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第二章 従う事への教育
雇用契約書(1)
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一人きりの朝食を終えたセレンティアは、特別に神への祈りを捧げる時間を取らせて貰ってから、補佐官の待つ公爵家の執務室の扉を開いた。
テオルースに会えない寂しさで涙が溢れ出てきてはいたが、いつまでも感傷に浸っていたら仕事にならない。
これからどんな仕打ちが待ち構えていても、貴族としての矜持を持ったまま毅然として受けなくては一年も耐えられない。
「改めまして、レイチェル家の執務や領地の管理を代行しております。カースティ・ウォムと申します」
「セレンティア・リグレットです。ウォムを冠するお方にご指導を賜る事が出来て、大変光栄に思います。不慣れのため、ご負担をかける事も有るかと思いますが、精一杯務めさせて頂きます」
伯爵位の上層に上がる場合に限り、名前の後ろにはウォムを付けた形での改名をするのがこの国の決まりだ。ミドルネームとして置けるのは、公爵や将軍に神官など、国の重要人物に限られる。
こんな所からも家格の違いを思い知らされ、セレンティアは冷や汗を流した。
「大いに期待しておりますよ、セレンティア殿。テオルース様の婚約候補はこれまでに何人かおりましたが、奥様からの推薦を頂けて、当家にお招き出来たのは貴方様が初めてです。
突然の指導や教育に、戸惑われる事も有るやもしれませんが、将来お住まいになるお屋敷の歴史や仕来りを学ぶのは、貴方様の社交の大きな力になる事でしょう」
カースティ補佐官の言葉に大きく礼を言い、席に促されたセレンティアは、複数ある雇用契約書へのサインを求められた。
「それから、制服のお支度も調っております。侍女のハーコートとフォーランがこれからの指導を行いますので、二階の衣装部屋へお連れしましょう。契約書は控えをこれからお住まいになる部屋に届けておきますので、後で彼女たちから場所を確認しておいてください」
「承知致しました。先輩方にお会い出来るのが、今から楽しみです」
ペンを手に取り、契約書の内容を読もうとした所で衣装部屋への案内が始まり、セレンティアは慌てて三枚の紙の定められた箇所にフルネームを書いた。
インクもまだ乾かない間に執務室から追い出される形となり、あまりの事に制止して契約書の確認をさせて貰おうと思っても、相手の話術に押し切られて、いつの間にか階段を駆け上がっていった。
もしかしたら、カースティ補佐官はせっかちな性格なのだろうか。公爵家の補佐官なだけあって、時間に厳しいのかもしれない。
考えを巡らせる間もなく小さな衣装部屋にたどり着き、扉を開けば二人の侍女がセレンティアに丁寧なお辞儀をして出迎えてくれた。
「彼女がレミエール・フォーラン。侍女としても数年勤めている、レイン侍女長の補佐役です。お隣がクロームファラ・ハーコート。まだ二年目ではありますが、針仕事や手作業が得意で、奥様からも目をかけられている秀才です」
「セレンティア・リグレットです。精一杯務めさせて頂きますので、ご指導の程よろしくお願い致します」
利発そうな少女は、田園を広く抱えたフォーラン侯爵の令嬢だろう。金色の髪を貴族としては珍しく短くしており、剣術か何か嗜んでいそうに見えた。
灰褐色の髪をウェーブにしたクロームファラは、貴族院でもかなりの上位となるハーコート侯爵家の令嬢。
単なる行儀見習いと言うよりも、この家はサロンも兼ねているとの話なので、レイチェル夫人の取り巻き的な役割のような気もする。
一通りの働き手たちの考察を行い、セレンティアはカースティ補佐官にお礼を言ってから先輩二人の指示に従って、衣装部屋の奥へと歩んでいく。
テオルースに会えない寂しさで涙が溢れ出てきてはいたが、いつまでも感傷に浸っていたら仕事にならない。
これからどんな仕打ちが待ち構えていても、貴族としての矜持を持ったまま毅然として受けなくては一年も耐えられない。
「改めまして、レイチェル家の執務や領地の管理を代行しております。カースティ・ウォムと申します」
「セレンティア・リグレットです。ウォムを冠するお方にご指導を賜る事が出来て、大変光栄に思います。不慣れのため、ご負担をかける事も有るかと思いますが、精一杯務めさせて頂きます」
伯爵位の上層に上がる場合に限り、名前の後ろにはウォムを付けた形での改名をするのがこの国の決まりだ。ミドルネームとして置けるのは、公爵や将軍に神官など、国の重要人物に限られる。
こんな所からも家格の違いを思い知らされ、セレンティアは冷や汗を流した。
「大いに期待しておりますよ、セレンティア殿。テオルース様の婚約候補はこれまでに何人かおりましたが、奥様からの推薦を頂けて、当家にお招き出来たのは貴方様が初めてです。
突然の指導や教育に、戸惑われる事も有るやもしれませんが、将来お住まいになるお屋敷の歴史や仕来りを学ぶのは、貴方様の社交の大きな力になる事でしょう」
カースティ補佐官の言葉に大きく礼を言い、席に促されたセレンティアは、複数ある雇用契約書へのサインを求められた。
「それから、制服のお支度も調っております。侍女のハーコートとフォーランがこれからの指導を行いますので、二階の衣装部屋へお連れしましょう。契約書は控えをこれからお住まいになる部屋に届けておきますので、後で彼女たちから場所を確認しておいてください」
「承知致しました。先輩方にお会い出来るのが、今から楽しみです」
ペンを手に取り、契約書の内容を読もうとした所で衣装部屋への案内が始まり、セレンティアは慌てて三枚の紙の定められた箇所にフルネームを書いた。
インクもまだ乾かない間に執務室から追い出される形となり、あまりの事に制止して契約書の確認をさせて貰おうと思っても、相手の話術に押し切られて、いつの間にか階段を駆け上がっていった。
もしかしたら、カースティ補佐官はせっかちな性格なのだろうか。公爵家の補佐官なだけあって、時間に厳しいのかもしれない。
考えを巡らせる間もなく小さな衣装部屋にたどり着き、扉を開けば二人の侍女がセレンティアに丁寧なお辞儀をして出迎えてくれた。
「彼女がレミエール・フォーラン。侍女としても数年勤めている、レイン侍女長の補佐役です。お隣がクロームファラ・ハーコート。まだ二年目ではありますが、針仕事や手作業が得意で、奥様からも目をかけられている秀才です」
「セレンティア・リグレットです。精一杯務めさせて頂きますので、ご指導の程よろしくお願い致します」
利発そうな少女は、田園を広く抱えたフォーラン侯爵の令嬢だろう。金色の髪を貴族としては珍しく短くしており、剣術か何か嗜んでいそうに見えた。
灰褐色の髪をウェーブにしたクロームファラは、貴族院でもかなりの上位となるハーコート侯爵家の令嬢。
単なる行儀見習いと言うよりも、この家はサロンも兼ねているとの話なので、レイチェル夫人の取り巻き的な役割のような気もする。
一通りの働き手たちの考察を行い、セレンティアはカースティ補佐官にお礼を言ってから先輩二人の指示に従って、衣装部屋の奥へと歩んでいく。
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