番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織

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第2章

8 旅行・前編

 春休みに入ってすぐ、
 俺たちは電車で旅館へ向かった。

 平日だから、電車は満員に近くて、
 俺は陽のそばにいたかったけど、
 女子たちに囲まれて離ればなれになった。

 同じ車両にはいる。
 けど、やっと見えるくらいの距離だった。

「きゃっ」

「大丈夫?」

 電車がカーブでぐらりと揺れて、
 目の前の女子がよろけてきた。

 咄嗟に支えると、相手は恥ずかしそうに笑った。

「うん、ごめんね。ありがとう」

 俺は視線を向こうに向けた。
 陽の姿を探すと、伊吹が隣に立っているのが見えた。

 ……なんで、アイツと?

 しばらく見ていたら、伊吹が陽の手を引いて、
 ドアの近くへ移動していく。

 まだ降りる駅じゃないのに――どうして。

 そのうち座席が少しずつ空いてきた。
 俺は近くの女子に「座って良いよ」と促す。

 これでやっと陽のところに――
 そう思った、瞬間。

「御門君、荷物重いでしょ。持つよ~」

「え、大丈夫……」

「私は平気だから、ね?」

 座った女子が、俺の手荷物を取って、
 自分の膝に乗せてしまった。

 いや、それじゃ移動できないんだけど……
 ああ、もう。

「……ありがとう」

 仕方なくお礼だけ言って、
 陽のほうへ行くのは諦めた。

 ****

「疲れた……」 

 駅に着いて改札を出たあと、
 ベンチに腰を下ろすと、思わず声が漏れた。

 立ちっぱなしで、変に気も遣って、
 正直ぐったりだ。

「蓮、大丈夫か? ずっと立ってたもんな」

 声をかけてきたのは陽だった。
 目が合って、少し安心する。
 陽の声に、ようやく力が抜けた。

「ちょっと待ってろ。……おい、伊吹!」

 陽が伊吹を呼び止めて、何か話している。
 伊吹がちらっとこっちを見る。

 ……なんなんだ、さっきから。

「おい、俺らは先行くぞ!」

「え~、なんで御門君は~?」

 女子たちが不満そうに言うのを、
 伊吹が軽くなだめながら去っていった。

 代わりに、陽が戻ってくる。

「少し休んでから行こう?伊吹には話したから。
 さっき電車の中で旅館の場所聞いてたんだ。
 住所も送ってもらったし、急がなくていいよ」

 俺は頷いた。陽の優しさが嬉しい…。

「……陽、ゆっくり行こう?」

「あぁ、もちろん」 

 そのまま陽と二人で、駅の土産屋をぶらぶらして、
 道端の風に吹かれながら、
 俺たちはゆっくり旅館へ向かった。

 陽と二人で歩く道は、静かで落ち着いていて、心地良かった。
 民家と、少し早咲きの桜の木がぽつぽつ並んでいる。

 陽は普通に話してくれるけど、
 俺はずっと、電車でのことを考えていた。

 ……伊吹と陽が急にドアの方へ移動したこと。

 きっと何か理由があったんだろうけど、
 聞くのは、やめておいた。

「着いた。ここだよ、旅館」

 陽の声に顔を上げると、
 落ち着いた木造の門が見えた。

「すご……写真より、ずっと良いな」

「ほんと、凄いな…」

 ****

 玄関でスリッパに履き替えて、フロントで部屋を聞く。

 男子は三人ずつ、二部屋に分かれていて、俺は――

「……伊吹と、陽?」

「はい。お二人とも同じお部屋ですね。ご案内しますので、こちらへどうぞ」

 思わず声が漏れそうになったけど、なんとか飲み込んだ。
 部屋割りは【御門・伊吹・陽】【桜庭・青木・福田】となっているらしかった。
 案内されて部屋に着くと、伊吹が先にくつろいでいた。

