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神に手向ける小さき指輪
2.式の一月前
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「結婚かぁ……」
天蓋付きのベットに飛び乗って、寝転ぶアンジェリナ。
もはやそこに、威厳のあるカミサマとしての自分は無く、ただ婚前で浮かれて、たるんだ一人の少女がそこに居た。
今まで、シェリグリティという男性が現れるまでアンジェリナの中に恋愛というものは無かった。
日々生きているだけ。どこかうつろで、気力を失いつつ。
そこへ、来いという物がやって来てしまう。初めての感情に舞い上がり、そして戸惑う。
何をするにも心臓が高鳴り、自然と身体が熱くなってしまう。
どうしたらいんだろう。と思っていたら結婚を申し込まれた。
-----------------------------------------------------------------------------
「---あなたと結婚したい」
言い出したのは、シェリグリティの方だった。
職務中。しかも、大多数の人々に囲まれての発言。
統治はしても、普通として扱われたい。
そんなアンジェリナの考えにより、現界の職場は軽い場所だった。
とはいえ、相手にしてみれば企業で言うとグループの取締役又は会長クラスである人間に、それも新人の端っこ会社の社員が結婚してくれと言っているようなものである。
言う彼も彼。さすが、元国王たいした度胸である。
「いいわよ……」
殺されるくらいの覚悟で言った、シェリグリティの言葉をあっさりとアンジェリナは承諾した。
無論、さっき話した通り勘違いしていたのだ。
結婚イコールその人とちょっと何かをする。レベルの考え方、無知である。
そして、そのままどうなったかといえば、
「ちょ、ちょっと。アンジェリナ! 兄様と結婚ってどういうこと?」
当然の如く結婚の事実は肉親に伝わり、初耳だったレミアは慌ててアンジェリナを問い詰める。
「だって、結婚でしょ。デートと変わらないんでしょ……?」
彼女は、あくまでマイペースを崩さなかった。
すっかり落ち着きを払っているアンジェリナに、レミアは髪を振り乱しながら語りだす。
まさか、こうまで世間を知らないとは彼女も思っていなかったようだ。
「いい! 結婚するって、もう、あの、私達の家で言えば国家の結びつき……。私と誰かと結婚したとすれば、その誰かが住んでいる国と同盟を結ぶことさえたやすいくらいの事なのよ。結婚した夫婦の家には繋がりが出来るわ。
私はその誰かさんの両親を親だと思わなくてはならないわ。いえ、親になってしまうの。知ってる……?」
「全然……」
ああ。とレミアは呻いた。
「つまり、結婚したらその人とずっと一緒。死ぬまで一緒。ここはあの世だから魂消えない限りずーっと一緒。そして、私とアンジェリナは姉妹になり、私とアンジェリナの妹さんは姉妹になる……」
「ファルとレミアが姉妹に。それって、私の一族で言う血の絆と同じ……」
「---そういう事よ。姉さん」
顔面蒼白となったアンジェリナが壁に頭を打ちつけ始めるのには、そう時間がかからなかった。
以上のことにより、結婚式は形だけ。正式な夫婦ではない。他にも制限有り。などの条約が夫になるはずだった彼に課せられた。
たいそう兄はご不満だったご様子で、城の隅っこで砂いじりをしている光景をレミアは何度も目撃する。
「……結婚。意味自体は、あまり分かっていないのだけど、それをあなたとしてもいいと私は思っている。
でもやっぱり、とりあえずにご不満?」
式の一月前、地面とお友達をやっていたシェリグリティに、アンジェリナは尋ねてみた。
「ええ……」
小さく笑って、シェリグリティは素直に答えた。
オーケーはされたけれど、拒絶された。
乙女心は複雑。と言ってしまえば早いが、それで済ませられるくらいならプロポーズなどしない。
ただ、自分の告白をきっかけに、二人の距離が近くなったのがせめてもの救いだった。
