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第三章 侯爵令嬢としての心得
カースティ補佐官のレッスン(3)
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「——カースティ補佐官、お呼びでしょうか?」
2回丁寧なノックをしてから、薄茶色の髪を短く切り揃えた侍女が執務室に入ってきた。
知らない間にベルを鳴らして、呼んでおいたらしい。
「これからセレンティア様に、掃除やお手入れのレッスンを行います。酷く緊張しておられるので、グロウはまず、深い口付けの仕方から教えてあげて下さい」
「かしこまりました。セレンティア様のような高貴なお方のお相手を務められるとは……」
グロウと呼ばれた侍女は、腰を落としたままのセレンティアを支えて立たせ、深々とお辞儀をした。
「初日に、他の者達とお会いして以来となります。マリールシュラ・グロウと申します。どうぞ、マリーとお呼び下さい。
この度は当家の侍女と料理長が、セレンティア様にご無礼を働き、申し訳ございませんでした」
マリーは貴族としては少し高めのセレンティアより背が大きく、二人で並んでみるとダンスの練習相手にも最適だった。相手役となる事は本当に嬉しいようで、クロームファラ達のような愛想笑いとは違う、心からの微笑みをセレンティアに見せた。
「グロウは異性よりも女性を好む、少し変わった侍女です。テオルース様に懸想をする心配は一切ございませんので、安心して指導役を任せられます。それに、侯爵家の者ですから、他の侍女よりも遥かに格上ですので、諫言に惑わされる心配もございません。
私は監督役として、セレンティア様が落ち着くまで手を出さずにおります。…グロウ、セレンティア様は空腹でいらっしゃるから、何かお腹が満たされるように、指導しておあげ」
「かしこまりました。セレンティア様が女主人としてお勤め出来るまで、精一杯お仕え致します」
マリーは執務室から一度出て、黒い菓子箱や蜂蜜。水にタオルといった物を持ってきた。
まだ硬直して上手く話せないセレンティアの顔に濡れタオルを当て、髪に櫛を通して背中をさすっていく。
菓子箱を開けて、マリーは宝石のように小分けされて包まれた大粒のチョコレートを手に取って、口にそのまま含んでから、セレンティアの咥内に舌を差し入れた。
「……んっ、ぁ……んんっ…」
マリーの赤い舌を通して、甘い味が口の中に広がっていく。大きくなってからは、母親違いの弟や妹たちに取られてしまい、決して与えられる事など無かった、深い苦さと甘み。
嗜好品は義母が抑え、家格を考えない豪奢な茶会に使われていった。
「……甘い、美味しい。チョコレートって、こんなに心を震わせるお菓子だったのね」
「菓子箱はたくさんございますので、私と取り合いをしながら深い口付けを覚えて参りましょう。ご無礼を働くのを、どうかお許しください」
執務室の堅いソファーに座らされ、膝立ちのマリーによって二粒目のチョコレートが咥内に差し込まれた。女性同士という抵抗感は有ったが、甘い匂いと味わいに押し出され、セレンティアは自らマリーの舌を少しずつだか撫で始めた。
頭の奥が痺れてきて、鼓動が熱くなるのを感じる。さっきから訪れる眩暈は、花奴隷のクラレッテが言うには欲情によるものらしいが、女性相手にこんなにも心を捕らえられている自分が、どうにも信じられない。
「……どれだけ舌を使えば、よりチョコレートを味わえるのかを考えながら舌先を絡ませるのです。喉の奥や頬の裏側。自分がどこまで責め立てられたら苦しくなるのかを学んで、……それを、相手に返す。単なる逢瀬ではなく、お互いを理解して味わい合うのが貴族同士の深い口付けです」
二粒の大ぶりなチョコレートで、乾き切ったお腹が満たされると、身体の中から喘ぎや飢えが訪れてきた。
マリーの舌が喉奥や顎の下、頬の裏から唇の端と執拗に責め立て、痛みや苦しさを感じる手前までセレンティアを追い詰めていく。口の中の広さはそんなに変わらない物なので、セレンティアも何処まで舌を伸ばせば良いのかすぐに理解し、そして、すぐにマリーを追いかけた。
「その調子で舌を這わせて、時には吸い上げて責め立てる事で、お掃除の仕方も上手になります。蜜に酔われたセレンティア様のお姿を、早く見たいですわ…」