「やっと来たか。体調はもう平気か?」

 伊吹が声をかけてくる。

「あぁ、悪かったな」

「いいって。女子の勢いが凄かったからな。なんか気の毒だったわ」

 伊吹が女子たちの相手をしてくれたし、少し大変さを分かってもらえたのかもしれない。

「とりあえず10分後にロビーに集合で良いか?昼めし食いに行こうぜ」

「あぁ、わかった」

 ****

 ロビーに行くと、全員そろっていた。

「あ!御門君、大丈夫?」
「無理しないでね~」

「う、うん。ありがとう」

 笑顔を浮かべるけど、身体は陽の後ろに逃げてしまう。
 そんな俺を見て、陽は笑っている。

 そして、ランチに行く途中も、店内でも、女子の壁が厚くて、なかなか陽の隣に行けない。
 陽は普通に友達と喋って楽しそうにしているし…。

 ランチの後も、投稿サイトに載ってるお店に行ったり、色々見て回った。
 食べた後はアスレチック施設に行って、身体を動かした。

 そして、辺りがだいぶ暗くなってから、旅館に戻ってきた。
 ロビーのソファに座ると、皆が一斉に話し出す。

「疲れたー!!」
「もう足パンパン」
「めっちゃ歩いたもんな」
「汗かいたし、風呂入りてー!」

「じゃあ、夕飯の前に風呂行くか?
 ここ露天風呂以外にも、洞窟風呂とか色々あるみたいだし」

「なにそれ、すげー楽しそう!」

「女湯の方は高級感にこだわった内装にしたって言ってたな」

「えー!楽しみ!私達も行こう」

「じゃあ、その後、飯も食い終わったら、部屋でゲームでもしようぜ」

 そう伊吹が言って、俺たちはそれぞれの部屋にいったん戻った。
 風呂か…。正直、落ち着かない。

「蓮?風呂、楽しみだな!」

 陽が笑顔をこちらに向ける。まぁ、良いか。今度は俺がそばにいられるし。
 脱衣所で服を脱いで、大浴場へのドアを開ける。

「すげー!」

 室内なのに大きな岩や草木が風呂の傍に植えてあり、外みたいな雰囲気だった。

 陽も俺も体を洗って、立ち上がる。
 その時、陽が足を滑らせて、身体が傾く。
 俺はとっさに手を伸ばした。

「おっと。大丈夫か?」

 陽の身体を受け止めたのは、俺じゃなくて、伊吹だった。

「あ、ごめん。ありがと、伊吹」

「良いって。怪我すんなよ。…今日も、良い匂いだな」

 伊吹が、うなじの匂いを嗅ぐように、陽に顔を少し近づけた。

「うっせ。セクハラで訴えるぞ。離れろ」

「なんだよ。誉め言葉だぞ」

「嬉しくないんだよ」

 慣れたように、伊吹をかわす陽。
 その様子に、もしかして匂いをかがれるのは日常なのか、と不安にさせる。

 その後、皆で湯に浸かっていると…

「陽、最近、つか少し前から痩せたよな?なんか華奢になったっていうか」

「まぁ…な、部活も辞めたし。筋肉は結構落ちたかも」

「華奢と言えばさ、ほら…桜庭。あいつオメガだろ。
 やっぱ、俺らとは違う感じするよな」

 少し声を潜めて、離れた所にいる桜庭を見ながら福田が言う。

「俺らベータには分かんないんだけどさ、やっぱ御門は、桜庭のこと抱きたいとか思ったりすんの?」

 急に話題を振られて、俺はドキッとした。
 陽の前でなんてことを聞くんだ…。

「思わないよ」

「えー?少しも?」

「少しも思わない。それに俺は、好きな子いるし」

「「えーーっ!?」」

 青木と福田の2人が同時に驚く。

「お前、それ早く言えよ。てか女子に言えよ」

「嫌だよ。面倒くさくなりそうだし」

「あー、それは確かに」

「え、じゃあ俺、頑張ろっかな」

「なに福田、あの中に好きなやついんの?」

「お前には言わねぇ。すぐ口滑らせそうだし」

 2人のやり取りに俺も陽も笑ってしまった。

「おーい!他の温泉もそろそろ行ってみないか?」

 少し離れた所から、伊吹が声をかけてくる。
 その後、俺たちは全部の温泉をまわって楽しんだ。
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