異世界で神が認めたシェフになる

ジェル

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プロローグ

閑話 評論家の涙

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これはソラたちが異世界へ旅立つ前のお話


私はある日、日本のとある町に仕事に来ていた。そこは、地元の人の活気にあふれ商売が盛んな町だった。
魚は釣りたて、野菜は摘みたての鮮度がいいものばかりが並んでいる。

そんな人が往来する町の人はみんなこぞって夕方にはあるお店に向かう。そこは、一般的な食堂と見た目は対して変わらないお店だ。

しかし、噂では3時間待ちの行列ができるらしい。
その光景はまるで開園前のテーマパークのようだと、ネットで話題になった。

そんな噂を確かめるため、私はわざわざフランスからやってきた。

そう、私、セシリーは、フランスに拠点を構える一級評論家だ。
フランスという一流の料理人が集まる国で、私は毎日、レストランをまわり、評価をつけてきた。
私は世界でも厳しいということで名の知れた評論家で、実際に三ッ星を与えた店は年間、億という単位で稼げるほどに賑わうのだった。

そんな私がなぜこんな場所にと思うかもしれないが、私の尊敬するフランスの日本店のオーナーが言っていた。

「私が、料理人を目指したのは、ある町の幼い料理人リトルシェフにあったからだ。
あの日、あの男の子に出会うことがなければ私は料理なんてやめているよ。
手を傷だらけにしながらも、お客さんのため、妹のために料理をするあの子は多分、世界一の料理人になるだろう。」

私は、自分が尊敬する人が尊敬する人に会いたくなった。
それから、時間を調整してやっと日本にやってきた。


私は町を歩き続けてやっと目的の店まで来た。
見た目はフランスのレストランと比べてもパッとしないものだった。

しかし、並んでる人の数が半端ではない。
行列が3時間待ちと言われるのもわかる。
サラリーマン、老夫婦、家族連れと色んな客層が見られた。

とりあえず私も列に加わる。
なんと列の最後尾。もう、閉店間際なのか、私の後ろにはその後誰も並ばなかった。

とりあえず、店の内部が少し見えるので目を凝らしてみる。

料理をしているのは、若い男の子のようだ。
年齢は多分、高校生くらいだろうか?
厨房はどうやら1人らしい。1人でこの人数の客に料理を出しているのに私は驚いたが、早いだけでは評価にも値しない。
実際に早いだけの店なんて、私はいくつも潰してきた。

さらに、給仕の人も1人らしかった。こちらも高校生くらいの女の子で、男の子と顔が似ているため、私は兄妹だとわかった。この店は2人でやっているようだった。

それからも様子を確認していたが、私はあることに気がついた。

それはお客さんたちの表情だった。店の前に並んでいる人たちは、店内から漂う香りに期待に胸を膨らませて入る前からニヤニヤしている。

店内で待っている人は、ときに兄妹の子たちと会話をしながら笑っており、料理を食べている人は、その味に幸せそうな顔をしていた。

食べ終わった人は、また来ると伝えて、暗くなった道を笑顔で帰っていくのだった。

気がつくと私以外のみんなが笑っていた。
兄妹の2人まで、忙しいとは感じられないくらい楽しそうだった。

そうしているうちに私の順番が回ってきた。

私が中に入ると給仕の女の子が話しかけてきた。

「いらっしゃいませ、えっと、日本語わかりますか?」

見た目で日本人じゃないとわかったからだろう。
しっかりと確認をしてくれていた。

「だいじょうぶよ。ありがとう。」

私は素直に感心した。
普通、入ってきた外国人にはわざわざ声をかけない。
先に案内して、それで終わりだ。

私は料理をしている男の子の前のカウンターに案内された。

すると、男の子が話しかけてきてくれる。

「いらっしゃいっ!初めてのお客さんですね。僕はここの店を切り盛りしてる店長のソラです。今日はお客さんが最後ですから、多少時間がかかってもいいので、食べたいものをなんでも言ってくださいね。」

