伝説の走り屋が新たな伝説を作るらしいです。

音無闇夫

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第十一話、昴50歳からの挑戦

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町工場の一角にオフロードバイクが、静かに、二台並んでたたずんでいる。それらのバイクは、昴が若い頃から愛用していたトライアル用のバイクとダートコース用のバイクであった。仕事が終わった後、手入れしている。どうしても手放せなかった二台である。たまにエンジンをかけるが、走らせていない、ただ磨き、劣化したパーツを交換した。状態は、いつでも走らせられる状態だが、整備はただの日課となっている。たまに、ヤサカのフェローで、林道を走ることがあるがレースには出ていない。ワインディングロードや未舗装路を、走る事はあるが、あくまで軽く流す程度である。この一時だけは、色々仕事の事を忘れ、走る。それだけで満足なのだ。雪の為に車の免許を取り直し、レースには参加はせず。休みの日は雪が行きたいところにドライブする。バイクの整備が出来るのは、昴だけだが、昔取ったなんとやら、下手の横好きで、資格も取っていた。車の免許は、仕事でも使う。納車や、検査場までの走行、引き取り等必要だから取った。もう二度とレースには出ない、たまに車が入れる河川敷で、遊びで走らすぐらいだ。未練がない訳じゃない、それ以上の後悔しかない。雪にはレースで走って欲しいと復帰してほしいと促されるが、もう後悔はしたくない、若い頃の昴なら、気にもしなかっただろうが、今は仕事が優先順位では、勝っている。次が家族だ。急ぎ働きは、好きじゃないが、急遽の仕事依頼もやむなしだ。休日は、一人ツーリング。午前中、午後は雪と買い物や、ドライブ、まぁ~昴も雪も、40過ぎで結婚したから子供には恵まれないが二人の時間を多く作り穏やかに過ごしている。特にレースマシンの、改造等においては、予約制でしかも信頼のおける者からしか受けない。なにせ、エンジンから組み上げ、車体の微調整までやらなければならない、つまり、ワンオフオーダーのマシンとなる。今はそのチームのメカニックに、同行させ、メンテナンス指導サポートに、人を割いているため、車検班しかいない、走り屋からは、足回りの強化等入って来るが、たまにエンジンを高回転にとか、依頼してくる輩がいる、昴はそれを悉く断っている、何故ならば、ドライバーの操れないマシンは作らない。ここは、車検や修理工場である。と断る。「社長!また来ましたよ?彼奴!エンジンの改造依頼しに!」と車検班の中村が飛び込んでくる、昴は「僕が対応します事務所にお通ししてください」と静かに答えた。依頼人は「お願いします。サーキット走行会で、速いマシンが必要なんです。」と言ってきた「コースは、どこですか?」と昴は、質問する。東山梨サーキットと答えた。昴は、「あそこは、ストレートも短いし、テクニカルコーナーも多い。カートレースなら、まだしも箱車やFマシンが走れるコースでは無い、あそこでの完走した事はありますか。」依頼人は、「有りません。」昴は、「どんなにエンジンをいじっても、根本的にドライバーの技術が劣っていたら金の無駄遣いです。まずは非力なマシンで、腕を磨きなさい、本来のパワーを活かすため、体に叩き込みなさい、それが出来て初めて、サーキットドライバーになれるはずです。それでも高回転、高出力の、マシンをチューンしてくれと言うなら他所へお願いします。安全に走行が出来ない人にうちのチューンは、施せません!私も元プロレーサーなもんで。何故レーシングパイロットと言うか、ご存知ですか?」依頼人は、「すみません、分かりません。」昴は、「マシンの性能を熟知し、マシンの性能を、極限ギリギリまで発揮し、それでいて、安全マージンを計算し、ゴールを目指す。それがパイロットです。貴方はそれが出来てますか?出来てないなら他のパイロットに、迷惑をかけるだけです。そんな人にうちのチューンは、施せません。ですから、他所にどうぞ、足回りだけならやりますが、エンジンはお断りします。」依頼人は「分かりました。」と肩を落とし帰っていった。中村は「社長、良かったんですか?」昴は「チューンショップとしては、ダメだろうね?