた。その状況にいる彼が、時継の荷物をまとめて、あらかじめ用意していた自動車に持ち込む、こんな事がバレずに行うことが出来るとでも?

「時嗣さん?」

 いつの間にそんな時間になったのだろう、両手にオムライスを持った幸太郎に声をかけられる。

「どうかしました? そんなに思いつめた顔して」

「あ、いや……。その、なんでもない!」

 そうだ、信じるって決めたんだ。何があっても。幸太郎の事だけは信じる。

「あはは、ごめんね。スマホ無いから色々考えちゃって」

「スマホ世代は大変ですね~」

「幸太郎、僕とそんな世代変わんないでしょ」

「無ければ慣れます。てか失踪中、俺スマホ捨てて逃げてたんで長らく触ってないです」

「どんな生活してたの……」

 目の前に半熟の卵がかかったオムライスが置かれる。山田が出すものと見た目は変わらない。

「わあ、器用。食べていい?」

「勿論。熱いから火傷しないでくださいね」

スプーンで卵を崩して口に運ぶ。家の味と相違ない。教えてもらったというのは事実なのだろう。

「……どうですか?」

「うん、美味しいっ!」

 そう返すと、幸太郎はほっとした顔で言った。

「やっと笑ってくれましたね」

子どものように頭を撫でられる。そこまでされて、ずっと自分がどんな態度を取っていたのか気が付いた。

「……ごめん、心配したよね」

「ええ、しました」

 これは自分のわがままから始まったことなのだから、自分が一番楽しまなければいけないのに、何もかもうまくいかない。

 幸太郎は自分の分の食器をテーブルに置いて、時嗣の隣に腰をかける。

「貴方が思ってる事、当ててあげましょうか」

「え?」

「『幸太郎の事が信じられない』」

 胸の内を当てられ、ドキッとする。幸太郎はその反応に「でしょうね」と肩をすくめた。

「信じなくていいですよ。時嗣さんは聡い子です、もうわかってると思いますし。でも」

 これだけは、その後に続けたのは懐かしい言葉だった。

「俺は貴方の味方です。今までも、これからも。それだけは信じてください」



『だったら、私が貴方の味方になりますよ』



 まだ子供だった頃。館に引き取られて、周りが怖くって、ずっと自分の殻に閉じこもってた頃。幸太郎のその言葉に救われた。今でもちゃんと覚えてる。覚えてるよ。

「……ねえ、幸太郎」

「なんですか?」

「……ううん、なんでもない」

 ねえ、幸太郎。本当はもう、全部わかってるんだよ。

 だから、ごめんしか言えないんだ。

「……不安なら証明しましょうか」

「証明?」

「セックスしましょう」

 カランとカトラリーが床に落ちる音が響く。鏡がないからわからないが、今の自分の表情は真っ赤になっている事だろう。

「へ……?」

「恋人なら普通でしょう? どうせ全部わかってるなら一緒にいる時間は大切にしましょうよ」

 そう言った彼の表情は、どこか寂しそうだった。
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