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★1話(エロ有り)
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小さく、喉から声が漏れた。
「あ……っ」
シャツ越しに胸を触れられて身体がこわばった。いつも自慰で弄っている場所だ。男のよく手入れされた暖かい指が胸の突起をこねくり回す。そのたびに電流が流れるような刺激を感じた。
「時乃……、だめだって、こんなとこ……」
大学の美術室で身体を重ねる背徳感は、セックスのスパイスだ。誰もいない夜の部屋で俺達は身体を重ねる。誰に見られるかわからないのが怖いくせに、そのドキドキが興奮を煽る。
「その、見られたらやばいから、止めよ……?」
「夜の学校なんて誰も来ない」
そうして彼は俺を机に押し倒し、プチプチとシャツのボタンを器用に外ずしてくる。
やめなければ、そう思う理性とは裏腹に、ひとつボタンが外れる度、期待で胸の鼓動が大きくなる。
「はじめ……。今から抱くけど。いいよな?」
そう、整った顔で言われれば頷く以外の何も選択肢は無くて。俺はハーフパンツをすこしずらして下着を見せた。既に先ばしりが下着を濡らしている。俺の身体は、これからされることを期待している。
「慣らした?」
「だって、結局こうなるって、知ってたから……」
「……ダメって口では言ってても準備はしてきてくれたんだ」
彼は俺の額にキスを落とす。
「かわいい」
今まで性欲なんて感じてません、とすまし顔をしていたというのに、口が離れた瞬間、彼は雄の顔をしていた。
「……優しくしてよ」
俺はぶっきらぼうにそう言う。彼は「はいはい」と俺の頭を撫でると、唇を口づけて、俺の髪を優しく梳いた。
「大丈夫。ちゃんと、蕩けそうになるまでやさしくする」
そうしてもう一度キスをして、いざ事に及ぶ雰囲気になったのに。
ジジジ、と大きなベルの音が邪魔をした。
「あーー……」
カーテンからのびる心地よい朝日、鈴のような小鳥の声に、今が何時なのかを知った。
近所に住むお母様方の声が聞こえる。今日は燃えるごみの回収日で、確か一コマ目から何だったか、授業が入っていた気がする。
下半身の気持ち悪さに嫌になったのはこれで十回目だ。たまに、自慰をさぼっていると、こういう事がある。
いつもの夢の相手……、親友の緑谷時乃に恋をしているとか、そんなことは一切ないはずなのに、だ。
でも、度々こうして彼に抱かれる淫夢を見てしまうのは、やっぱり少なからず無意識のうちに彼を性的な意味で好きだと思っているからなのだろうか。俺、黒川肇はかれこれ二十年近く生きてきたけれど、恋愛経験なんてあるようでないものなので自分ではよくわからない。でも、もし、自分が時乃の事を好きならば、まあ何年も最初から望みの薄い恋心を持っているものだと笑ってしまう。時乃は自分とは違う世界の人間だ。想う事すらおこがましい。
俺はうんざりした気持ちで汚れた下着を洗いに洗面所へ向かう。
俺の日常なんて、絵を描いて、絵を描いて、たまにバイトして、また絵を描く。そんなものの繰り返しだ。このように長い間、陰キャ生活を送って来た自分には、恋とか愛は俺にはいまいちよくわからない。
が、親友に性欲を持つのはいただけない事なのは流石にわかる。
「はあ……」
小学生の時、ある女の子にささやかな憧れを抱いてから大学四年生までの間、キラキラしていて胸がギュッとするような漫画の様なときめく体験は一切してこなかった。小学校から今まで、ずっと一緒の進路を歩いてきた時乃に対してだって、そんな気持ちを抱いたことはない……と思う。
まあ、例え、だ。仮にこの欲が恋だとしても、隣に居るのが当たり前すぎて、多分恋だったとしても気づかないだろう。面倒だからそのままでいてくれ、俺の脳。
それにあの男が、俺みたいな特にとがったものも無い普通の男を選ぶわけがない。もし俺が時乃を恋愛対象として好きだとしたら不毛すぎる。負け確定だ。
「流石にあの夢はやめてほしいな……」
ふわあ、とあくびをしながら軽く手洗いした下着を洗濯機へ放り込む。一緒にたまっていた肌着類を入れて洗濯機のスイッチを押した。
結局の真相がどうと言え、自分の親友であり、恩人でもある時乃には何もなく、平和に生きてもらいたい。だからこんなよくわからない気持ちは酒に流してしまおう。大学の授業なんて今日は行く気にもならない。卒業単位はきっちり取っているし、就職の内定も出た。いつも課題以外は真面目に取り組んでいるのだから、少しくらいさぼってもいいだろう。
そう思い、冷蔵庫の扉を開けると、酒はおろか、驚くほど何も入っていなかった。入っていたのは卵二つとコンビニで買った小さい豆腐だけ。まかないが出るバイトだと度々買い物を忘れる。卵の賞味期限は過ぎていた。ため息を吐きながら酒くらいは用意しといてくれよ、と昨日の自分に向けて心の中でぼやく。
そういえば今日は時乃と飲み会だから酒買ってなかったんだった、と考えて。そんな直接会うような日に彼のえっちな夢を見るのはどうなんだと朝から憂鬱になってしまった。
黒川肇、大学四年生。本気の恋もセックスもまだ、したことがない。
