番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織

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最終章

2 俺の言えなかったこと、君の言えたこと

「御門さん、少し良いですか?」

 部活後、陽のいる図書室へ行こうとすると、部活の顧問に呼び止められた。
 男性で、物腰は柔らかいが芯があって、俺はこの先生を尊敬してた。
 「こちらへ」と促され、他の部員に会話を聞かれない場所まで移動した。

「御門さん。お付き合いされているオメガの方が、いらっしゃいますよね?」

 プライベートの話なんて一度もしたことがない先生から、そんな言葉が出てきて驚いた。

「すみません、立ち入ったことを。でも、定期的に休みを取っていますよね」

「…はい」

 何を言われるんだろうか?
 心臓がバクバクしていた。

「もし、オメガの方の為に休みを取っているなら、次の休みはよく考えてほしいんです」

「どういうことですか?」

 先生は、言いにくそうに視線を逸らす。

「このままヒートが定期的に来れば、次の大会と重なる可能性が高いのではないかと、心配しています。
 僕は、御門さんの挑戦する機会を減らしたくない。
 今、大会に出ないのは、もったいないと思っています」

「…」
 
 何も言えなかった。先生は俺のことを想って言ってくれてる。
 でも、…俺を頼ってくれる陽の顔が、頭に浮かぶ。
 俺がヒートの相手をしなかったら、陽はどうなるんだ?

「今回は、お相手の方に抑制剤でヒートの症状を抑えることを、勧めてみてはどうでしょうか?
 もちろん、お相手が良ければの話ですが…。
 でも、きっとお相手も御門さんが大会に出ないのは望まれないと思います」

 確かに、陽は自分のヒートのせいと知ったら、悲しむかもしれない。
 でも、何で先生は、俺の相手が抑制剤を使ってないと思ったんだ?
 もしかして、先生は相手が陽だと知っている?

「お相手と、よく話し合ってみて下さい」

 そう言い残して、先生は静かに去っていった。
 大会と、陽。どちらを優先させたいかなんて決まってるけど…。

 帰り道、俺はどう切り出して良いか分からずにいた。

「蓮、なんかあった?」

「いや、何もないよ。どうして?」
 
「なんていうか、さっきから上の空って感じで…」

「ごめん。…大会前で、練習が少しきつかったんだ」

「そっか。もうすぐ大会か。頑張れよ」

「うん…ありがとう」

 陽ならきっと、笑顔で「わかった。大会頑張れよ」と言う気がした。
 でも、結局その日は言い出せなかった。

 そして、日曜日。
 約束のネックガードを買いに行く日がやって来た。

 雑貨屋や、服屋にもネックガードは置いてあったけど、
 陽と俺が気に入ったのは専門店のネックガードだった。

「高いな…」

「うん、でも俺もこれが陽に似合うと思う」

 ショーケースの中には真ん中にゴールドのリングが付いた皮のネックガードが飾ってあった。
 外側は皮だが、中は金属で出来ていて、ロックはスマホで管理するものだった。
 色もブラックにネイビー、ベージュ、オレンジ、モスグリーンなどバリエーションも豊富だ。

「俺も出すよ」

「え、でも…」

「俺にも関係あるから、良いよ。二人で買おう」

「でも、合わせても足りないかも…」

 そんな風にショーケースの前で言いあっていると、男性店員が近くに来た。

「こんにちは、気に入ったものはございましたか?」

「あー、これなんですけど。でも、俺にはちょっと高くて…」

「これカッコいいですよね。…お2人は恋人同士ですか?」

「は、はい…」「…はい」

 他の誰かに言ったことは無かったので、ドキッとした。

「まだ学生さんですよね?今は雑貨屋で簡易的なものを買う方も多いのに。
 お互いを大切に想っていて、素敵ですね」

 その言葉に、思わず嬉しくなった。

「ちょうど今月は春の学割キャンペーンやってますので、少しお得になりますよ。
 試着だけでも大丈夫ですので、いつでも声かけてくださいね」

「陽、試着してみよう?」

「あ、あぁ、そうだな。あの、じゃあ、お願いします」

 店員はにっこり笑って、「かしこまりました」と言った。
 白手袋をはめた店員が、ショーケースからネックガードを取り出す。
 それを、そのまま陽の首にそっと装着した。

 そのネックガードは、やっぱり陽に凄く似合っていた。

 結局、そのまま欲しくなって、俺たちは購入を決めた。
 値段は、更におまけしてもらえた。
 他にも、メンテナンスの割引券等などをもらって、俺たちは店を出た。

 色はネイビーを選んだ。
 黒は「いかにもネックガード」という感じで、陽の雰囲気にも合わなかった。
 購入したネックガードを、早速付けることにした。

「俺が付けても良い?」

「あぁ、頼む」

 ネックレスを付けた時と同じように緊張した。
 ゴールドのリングにパーツを差し込み、「カチッ」と音が鳴る。

 スマホにアプリをインストールして、購入したネックガードのコードを打ち込む。

 コードが認証されると、今度はパスワードを決める画面が表示される。

「見るなよ」

「あ、ごめん」

 スマホの画面から視線を外す。

「…出来た!蓮、もう良いよ」

 俺は視線を戻して、またスマホを見た。画面には、
「ロックがかかっています。解除するにはパスワードを入力してください」
 と表示されていた。

 陽が自慢げに笑う。

 ーーこれで本当に、他のアルファに奪われることは無いんだ。
 ネイビーのネックガードが、とても頼もしく見えた。

 日が沈んで、辺りはすっかり暗くなっていた。
 夕飯は家で食べると親に伝えていたので、俺たちはそのまま家に帰ることにした。

「俺さ、福田と青木に、オメガだって話したんだ」

 帰り道、陽がぽつりと言った言葉に、俺は驚いた。

「そうだったんだ…2人は、なんて?」

「驚いてた。でも、薄々感じてたみたいで…」

「…そっか」

 旅行中も陽のことを華奢になったと言ってたしな…。

「2人ともさ、オメガでも、友達なのは変わらないって言ってくれて…嬉しかった」

 陽の声が、ほんの少し震えていた。

「ほんと、蓮のおかげだと思ってる」

「俺は、何も…」

 陽が首を振った。

「蓮が傍にいてくれるって思ったら、なんか勇気が出てきて…。だから、ありがとう」

 返事の代わりに、俺はそっと陽の手を握った。
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