「レミアが言うにはね、イルヴァは、私と一緒に暮らしたりしたかったそうだけど、今とそんなに変わらない気がするわ。だって、今までずっとあなた達兄妹と過ごしてきたんだもの……」
「どうして、その辺りを分かってくれないのかな」
「……分かんないわよ! どこが違うの?」
シェリグリティは、今後についてちょっと考えた。
彼女が無垢なのは分かる。理解に時間がかかるのも分かる。
だけどせめて、こっちの気持ちも少しは考えてもらいたい。
なんて説明しようかと言葉を選んだが、やはり見当たらない。
話そう、こうだ。と思いつくものはどこか淫らなものばかりで、引っぱたかれて別れの予感を感じさせる言葉しか見つからなかった。
「どうしたの……?」
アンジェリナは、説明の催促を求めてきた。
彼はますます頭を抱える。瞬間。右手が動き、アンジェリナの顎を捕らえた。
抵抗する暇も与えず、シェリグリティは彼女へと顔を近寄らせる。
そして、触れたとたんに彼は平手を食らわせられた。ピシャリと良い音が響く。
「ご、ごめんなさい……」
顔を真っ赤に染め、アンジェリナはぺたりと床についた。
ちょっぴり。涙がちょちょ切れそうになる。
「だから、レミアが居る時こんなこと出来ないでしょ……?」
とりあえず言ってみた。
以前は蹴りが飛んできたのだから、かなりの進歩だろうか。
しかし、手を貸そうとしたら振り払われた。またもや、シェリグリティは深い悲しみに捕らわれる。
「し、式は今から一ヵ月後……。
ドレスは当日まで着ない。当日まで顔を合わせないようにする!」
「……えっ?」
「守らなかったら、この話は無し」
言うだけ言って、アンジェリナは部屋へと帰ってしまった。
一ヶ月間、アンジェリナの顔を見るの禁止。それは彼に、とってかなりの苦痛だったとだけ言っておこう。
-----------------------------------------------------------------------------
宵闇を裂き、深い闇達が辺りを支配する。
ポワンと揺れ、舞い上がる。
その小さな物体は何か囁くように身体を震わせ、そして縮ませる。
夜が訪れていく。
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天蓋付きのベットに飛び乗って、寝転ぶアンジェリナ。
もはやそこに、威厳のあるカミサマとしての自分は無く、ただ婚前で浮かれて、たるんだ一人の少女がそこに居た。
今まで、シェリグリティという男性が現れるまでアンジェリナの中に恋愛というものは無かった。
日々生きているだけ。どこかうつろで、気力を失いつつ。
そこへ、来いという物がやって来てしまう。初めての感情に舞い上がり、そして戸惑う。
何をするにも心臓が高鳴り、自然と身体が熱くなってしまう。
どうしたらいんだろう。と思っていたら結婚を申し込まれた。
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「---あなたと結婚したい」
言い出したのは、シェリグリティの方だった。
職務中。しかも、大多数の人々に囲まれての発言。
統治はしても、普通として扱われたい。
そんなアンジェリナの考えにより、現界の職場は軽い場所だった。
とはいえ、相手にしてみれば企業で言うとグループの取締役又は会長クラスである人間に、それも新人の端っこ会社の社員が結婚してくれと言っているようなものである。
言う彼も彼。さすが、元国王たいした度胸である。
「いいわよ……」
殺されるくらいの覚悟で言った、シェリグリティの言葉をあっさりとアンジェリナは承諾した。
無論、さっき話した通り勘違いしていたのだ。
結婚イコールその人とちょっと何かをする。レベルの考え方、無知である。
そして、そのままどうなったかといえば、
「ちょ、ちょっと。アンジェリナ! 兄様と結婚ってどういうこと?」
当然の如く結婚の事実は肉親に伝わり、初耳だったレミアは慌ててアンジェリナを問い詰める。
「だって、結婚でしょ。デートと変わらないんでしょ……?」
彼女は、あくまでマイペースを崩さなかった。