誰かが何もない自分の事を好きになってくれる可能性なんて、あるわけないと。
これまでそう思っていた。
「あ……っ」
シャツ越しに胸を触れられて身体がこわばった。いつも自慰で弄っている場所だ。男のよく手入れされた暖かい指が胸の突起をこねくり回す。そのたびに電流が流れるような刺激を感じた。
「時乃……、だめだって、こんなとこ……」
大学の美術室で身体を重ねる背徳感は、セックスのスパイスだ。誰もいない夜の部屋で俺達は身体を重ねる。誰に見られるかわからないのが怖いくせに、そのドキドキが興奮を煽る。
「その、見られたらやばいから、止めよ……?」
「夜の学校なんて誰も来ない」
そうして彼は俺を机に押し倒し、プチプチとシャツのボタンを器用に外ずしてくる。
やめなければ、そう思う理性とは裏腹に、ひとつボタンが外れる度、期待で胸の鼓動が大きくなる。
「はじめ……。今から抱くけど。いいよな?」
そう、整った顔で言われれば頷く以外の何も選択肢は無くて。俺はハーフパンツをすこしずらして下着を見せた。既に先ばしりが下着を濡らしている。俺の身体は、これからされることを期待している。
「慣らした?」
「だって、結局こうなるって、知ってたから……」
「……ダメって口では言ってても準備はしてきてくれたんだ」
彼は俺の額にキスを落とす。
「かわいい」
今まで性欲なんて感じてません、とすまし顔をしていたというのに、口が離れた瞬間、彼は雄の顔をしていた。
「……優しくしてよ」
俺はぶっきらぼうにそう言う。彼は「はいはい」と俺の頭を撫でると、唇を口づけて、俺の髪を優しく梳いた。
「大丈夫。ちゃんと、蕩けそうになるまでやさしくする」
そうしてもう一度キスをして、いざ事に及ぶ雰囲気になったのに。
ジジジ、と大きなベルの音が邪魔をした。
「あーー……」
カーテンからのびる心地よい朝日、鈴のような小鳥の声に、今が何時なのかを知った。
近所に住むお母様方の声が聞こえる。今日は燃えるごみの回収日で、確か一コマ目から何だったか、授業が入っていた気がする。
下半身の気持ち悪さに嫌になったのはこれで十回目だ。たまに、自慰をさぼっていると、こういう事がある。
いつもの夢の相手……、親友の緑谷時乃に恋をしているとか、そんなことは一切ないはずなのに、だ。
でも、度々こうして彼に抱かれる淫夢を見てしまうのは、やっぱり少なからず無意識のうちに彼を性的な意味で好きだと思っているからなのだろうか。俺、黒川肇はかれこれ二十年近く生きてきたけれど、恋愛経験なんてあるようでないものなので自分ではよくわからない。でも、もし、自分が時乃の事を好きならば、まあ何年も最初から望みの薄い恋心を持っているものだと笑ってしまう。時乃は自分とは違う世界の人間だ。想う事すらおこがましい。
俺はうんざりした気持ちで汚れた下着を洗いに洗面所へ向かう。
俺の日常なんて、絵を描いて、絵を描いて、たまにバイトして、また絵を描く。そんなものの繰り返しだ。このように長い間、陰キャ生活を送って来た自分には、恋とか愛は俺にはいまいちよくわからない。
が、親友に性欲を持つのはいただけない事なのは流石にわかる。
「はあ……」
小学生の時、ある女の子にささやかな憧れを抱いてから大学四年生までの間、キラキラしていて胸がギュッとするような漫画の様なときめく体験は一切してこなかった。小学校から今まで、ずっと一緒の進路を歩いてきた時乃に対してだって、そんな気持ちを抱いたことはない……と思う。
まあ、例え、だ。仮にこの欲が恋だとしても、隣に居るのが当たり前すぎて、多分恋だったとしても気づかないだろう。面倒だからそのままでいてくれ、俺の脳。
それにあの男が、俺みたいな特にとがったものも無い普通の男を選ぶわけがない。もし俺が時乃を恋愛対象として好きだとしたら不毛すぎる。負け確定だ。
「流石にあの夢はやめてほしいな……」
ふわあ、とあくびをしながら軽く手洗いした下着を洗濯機へ放り込む。一緒にたまっていた肌着類を入れて洗濯機のスイッチを押した。
結局の真相がどうと言え、自分の親友であり、恩人でもある時乃には何もなく、平和に生きてもらいたい。だからこんなよくわからない気持ちは酒に流してしまおう。大学の授業なんて今日は行く気にもならない。卒業単位はきっちり取っているし、就職の内定も出た。いつも課題以外は真面目に取り組んでいるのだから、少しくらいさぼってもいいだろう。
そう思い、冷蔵庫の扉を開けると、酒はおろか、驚くほど何も入っていなかった。入っていたのは卵二つとコンビニで買った小さい豆腐だけ。まかないが出るバイトだと度々買い物を忘れる。卵の賞味期限は過ぎていた。ため息を吐きながら酒くらいは用意しといてくれよ、と昨日の自分に向けて心の中でぼやく。
そういえば今日は時乃と飲み会だから酒買ってなかったんだった、と考えて。そんな直接会うような日に彼のえっちな夢を見るのはどうなんだと朝から憂鬱になってしまった。
黒川肇、大学四年生。本気の恋もセックスもまだ、したことがない。
誰かが何もない自分の事を好きになってくれる可能性なんて、あるわけないと。
これまでそう思っていた。
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