しかし中村君、もしもうちのチューンで彼が無茶な運転をして、事故した時、誰が責任を取るんだい?」中村は、「うちにも責任が来ますね?」昴は、「その通り!彼の命を預かるということは、リスクだけしか無い、だからこそ足廻りはいじっても、エンジンには、いじらない寧ろドノーマル車体挙動や、ちょっとした荷重変化や、車体の捻れと、反動補正、車から伝わる情報をペダルや、ステアリング、シートから読み取りトラクションをどのタイミングかけるかブレーキのタイミングは?タイヤの磨耗具合まで、一分の狂いもなく正確にコントロールするのがパイロットの所以だ、今の俺でも、彼に軽トラで、勝てると思う道はストレートだけでは無い各種コーナーも有る。ましてや東山梨サーキットなら排気量125ccエンジンを積んだゴーカートでも余裕だろう下手すりゃ50ccレーシングカートでも勝てるかもな?」中村は「そりゃ社長だからですよ」昴は「全盛期の雪でも勝てる。なにせチームミスズのセカンドパイロットだったんだからな!」中村は、「えっ?奥さんが?」昴は「だからレーシングマシンは、プロチームにしか、施さないし、最近は、高速交通機動隊には、卸しちゃいるが、あくまでも外車勢をとっ捕まえられる程度にしてるだけで、ほぼほぼMCUをいじってるだけ。タイミング合わせとCAMの調整だけだよ。」中村は、「だから、レイナードや童夢のシャーシから、在庫があるんですね?」昴は「用途にもよるが、選択肢は、多いに越したことはない!GT選手権用のカスタムからFマシンまで、作れる技術と、メカマンの育成が俺たちの課題だ。」更に昴は、「WRCマシンや、全日本ラリー選手権マシン迄、ありとあらゆるマシンを、チューンナップする事が、メカマンとして、理想です。だから一般ユーザーには、ハイスペックカスタムはしません。ローカスタムのみスタビライザーや、ショックアブソーバースプリング、までは、やりますがあくまでも最低限のカスタムチューンのみ、車、バイクを介しお客様の命と、歩行者の命を守る義務が整備士には、あると思わないかい?中村君。」中村は、「はい!社長!」たかが整備、されど整備、ボルト1本から、ナット一個に、至るまで、微かな緩みも許されないシビアな仕事だ。レーシングマシンともなれば走る精密機械コンマ数ミリの緩みも、髪の毛1本に至るまで、許されない、シビアさが、要求される。昴は、そういった世界を、身をもって知っている。故に車検班とレーシングマシン班に分け、後進の育成に励んでいるのだ。オンダのメカニックが、優秀なのは、創業者の理念を脈々と受け継いできたからで、昴の技術を、欲しがっていた。だがしかし、昴は、その技術を封印し今は目の前の、車検に忙殺されている。「中村君?今月の車検予約あと何台残ってたっけ?」と昴は聞く、中村は、「あと五十前後ですね。」昴は、「なら今度の土日は、休暇にしようか?飛び込みがなければ多少の融通は利くでしょう?」と言いながら受け持ちのリフトに向かった。黙々と整備する、昴の後ろ姿は、メカニックとしての威厳があった。チューナーとしてのこだわりや、信念があった。中村の目にはレーサー時代の昴の姿が重なって見えたのだ。初老の頑固親父でなく、威厳が読み取れるのだ。昴は、「今日の作業は、定時で終わりにしよう!みんなよく頑張ってくれたね。有難う!明日はゆっくり、休んでくれ。バイクや車走らせるのはいいが怪我だけはするなよ!」と言って事務所に戻り書類の山と、格闘を始める。昴は、終わる気がしないと言いながら、PCと伝票を見比べ、ヘトヘトになっている気分転換にバイクを磨き「お前とはもう40年の付き合いか長いもんだな。」と一人トライアル用バイクに話しかける事務所の看板替わりのジミニにも、埃を取りワックスを掛け、「いちばん長い付き合いだったなお前は。」ドライバーシートに座りステアリング握り一息つく。日坂さんが「何黄昏れてんだよ社長さん!」と言いながら現れた。「ご無沙汰しております。日坂さん」日坂さんは、「聞いたぜ姉御から、伝票と格闘して夜遅くまで一人、事務所で、PCと格闘してるんだってな?」昴は、「個人事業主の性ですよ。たまには、こうやって車やバイクと、お話ししている危ないおっさんに、なってますがね?」日坂さんは「別に悪いことじゃないが、たまには、雪姫と、お泊まりデートして来いよ!