番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~

伊織

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最終章

12 最後のお願い

「俺じゃないって決めるなら、それでもいい。
 でも、明日だけは、俺と話してほしい」

 篠原に聞いたこともメッセージに入れた。
 そして、陽からはその日の夜に、返事が来た。

「わかった」

 それだけだった。その後に、時間を決めるやり取りをした。
 篠原に返事をする日は、明後日に迫っている。

 夕方、部活が終わって家に帰った後、シャワーを浴びて着替えた俺は家を出た。
 陽の家のチャイムを押すと、中から七海ちゃんが出てきた。

「七海ちゃん、こんにちは。陽を読んでもらえる?」

「うん、ちょっと待ってて」

 そう言って、七海ちゃんはまた家の中に入っていく。
 少しして、ドアが開く。
 出てきた陽は淡いブルーのサマーニットに黒デニムというシンプルな格好だった。

 でも、首には俺がプレゼントしたリングのネックレスをしていて。
 ただのファッションで付けてるだけかもしれない…。
 でも、俺はほんの少しだけ期待してしまった。

「蓮、話したいことって?」

「ここじゃ話しにくいから、…そこの公園に行かないか?」

 陽の体が一瞬、固まる。
 外に出るのは、ダメなのか? それとも、俺と2人になりたくない?
 沈黙する陽。
 玄関の中から様子を見ていた七海ちゃんが声をかけてくる。

「七海が一緒に付いて行くよ!蓮君が変なことしないように」

「お、俺!?」

 七海ちゃんの言葉に苦笑いする。
 そのまま七海ちゃんは玄関で靴を履き、陽の体を押す。

「おい、七海…」

「いいから、行こうよ。早くしないと、暗くなっちゃう」

「陽、大丈夫。本当に話すだけだから。
 それに、何かあったら俺が守るから」

 陽は答えず、俺から視線をずらした。
 その様子に俺は切なくなる。

「…蓮君、七海もいるからね? 女の子だからね?」

「七海ちゃんも守るよ」

 七海ちゃんの存在に、空気が和む。
 付いてきてくれて、良かったかもしれない。

 公園について、木陰のベンチを探す。
 夕方でも暑いので、人は多くない。
 陽と七海ちゃんに自販機で飲み物を買い、ベンチに移動した。

 俺と陽は同じベンチに。七海ちゃんはその隣のベンチに。
 七海ちゃんはスマホをすぐにいじり始める。

 沈黙の中、俺が最初に口を開いた。

「篠原さんて、どんな人?」

「…優しい人だよ。俺のこと気にかけてくれて」

「そっか…、あの人に、酷いことされてない?」

「されてないよ。それに、篠原さんの家で過ごしてる時は、
 そういうこと1度も無かった」

 陽がはっきり答える。
 それを聞いて、俺は安心した。

「どうして、あの人の家に行ったか、聞いても良い?」

「それは…」

 陽が、続きの言葉を言わない。

「無理に言わなくて良いよ。ごめん…知った時に、凄く寂しかったから、
 知りたかっただけ。陽を責めてはいないんだ」

 少し沈黙が落ちた。

「…俺が、弱かったから」

 陽がぽつりと話す。

「俺を知ってる人のいない所へ、行きたかったんだ」

「…そっか」

 それじゃあ、俺じゃ駄目じゃないか。
 陽の中に「俺」っていう選択肢は無くて…。

「篠原さんのマンションにいる時、居心地よかったんだ。
 甘えてるって分かってたけど、今の俺で良いって思ったら
 安心して、呼吸がしやすくなった」

「うん…そっか」

 話を聞きながら、陽の存在がどんどん遠くなっていく感じがした。
 あぁ、本当に俺はもう、陽の番にはなれないんだって思った。

「…最近は、蓮の気持ちに応えられなくて、苦しくなる時があるんだ。
 でも、篠原さんといると、落ち着くっていうか…」

 篠原のことを思い出しながら、話す陽は穏やかに笑ってた。
 今の陽は、保健室で話した時より元気そうで。
 そうさせたのが、あの人なのは悔しいけど…。
 でも、陽が幸せなら…。

「蓮が色々してくれたのは、分かってるけど…」

「…俺は自分の為にしたんだ。だから、陽は気にしなくて良いよ」

 それは本音だった。
 陽と一緒にいたかったから、嫌がらせのことを解決したかった。
 思い通りには、いかなかったけど。

「ありがとう、蓮。今まで、本当に…」

 陽がやっと俺の目を見てくれた。
 ここで泣くのはカッコ悪いから、俺は涙が上がってくるのを耐えた。
 陽が幸せになれるなら、俺は引ける。

「俺も、ありがとう。陽と一緒にいられて、嬉しかった」

「蓮と、今日話せて良かった。メッセージくれて、ありがとう。
 …俺、篠原さんの番になろうと思う」

 改めて言われると、胸の辺りが重たくなった。

「うん、幸せになってね、陽」

「あぁ」

 そう言う陽の笑顔は、まぶしかった。
 その笑顔は、もう俺のものじゃないと突きつけられるようで、息が詰まった。

 その後、陽と七海ちゃんを家まで送り届けてから、自分の家に帰った。
 自分の部屋のドアを閉めて、その場に座り込んで…泣いた。

 これで本当に、終わったんだ。

 ――やっぱり俺は、陽が好きだった。
 笑ってくれてよかった、なんて思いながら、涙が止まらなかった。
 会えたことだけは、間違いじゃなかったと思いたい。
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