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第1章
13「良い匂い」の意味
下校中、陽がぽつりと口を開いた。
「なぁ、アルファにとってオメガって、良い匂いなのか?」
「さぁ……相性もあるし、人によるんじゃない?」
「そっか……」
まだ腑に落ちていない様子で、陽は小さくうなずいた。
「どうしてそんなこと、気になったんだ?」
「いや、なんとなく、かな……」
(……誰かに言われたのか? 陽のクラスのアルファも前にそんなこと言ってたな)
「まぁ、少なからず好意があるときに言うんじゃないかな?」
「そっか……。それって友情的に“好き”な場合でも、使う?」
「まぁ、広い意味で言う人も、いるかもね」
「……一応、聞くけど。蓮は俺の匂い、嫌じゃない……よな?」
その一言に、ドキッとした。
(嫌なわけ、ない)
「うん…嫌いじゃないよ」
(――好きだよ)
けれど、それを今の陽に伝える勇気はなかった。
「そっか……良かった」
陽がほっとしたように笑った。その笑顔を見られただけで、俺の胸はじんわりと熱くなる。
「実は今日、先輩に“良い匂い”って言われて。それで気になったんだ」
さっきまでほんのり温まっていた気持ちが、急速に冷静さを取り戻す。
「……先輩にオメガだって話したの?」
「いや、言ってない。“無理に答えなくていいよ”って言われた……たぶん、ネックガードしてない俺を気遣ってくれたんだと思う。でも、“良い匂いだと思うよ”って言ってて……」
(やっぱり、あの先輩……陽と距離を縮めようとしてる…)
陽の言葉から察するに、その「良い匂い」は、恋愛的な意味合いを含んでいた気がする。
「先輩がどういうつもりで言ったのか、俺には分からないな」
(陽に、俺の嫉妬や不安を植え付けるようなことは、言いたくなかった)
「そうだよな。俺も分かんない」
そう言って笑う陽の鈍さに、今だけは救われた気がした。
***
夏休みに入り、お互いに部活や大会、夏期講習と忙しくなり、ほとんど会えなくなってしまった。
たまにある休みも、陽の部活とほぼ被らなかった。
ただ、毎日連絡は取り合っていた。ほとんどが俺からだけど。
今日は陽の部活が休みの日だ。
部活の休憩中、「今日は何してるの?」とメッセージを送ってみた。
『部活の先輩にご飯に誘われて、ファミレスに来てる』
「先輩って、3年生?」
『そうだよ。サッカー部で来れる奴に声かけたんだって』
『サッカー部じゃない人も何人かいるけど』
『この後カラオケ行く』
……なんとなく、あの先輩がいる気がした。
でも、それは聞けなくて。
「そうなんだ、楽しんできてね」とだけ送って、スマホを伏せた。
****
「いつも大勢でいて、あんまり話できないから、2人でご飯行きたいって」
今日は数少ない、陽と休みが重なった日だった。
陽の部屋で一緒に動画を見ながら、最近のことを話していた。
やっぱり、あの先輩——広瀬先輩と会っていた。
しかも、2人で遊ぶようにもなってるらしい。
胸がチクチクする。
陽が無邪気に先輩との出来事を話すたび、ざらついた感情が喉の奥に引っかかるようだった。
「先輩はアルファだよね…」
「そうだけど?何?」
「陽は、大丈夫なの?」
陽はこちらを見て、ぽかんとして——そして、笑った。
「大丈夫だよ。広瀬先輩は高嶋先輩の友達だし。良い人だよ」
「そうだけど……」
——陽は、そう思ってるかもしれないけど。
俺の中では、「アルファとオメガ」という言葉の重さは、そんなに簡単に片付けられなかった。
「なぁ、アルファにとってオメガって、良い匂いなのか?」
「さぁ……相性もあるし、人によるんじゃない?」
「そっか……」
まだ腑に落ちていない様子で、陽は小さくうなずいた。
「どうしてそんなこと、気になったんだ?」
「いや、なんとなく、かな……」
(……誰かに言われたのか? 陽のクラスのアルファも前にそんなこと言ってたな)
「まぁ、少なからず好意があるときに言うんじゃないかな?」
「そっか……。それって友情的に“好き”な場合でも、使う?」
「まぁ、広い意味で言う人も、いるかもね」
「……一応、聞くけど。蓮は俺の匂い、嫌じゃない……よな?」
その一言に、ドキッとした。
(嫌なわけ、ない)
「うん…嫌いじゃないよ」
(――好きだよ)
けれど、それを今の陽に伝える勇気はなかった。
「そっか……良かった」
陽がほっとしたように笑った。その笑顔を見られただけで、俺の胸はじんわりと熱くなる。
「実は今日、先輩に“良い匂い”って言われて。それで気になったんだ」
さっきまでほんのり温まっていた気持ちが、急速に冷静さを取り戻す。
「……先輩にオメガだって話したの?」
「いや、言ってない。“無理に答えなくていいよ”って言われた……たぶん、ネックガードしてない俺を気遣ってくれたんだと思う。でも、“良い匂いだと思うよ”って言ってて……」
(やっぱり、あの先輩……陽と距離を縮めようとしてる…)
陽の言葉から察するに、その「良い匂い」は、恋愛的な意味合いを含んでいた気がする。
「先輩がどういうつもりで言ったのか、俺には分からないな」
(陽に、俺の嫉妬や不安を植え付けるようなことは、言いたくなかった)
「そうだよな。俺も分かんない」
そう言って笑う陽の鈍さに、今だけは救われた気がした。
***
夏休みに入り、お互いに部活や大会、夏期講習と忙しくなり、ほとんど会えなくなってしまった。
たまにある休みも、陽の部活とほぼ被らなかった。
ただ、毎日連絡は取り合っていた。ほとんどが俺からだけど。
今日は陽の部活が休みの日だ。
部活の休憩中、「今日は何してるの?」とメッセージを送ってみた。
『部活の先輩にご飯に誘われて、ファミレスに来てる』
「先輩って、3年生?」
『そうだよ。サッカー部で来れる奴に声かけたんだって』
『サッカー部じゃない人も何人かいるけど』
『この後カラオケ行く』
……なんとなく、あの先輩がいる気がした。
でも、それは聞けなくて。
「そうなんだ、楽しんできてね」とだけ送って、スマホを伏せた。
****
「いつも大勢でいて、あんまり話できないから、2人でご飯行きたいって」
今日は数少ない、陽と休みが重なった日だった。
陽の部屋で一緒に動画を見ながら、最近のことを話していた。
やっぱり、あの先輩——広瀬先輩と会っていた。
しかも、2人で遊ぶようにもなってるらしい。
胸がチクチクする。
陽が無邪気に先輩との出来事を話すたび、ざらついた感情が喉の奥に引っかかるようだった。
「先輩はアルファだよね…」
「そうだけど?何?」
「陽は、大丈夫なの?」
陽はこちらを見て、ぽかんとして——そして、笑った。
「大丈夫だよ。広瀬先輩は高嶋先輩の友達だし。良い人だよ」
「そうだけど……」
——陽は、そう思ってるかもしれないけど。
俺の中では、「アルファとオメガ」という言葉の重さは、そんなに簡単に片付けられなかった。
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