番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織

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第1章

10 俺で、安心した?

 体育祭の日は部活もなく、珍しく早く帰れる日だった。
 俺も陽も、クラスの友達とそれぞれ下校していったけど——

 でも、やっぱり陽と話したくなって、「途中から一緒に帰らない?」ってメッセージを送った。
「わかった」って、すぐに陽から返信が来た。
 コンビニで待ち合わせることに決まった。

「蓮!」

「陽、お疲れさま。リレー、凄かったね」

 陽にコンビニで買ったドリンクを渡す。

「おお、ありがと!あれ、やばかっただろ? 抜いた瞬間、めちゃくちゃ気持ち良かった!」

「本当に凄かったよ。かっこ良かった」

「だろ? てか蓮も良かったよ。部活対抗リレー。弓道着、めっちゃ似合ってたし、構えた時のやつ、かっこ良かった!」

「本当か?あれ、変じゃなかったか?」

「あぁ、めちゃくちゃ良かった! 蓮が構えた時、歓声すごかったけど、気付かなかったのか?」

 陽は、いつもの明るい声で笑った。
 自分では無駄に思えていたことも、陽が「良かった」って言ってくれるだけで、全部報われた気がした。

 ほんの少し話せただけで、こんなに幸せになれるなんて。……俺、単純すぎるかも。

 ****

 体育祭は終わったのに、陽と一緒に帰れない日が時々あった。
 そういう日に限って、翌日、陽からアルファの香りがした。
 香りがするたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

 陽の次のヒート予定日が近いのは分かってた。だからこそ、俺は焦っていた。

 俺から話そうとしても、はぐらかされたり、話題を変えられてしまう。
 聞きたい。でも、聞いたら終わる気がして怖かった。

 もしかして、次のヒートの相手は、そのアルファなのか?

 今朝もアルファの香りがした。
 そして、その日の下校中、ついに我慢できなくなった俺は口にしてしまった。

「次のヒートは、他のアルファに相手してもらうのか? 陽のクラスにいるアルファ?」

 言ってしまってから、すぐ後悔した。陽の眉間にしわが寄る。

「は? 何言ってんの? ……蓮には関係ないだろ」

「……関係なくないよ。俺は――」

「関係ないんだって! 何なんだよ…! もう迷惑かけないって言っただろ!」

「俺が……いつ、迷惑って言ったんだよ! 決めつけるなよ!」

 思わず大きな声が出た。陽が驚いて目を見開く。

「頼ってほしいって思っちゃダメなのか!? なんでそんなに頑ななんだよ!」

「頑なにもなるだろ! 蓮こそ、自分が何言ってるか分かってんのか!? 俺と、っ……」

 陽はそれ以上言えず、目に涙を浮かべた。
 その姿を見たら、俺の声もしぼんだ。

「……わかってるよ」

 陽は涙を拭きながら、首を横に振った。

「わかってない。……それに、もうこの話は終わりって言ったよな」

「嫌だ。終わりにしないで」

 このまま終わったら、陽は他のアルファのもとへ行ってしまうのか? 俺じゃなくて?

「蓮……なんで、お前が泣くんだよ」

「……ごめん」

「わかったから。少し、落ち着こう」

 俺が泣いたことで、陽の涙は引いて、少し冷静になったみたいだった。

 ***

 俺たちは近くの公園に移動した。
 陽が「人多いから、ちょっとあっち行こう」と言って、人気のない静かなベンチへ向かった。

「蓮には言ってなかったけど、次は……そういう施設に行こうと思ってる。本当は前も行くつもりで……でも、突然のヒートで、俺が蓮に施設の紙を見せられなくて……だから」

「陽は俺に、施設の紙を見せたよ」

「見せてない。だから、蓮はホテルに――」

 陽は、ヒートの時のことを覚えてないのか……?

「陽は本当に見せてくれたよ」

「……もう、気遣うのはいいって」

「気遣いじゃなくて、本当に見せてくれたんだ。紙に書いてあったこと、言おうか?
『認定アルファのみ対応、医療支援も完備。オメガのための安心と尊厳を守る避難施設、緊急連絡先0120-XXX-XXX』」

 陽はカバンから紙を取り出す。
 文字を追うその目が見開かれ、やがて潤んだ。

「安心した?」

「あ、あぁ。……ちゃんと蓮に見せてたんだな」

「そうだよ。……俺が、ヒートの相手で……安心した?」

 陽の顔が一気に赤くなって、下を向いた。顔を隠すように。

「教えて、陽」

 顔を上げないまま、陽がぽつりと答えた。

「……安心した。蓮で……本当に……」

 声が震えていた。

「俺も、嫌じゃなかったよ。陽の助けになれて、嬉しかった」

 ――他のアルファじゃなく、俺で。

 陽は下を向いたまま黙っていた。

「次も、俺を頼って欲しい。俺じゃ、だめか?」

 もう一押しだ。陽が俺に頼れるように。

「陽、頼ってよ。俺は、陽に頼られたいんだ」

 陽がゆっくり顔を上げる。

「……本当に、いいのか?」

「いいよ」

「…じゃあ……頼む。でも、嫌になった時は――」

「ならないから。大丈夫」

 こうして、俺たちは2回目のヒートも、一緒に過ごした。
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