番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織

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第1章

2 変わらないふり

 俺の検査結果はアルファだった。
 だからどうってわけじゃないけど、周囲の目は明らかに変わった。

 陽には、まだ言ってない。
 オメガなんだろうな、とは感じてたから、本人の口から聞くまでは黙っておこうと思ってた。

 でも──さっき、陽が泣きながら「オメガだった」って言った時、俺は言えなかった。
「オメガになんかなりたくなかった」って、あんな顔で言われたら。

 本当は、「俺、アルファだったよ。……番になれるな」って、冗談みたいに言うつもりだった。
 陽がオメガを嫌がってさえいなければ。

 ……今は、ちょっと言い出しにくい。


 ****


 オメガだと打ち明けられた、翌日。


 落ち込んでいるかと思った陽は、拍子抜けするほど、いつも通りだった。

「オメガだって、落ち込んでたらダメだよな」
「まだ判定されただけで、体が急に変わったわけでもないし」

 口ではそう言っていたけど、無理して明るく振る舞っているのは見ればわかる。

 ただ、同じサッカー部のアルファたちに、身体的な差を感じているらしく、

「今日から走ろうと思ってる」

 そう言った陽は、少し笑っていた。

 夜に一人で? それとも、人が多い休日に?
 不安になった俺は、思わず口にしていた。


「じゃあ、俺も一緒に走るよ」


 陽は、驚いたように目を見開いたあと、少し笑って「ありがとう」と言った。

 ふと、視線が陽のうなじに吸い寄せられる。
 街で見かけるオメガたちは、みんなネックガードをつけている。
 自分の意思とは関係ない番契約を避けるため――陽も、そのうち付けるんだろうか。

 そんな俺の視線に気づいたのか、陽が首元に手をやった。

「……ネックガードのこと、考えてた?」
「……あ、いや……」

 陽は、困ったように笑った。

「俺、まだ周りにオメガだって知られたくないんだ」
「もう少しだけ、普通に生活したい。高校も始まったばかりだし……」
「サッカーだって、オメガだって知られたら……レギュラーになれないかもしれないし……」

 最後の言葉は、掠れるような声だった。

「…そっか。陽の思う通りにしたらいいよ。俺は、協力するから」

 その横顔を見つめながら、心の奥でそっと決意する。


 ――陽を守りたい。
 陽が「普通」でいられるように。


 陽とは同じ高校だけど、クラスは違う。
 俺は特進クラス、陽は進学クラスだ。
 特進は2クラス、進学は5クラスあって、教室も少し離れている。

 俺の席の前後には、同じαのやつがいて、自然と仲良くなった。
 休み時間は、その二人や女子たちに話しかけられることも多い。

 ……でも。

 朝の陽の様子が気になって、つい、陽のクラスを見に行ってしまった。
 ――自分でも、過保護だなって思う。

 廊下側の窓から、教室の中をそっと覗いた。
 陽は、新しくできたらしい友達と、笑いながら話していた。

 ――よかった。

 いつでも一緒だった幼い頃とは違う。
 陽には陽の世界がある。
 寂しく感じるけど、それを大事にしたいと俺は思ってる。

 元気そうな様子に安心して、俺は教室へと戻った。



 そして、夜。

 一緒に走ると言っておいて、正解だった。
 陽の体からは、ほんのりと甘い香りがする。
 本能的にそれに反応するやつは、少なからずいる。

 途中、自販機で飲み物を買いに行っている間、
 陽にはベンチで待っていてもらった。

 買い終えて振り返ると、見知らぬ男が陽に声をかけていた。

 慌てて近づいて声をかけると、男は気まずそうに苦笑して言った。

「……あ、友達がいたんだ。じゃあね」

 そそくさと立ち去る様子に、正直――気味が悪かった。

 陽に何を言われたのか聞くと、あっけらかんとした顔でこう返ってきた。

「え? 『何してるの?』って聞かれただけだよ」
「別に変なこと言われてないし、大丈夫」

 いやいや、どう見ても怪しかっただろ……。

 家に戻ってから、陽と練習について話し合った。

「走るだけじゃなくて、家でボールを使った基礎練もやった方が良い」
「平日夜は家の前で練習して、休日は明るい時間に走ろう」

 俺の提案に、陽は素直にうなずいた。

 ――陽はまだ、自分がオメガだという自覚が薄い。
 自分が襲われるかもしれないなんて、思ってもいないのだろう。

 だからこそ、俺が少しでも不安要素を取り除きたい。
 陽が悲しまないように。
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