すっかり落ち着きを払っているアンジェリナに、レミアは髪を振り乱しながら語りだす。
まさか、こうまで世間を知らないとは彼女も思っていなかったようだ。
「いい! 結婚するって、もう、あの、私達の家で言えば国家の結びつき……。私と誰かと結婚したとすれば、その誰かが住んでいる国と同盟を結ぶことさえたやすいくらいの事なのよ。結婚した夫婦の家には繋がりが出来るわ。
私はその誰かさんの両親を親だと思わなくてはならないわ。いえ、親になってしまうの。知ってる……?」
「全然……」
ああ。とレミアは呻いた。
「つまり、結婚したらその人とずっと一緒。死ぬまで一緒。ここはあの世だから魂消えない限りずーっと一緒。そして、私とアンジェリナは姉妹になり、私とアンジェリナの妹さんは姉妹になる……」
「ファルとレミアが姉妹に。それって、私の一族で言う血の絆と同じ……」
「---そういう事よ。姉さん」
顔面蒼白となったアンジェリナが壁に頭を打ちつけ始めるのには、そう時間がかからなかった。
以上のことにより、結婚式は形だけ。正式な夫婦ではない。他にも制限有り。などの条約が夫になるはずだった彼に課せられた。
たいそう兄はご不満だったご様子で、城の隅っこで砂いじりをしている光景をレミアは何度も目撃する。
「……結婚。意味自体は、あまり分かっていないのだけど、それをあなたとしてもいいと私は思っている。
でもやっぱり、とりあえずにご不満?」
式の一月前、地面とお友達をやっていたシェリグリティに、アンジェリナは尋ねてみた。
「ええ……」
小さく笑って、シェリグリティは素直に答えた。
オーケーはされたけれど、拒絶された。
乙女心は複雑。と言ってしまえば早いが、それで済ませられるくらいならプロポーズなどしない。
ただ、自分の告白をきっかけに、二人の距離が近くなったのがせめてもの救いだった。
「レミアが言うにはね、イルヴァは、私と一緒に暮らしたりしたかったそうだけど、今とそんなに変わらない気がするわ。だって、今までずっとあなた達兄妹と過ごしてきたんだもの……」
「どうして、その辺りを分かってくれないのかな」
「……分かんないわよ! どこが違うの?」
シェリグリティは、今後についてちょっと考えた。
彼女が無垢なのは分かる。理解に時間がかかるのも分かる。
だけどせめて、こっちの気持ちも少しは考えてもらいたい。
なんて説明しようかと言葉を選んだが、やはり見当たらない。
話そう、こうだ。と思いつくものはどこか淫らなものばかりで、引っぱたかれて別れの予感を感じさせる言葉しか見つからなかった。
「どうしたの……?」
アンジェリナは、説明の催促を求めてきた。
彼はますます頭を抱える。瞬間。右手が動き、アンジェリナの顎を捕らえた。
抵抗する暇も与えず、シェリグリティは彼女へと顔を近寄らせる。
そして、触れたとたんに彼は平手を食らわせられた。ピシャリと良い音が響く。
「ご、ごめんなさい……」
顔を真っ赤に染め、アンジェリナはぺたりと床についた。
ちょっぴり。涙がちょちょ切れそうになる。
「だから、レミアが居る時こんなこと出来ないでしょ……?」
とりあえず言ってみた。
以前は蹴りが飛んできたのだから、かなりの進歩だろうか。
しかし、手を貸そうとしたら振り払われた。またもや、シェリグリティは深い悲しみに捕らわれる。
「し、式は今から一ヵ月後……。
ドレスは当日まで着ない。当日まで顔を合わせないようにする!」
「……えっ?」
「守らなかったら、この話は無し」
言うだけ言って、アンジェリナは部屋へと帰ってしまった。
一ヶ月間、アンジェリナの顔を見るの禁止。それは彼に、とってかなりの苦痛だったとだけ言っておこう。
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宵闇を裂き、深い闇達が辺りを支配する。
ポワンと揺れ、舞い上がる。
その小さな物体は何か囁くように身体を震わせ、そして縮ませる。
夜が訪れていく。
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