そういって、男の子はまた、料理を始めた。
私は、その姿に恥ずかしながらも尊敬するフランスの日本人シェフの言葉を思い出した。

…あの男の子に出会わなければ、私は…

男の子ははっきりいってカッコよかった。
料理の腕もそうだが、なんといっても料理に向かう姿勢だった。

すごく楽しそうだった。
作る量は多い。手伝ってくれる人はいない。そんな状態でも男の子は、手を抜くことをせず、一生懸命で、何より楽しそうだった。

そんな姿に目が離せなくなって、視線に気付いた男の子は私に聞いてきた。

「あっ!決まりましたか?すいません、気づかなくて。」

「い、いえ、大丈夫よ。
そうね、それなら、…私、フランスから来たのだけど、あなたにお任せしてもいいかしら?」

と少し、試す気待ちで意地悪をしてみた。
食の本場、フランスから来たと言われればプレッシャーになると私は思った。

すると男の子は少しだけ、驚いたような顔で

「フ、フランスからですか?そんな遠くからうちに来てくれるなんてうれしいですね。
期待に応えられるかわかりませんが、精一杯やりますね。少しお時間いただきますね。」

「ええ、大丈夫よ」

、とすこし恥ずかしそうな顔をしながら作りはじめた。

私は意地悪も通用せず、諦めて待つことにした。

そして、お客さんが私以外にいなくなり、私が女の子と少し話しながら待っていると、

「お待たせしました。時間かかってすいません。
でも、味は保証しますよ。」

と言って、皿を一つ私の前に置いた。

「これは、ラタトゥイユよね?家庭料理じゃない…」

そう、男の子が出したのは新鮮な夏野菜をハーブなどと一緒にワインで煮込んだフランスの過程料理、ラタトゥイユだった。

私はお任せするといった手前、怒ることは出来ず、しぶしぶラタトゥイユを口にするのだった。

しかし、口に含んだとたん、私は体の内側から暖かくなるのを感じた。
夕方からしばらく並んだため、少し身体が冷えていたため、ラタトゥイユの暖かさがしみる。

しかし、それだけではなかった。

私は、仕事がらフランスの人気料理店ばかりを食べ歩き、評価をしていた。だからというわけではないが、わたしがラタトゥイユを口にするのは家を出て以来だった。

私は美味しさもさることながら、この料理にどこか懐かしくなり、冷え切っていた心も暖かくなった。

気付けば、私は涙が溢れていた。

正直、ラタトゥイユがこんなに美味しいと思わなかった。

私はなぜこの料理を選んだのか聞いた。

「どうして、…この料理を私に、」

「…逆に聞きますね。」

質問しているのは私なのに、と思ったが素直に言うことをに耳を傾けた。

「ええ、」

「あなたにとって美味しい料理ってどんなものですか?」

「えっ!?」

私は評論家の自分にそんな質問をしてくる男の子に驚いた。

「そ、そうね。やっぱりバランスかしら。見た目、味、香り、そして、食材かしら?フランスのお店はそういったバランスのいい料理が多いわよ。」

「…まるで評論家の人のいいそうな意見ですね。
…なるほど、あなたにとって料理とはそういうものですか。それは料理ではなく、作品っていうんじゃないですか?」

その言葉に私は腹が立った。
こんな子供にバカにされる覚えはないし、評論家としてのプライドもある。こんな子供より美味しさもわかっているつもりだった。

私はたまらず聞き返した。

「なら、あなたの美味しい料理ってなんなの?」

すると少年は恥ずかしそうにしながら答えた。

「やっぱり、愛情ですねぇ。」

私の怒りは止まらない。

「そんなわけないでしょ。愛情がこもってたって不味かったら、お客さんはこないわ、あなたはプロじゃない。そんなふざけた考えで料理を出すんじゃないわよ」

「なにも、ふざけてなんかない。
僕も、妹から学んだことなんで、そんなにたいそうなことは言えません。でも、ぼくは昔、料理が下手でした。でも、妹と2人しかいないから僕が料理を作らないといけなかった。

はじめは、何もうまくいきませんでした。包丁もろくにつかえず、作れる料理は黄身の崩れた焦げた目玉焼きくらい。

流石に僕も、それしかできなかったときは、外食にしようと、妹にいいました。

でも、妹はそんな僕の前でさらに乗った目玉焼きを食べはじめました。
まずいと言いながらも、少しも残さず食べてくれましたよ。」

私はただ、黙って聞いている。

「僕にはその時の妹の気持ちはわかりません。
でも、未だに妹はあの時の味は一生、忘れないそうです。
ぼくも、外食なんて行きません。
べつに、外食がまずいというわけではないです。

でも、僕は外食で食べる華やかな料理よりも、妹が僕のために野菜をちぎって盛り付けただけのサラダの方が100倍美味しいです。」

わたしは、彼が何を言いたかったのか、少しだけ理解できた。

だから、彼は料理を作りながらもお客さんと会話し、一人ひとりにできるだけあった料理を作ろうとしたのだ。

だから彼は私に最初、こういったのだ。

…はじめてのお客さんですね、と

これだけ人が並ぶ店で人の顔を覚えるなんて到底できることではない。
でも多分、この男の子は来た人を忘れないのだろう。

「では、最後に聞かせてください。貴方にとってラタトゥイユはどうでしたか?」

そう、ラタトゥイユはただの家庭料理、でも…

「美味しかったわ、あなたのは私の母の次にだけどね」

私はそういって、席を立った。
皿の中のラタトゥイユはすでになかった。

「そうですかっ、わざわざ来てもらえてよかったです。今日は怒らせてしまったようですが、もし、また来てくれるなら、必ず笑わせられる料理を用意します。」

私は、少し顔を赤くして、

「…ま、また きてあげるわ」

といって、帰っていくのだった。






「そうか、リトルシェフにあったか…。」

私はそれからフランスに返ってきた。
今は、日本人シェフの店にご飯を食べに来ている。

「ええ、会ってきました。リトルっていう感じではなかったですけど。」

「そうかぁ。で、料理はどうだった?」

「そうね、私、評論家やめようと思うの。多分、あの料理を味わってしまうと、他の料理を食べても美味しくないかもしれないもの。」

「それはたいへんだなぁ。で、そんなお前がうちにメシかい?」

「ええ、美味しいものを食べさせてちょうだい。」

「そいつは難しそうだなぁ。で、なににする?」

「それはもちろん、お任せでっ!」





のちに、セシリーはこう語る。

…私は日本のある町の食堂で世界一の『料理』にであった。それからというもの、私はどのお店に行っても満たされない。なぜなら、あなたたちのは、すべてきれいな『作品』でしかない。
そんなものは美術館にでも出しておきなさい。そんな、飾りの力を身につける時間があるなら、客を触れ合い、知りなさい。あなた達の料理を食べる人を!
私は、『料理』を食べさせてくれたあの少年を評価する。
ただ…、星を3つまでしかつけてあげられないのが悔しくてたまらない。

またいづれ、足を運ぼう。


最高の『料理』を食べに…


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