番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織

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第1章

15「好きだよ」の練習

 宿泊学習が終わった、ある日の登校中――

「え……何、これ?」

 陽が「渡したいものがある」と言って、1枚の紙を差し出してきた。
 可愛らしいメモ帳には、見知らぬ名前と連絡先が書かれている。

「同じクラスのやつの連絡先。渡してほしいって、頼まれてて」

「……なんで陽が?」

「あー……宿泊学習のとき、蓮に手振ってたの見てて。幼なじみだって話したら、それで……」

「……そうなんだ」

「そいつ、オメガって公表してて。だから、たぶん……。それでもし、付き合うことになったら」

「何言ってるの?」
 思わず、低い声が出た。

「あ……ごめん。連絡するかしないかは、蓮の自由だから。そいつにもそう伝えてあるし」

「……しないよ」

 俺が、陽にとって“ただの幼なじみ”でしかないんだと分かって。
 悲しさと、悔しさで、つい怒ったような口調になってしまった。

 ****

「……御門みかど、また何かあったのかよ? ため息すごいぞ」

 前の席の間宮まみやが、後ろを振り返りながら声をかけてくる。

「陽に……他のオメガの連絡先、渡された……」

「うわぁ……それは落ち込むかも」

 後ろの席の水瀬みなせが、苦笑いで言った。

「少し前までは幸せそうだったのになぁ。陽くん、なんでそういうことするかねぇ……」

「……もう、俺の気持ち、全然気づいてないんだろうな…」

「お前は優しすぎんだよ。俺なら、さっさと告るけどな。もう体は許してもらってんだし」

「おい、間宮、言い方」

 2人には、少し前に俺の早退や休みで、”オメガの為に休んでいる”とバレて、話していた。

「でも今は、ヒート以外は“ただの幼なじみ”の距離だし……」

 陽に言われた、あの言葉が胸によみがえる。
「距離が近いから、今まで通りにしてほしい」って――

「ならもう、言葉で伝えてみたらどうだ?」

「いきなり告白なんてしたら……」

「いきなり告るんじゃなくてさ。“一緒にいられて嬉しい”とか、“そういうとこ好き”とか。そういうやつ。そういうとこから始めてみたらって話」

「意外とまともなこと言うじゃん。良いと思うよ、蓮。やってみなよ」

「……言葉で伝える、か……」

 ****

 その日の帰り道、俺はさっそく試してみた。

 朝のことがあってから、帰りはどこか気まずい空気が流れていた。

「蓮……朝は、ごめんな……」

 陽が、下を向いたままぽつりと言う。

「……いや、いいよ。陽も友達に頼まれて、断れなかったんだろ?」

「それは……でも」

「もういいよ。怒ってない。それに……そういう陽の優しいところ、好きだよ。
 でも、次からは断ってくれると、助かる」

 これ、ほとんど告白みたいだな……。
 言ってから気づいて、急に恥ずかしくなる。

 陽は一瞬、目を見開いた。けど、すぐに視線を伏せてしまった。

「……蓮、ほんとごめん。もう、しないから」

 効果があったのかは、正直わからない。
 でも俺は、それからもめげずに伝え続けた。

「陽の、そういうところ良いよな」

「俺は、陽の素直なところ、好きだよ」

「陽って、そういうとこ……可愛いよな」

 もしかしたら、これもまた“距離が近すぎる”って思われてしまうかもしれない。
 陽が赤くなったり、恥ずかしそうに目をそらしたりするたび、少しだけ不安になる。

 でも、このままだと俺の気持ちは伝わらないまま、
 陽は、誰か別の人のもとへ行ってしまうかもしれない――

 それだけは、嫌だった。

 だから俺は、後悔しないように、言い続けた。

 ……そして、ある日。

「俺も、蓮の優しいところ……好きだよ」

「え……」

 驚いて、言葉を失った俺の目を見て、陽が顔を赤くする。

「あ……ごめん。最近、蓮がそうやって褒めてくれるから……なんか、言い方、いいなって思って。
 真似した。変だった、かな……?」

「……いや。全然……。変じゃないよ。……嬉しい」

 ほんとうに、嬉しかった。

 それからは、陽も同じように伝えてくれるようになった。
 まだ“付き合って”いるわけじゃない。けれど、相手の長所を「好きだ」と言い合う時間は、
 胸がむずがゆくて、でも、優しくて、嬉しかった。
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