寂しがってるぞ。今から隣で飯でも食おうぜ!」と雪の店に行こうと誘われた。「昼は、毎日雪の店で飯食ってますし。」日坂さんは「少しでも早く、多く旦那の顔を見ていたい。目は見えなくても触った感触でどんな顔かわかっちまうもんだ。嫁ってもんはよ。くたびれた顔なんざ見せたくないだろ?」昴は頷いて「分かりました。行きますか?」と言った。日坂さんは、「二人入れるかい?」とバイトの娘に、聞いた。バイトの娘は、「いつもの個室を開けております。」日坂さんは、「ありがとうね!」と言い案内された。日坂さんは、「でだ、昴、お前は、一人でなんでも抱え込みすぎだと、思うぞ。」といきなり本題を言い出した。更に続く。「お前は、メカニックマンの育成だけでなく、経理や、在庫管理、請求書を一人でやってる訳だが、手が回らず深夜まで、かかってるそうじゃないか?雪姫から聞いたぜ、あと姉御からも。餅は餅屋という言葉がある。事務員雇えよ。オープンからどのくらい経つ? そろそろ腹くくる時じゃないのか?」日坂さんの言いたいこともわかるが安定していない、今は、人を増やすときでは無い、昴は、「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、現在フロントを増やすだけの余剰資金がありません、ここで会社の運営に支障をきたす訳にはいかんのですよ」日坂さんは「それで、お前が倒れたら、それこそ、本末転倒じゃないのか?」昴は「確かに、おっしゃることは、理解していますが、無い袖は、振れない、その一言に、つきます。」日坂さんは「これは提案なんだがうちから出向させる給料も、うちが応援に出すのだから、うちが出す。安定して軌道に乗ったら、自分で探して雇えばいいそれではダメか?」昴は「ありがたいご提案ですがそちらにメリットは無いですよね?」と切り返す日坂さんは、「その代わりと言ってはなんだが童夢のシャーシーで、二台マシンを、格安で提供して欲しい」昴は、「エンジンは型落ちの4XC1S直列四気筒1600ミスズのエンジンでいいですか?それなら格安でできますが?」日坂さんは、「幾らでFJ1600マシン出来る?」昴は「仕様にもよりますが童夢カウルとモノコックシャーシでなら、大体6~7000万位かとこれにブレーキやタイヤ、エンジン改造を加えるなら更に8000万位が限度額ですね。つまり1億6000万までなら、これは、値引きした額です。本来なら、V41600の、新型を特注して、コンパクト化して挑ませたいですが、安く済ませたいならこの方法しか、思いつきませんね?特注エンジンだけで1億超えますから。ジミニ1600ターボを高回転高出力にカスタムすればパワーパッケージにすれば、部品代だけで済みます。二台で4億にするか、二台で1億6000万ですますか?の2択になります。エンジンメーカーは、ミスズとなりますが、4気筒エンジンをV4にするということは金型から作らねばなりませんし、ツインカムですからカムシャフトも4本さらに高回転型にするのですから値段も吊り上がる訳です。これでも頑張ってお勉強させてもらった方ですよ?どうします?」と言った。かなり考えて日坂さんは、「6億出す。新型V4エンジンにしてくれ。」と言った。つまりは、エンジンは、心臓部でありこれ無しには、動かせない、シャーシが骨でありカウルは皮膚だタイヤは足でありブレーキは遅筋でありトルクは、速筋である。燃料タンクは内臓、特に胃や腸マフラーは、排泄部だ。どれが欠けてもダメなのだ。だからこそユーザーの声が、大事なのだ。つまりメカニックマンはドクターでありリハビリードクターでもある。それをわかっていないと故障や事故の原因にもなる。ドライバーの命はメカニックマンの腕にかかっている。またマシンパイロットは、神経でありパイロットが、下手なドライビングしてもマシン性能は発揮しないし、コントロールが出来なきゃやはり事故につながる。昴はその事をよく知っているのだ。マシンパイロットはその車体特性と、コース特性、タイヤや車体から伝わる振動や音により情報を受け取りコントロールしなければならない事を身に染みて知っているからこそ、プロチームにしか作らせないのだ。
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