新しいタオルではしたなく溢れた涎を拭かれ、髪や肩を撫でられながら息継ぎをする時間を貰える。他の侍女たちの指導もしているのか、置かれた手の圧や動きは非常に繊細なものだった。
2回丁寧なノックをしてから、薄茶色の髪を短く切り揃えた侍女が執務室に入ってきた。
知らない間にベルを鳴らして、呼んでおいたらしい。
「これからセレンティア様に、掃除やお手入れのレッスンを行います。酷く緊張しておられるので、グロウはまず、深い口付けの仕方から教えてあげて下さい」
「かしこまりました。セレンティア様のような高貴なお方のお相手を務められるとは……」
グロウと呼ばれた侍女は、腰を落としたままのセレンティアを支えて立たせ、深々とお辞儀をした。
「初日に、他の者達とお会いして以来となります。マリールシュラ・グロウと申します。どうぞ、マリーとお呼び下さい。
この度は当家の侍女と料理長が、セレンティア様にご無礼を働き、申し訳ございませんでした」
マリーは貴族としては少し高めのセレンティアより背が大きく、二人で並んでみるとダンスの練習相手にも最適だった。相手役となる事は本当に嬉しいようで、クロームファラ達のような愛想笑いとは違う、心からの微笑みをセレンティアに見せた。
「グロウは異性よりも女性を好む、少し変わった侍女です。テオルース様に懸想をする心配は一切ございませんので、安心して指導役を任せられます。それに、侯爵家の者ですから、他の侍女よりも遥かに格上ですので、諫言に惑わされる心配もございません。
私は監督役として、セレンティア様が落ち着くまで手を出さずにおります。…グロウ、セレンティア様は空腹でいらっしゃるから、何かお腹が満たされるように、指導しておあげ」
「かしこまりました。セレンティア様が女主人としてお勤め出来るまで、精一杯お仕え致します」
マリーは執務室から一度出て、黒い菓子箱や蜂蜜。水にタオルといった物を持ってきた。
まだ硬直して上手く話せないセレンティアの顔に濡れタオルを当て、髪に櫛を通して背中をさすっていく。
菓子箱を開けて、マリーは宝石のように小分けされて包まれた大粒のチョコレートを手に取って、口にそのまま含んでから、セレンティアの咥内に舌を差し入れた。
「……んっ、ぁ……んんっ…」
マリーの赤い舌を通して、甘い味が口の中に広がっていく。大きくなってからは、母親違いの弟や妹たちに取られてしまい、決して与えられる事など無かった、深い苦さと甘み。
嗜好品は義母が抑え、家格を考えない豪奢な茶会に使われていった。
「……甘い、美味しい。チョコレートって、こんなに心を震わせるお菓子だったのね」
「菓子箱はたくさんございますので、私と取り合いをしながら深い口付けを覚えて参りましょう。ご無礼を働くのを、どうかお許しください」
執務室の堅いソファーに座らされ、膝立ちのマリーによって二粒目のチョコレートが咥内に差し込まれた。女性同士という抵抗感は有ったが、甘い匂いと味わいに押し出され、セレンティアは自らマリーの舌を少しずつだか撫で始めた。
頭の奥が痺れてきて、鼓動が熱くなるのを感じる。さっきから訪れる眩暈は、花奴隷のクラレッテが言うには欲情によるものらしいが、女性相手にこんなにも心を捕らえられている自分が、どうにも信じられない。
「……どれだけ舌を使えば、よりチョコレートを味わえるのかを考えながら舌先を絡ませるのです。喉の奥や頬の裏側。自分がどこまで責め立てられたら苦しくなるのかを学んで、……それを、相手に返す。単なる逢瀬ではなく、お互いを理解して味わい合うのが貴族同士の深い口付けです」
二粒の大ぶりなチョコレートで、乾き切ったお腹が満たされると、身体の中から喘ぎや飢えが訪れてきた。
マリーの舌が喉奥や顎の下、頬の裏から唇の端と執拗に責め立て、痛みや苦しさを感じる手前までセレンティアを追い詰めていく。口の中の広さはそんなに変わらない物なので、セレンティアも何処まで舌を伸ばせば良いのかすぐに理解し、そして、すぐにマリーを追いかけた。
「その調子で舌を這わせて、時には吸い上げて責め立てる事で、お掃除の仕方も上手になります。蜜に酔われたセレンティア様のお姿を、早く見たいですわ…」
新しいタオルではしたなく溢れた涎を拭かれ、髪や肩を撫でられながら息継ぎをする時間を貰える。他の侍女たちの指導もしているのか、置かれた手の圧や動きは非常に繊細なものだった。
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