永遠の処女神シリーズ

和泉葉也

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神に手向ける小さき指輪

3.姉妹との別れ

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「---ファル」

 翌朝、アンジェリナは自分の唯一の肉親であり、妹でもあるファルを尋ねた。
 彼女もアンジェリナと同じカミサマである。

 ただし、身体が生まれつき弱かったファルは、全権をアンジェリナに任せ姉の来訪を楽しみに待つだけの日々を過ごしている。
 一緒に住めば良いじゃない。と、アンジェリナは言うのだが、姉の仕事を邪魔してはいけないとファルはやんわりと断りつづけていた。

「ようこそ、姉さま……」

 寝台から、水の化身のような蒼い髪と瞳を持った少女が現れた。
 こんな綺麗な妹を外に出せないのが悔しいと、アンジェリナはいつも思う。

「結婚前の女の子って、みんなこうなのかしら?
 よく、分からないけど、いままでお世話になりました。という言葉を言う場所に、なってしまうのかしら?」

「……結婚、結婚と噂になっているけれど、形だけだし、ほんとに夫婦になるってわけでもないのに……、おかしな姉さま……」

「ファルは気楽で良いわ。当事者となる私の気持ちも考えてよ、始めてのことだし……」
「シェリグリティも、始めて。ですよ、姉さま」

 婚約者の名前を出され、アンジェリナは頬を赤く染めた。
 結婚までは、顔を合わせないようにする。そう、決めたのはアンジェリナだったのだが、どうしても彼の名前を出されると恥ずかしさと嬉しさで胸が一杯になってしまう。

「ま、もうすぐ式も始まるわ……。ファルが出られないのは残念だけど、結果は報告するわよ。
 もちろん、他の人々同伴で……」

「……騒がしくなりそうですね。良いことです」
「騒がしいのが嬉しいってのも変ね。さて、そろそろ行くわ」
「……行ってらっしゃい」

 アンジェリナの門出を見送ると、ファルは寝台に戻った。
 すると突然、体中に悪寒が走り、寝台からファルは崩れ落ちた。

「予兆? こ、これは・・・」

 そして、ゆっくりと深い悲しみで胸が痛みはじめ、目からは大粒の涙があふれる。
 誰かを呼ぼうと手を伸ばすが、身体に疲労とも圧力とも言えない重みに自由を奪われ、混濁した意識の中、動きの取れない身体を引きずりながら、ファルは幾度も姉の名を呼びつづけた。

----------------------------------------------------------------------------- 

「---本当に、こんな服を着ないとダメなの?」

 式の当日、準備は万端。までは良かったが、レミアの作ったドレスがまた彼女を悩ませた。
 ドレスは任せてね。とレミアが言うので、シンプルなのでね。と答えた。
 たしかにシンプルはシンプルだったが、施された刺繍があまりにも美麗すぎてクラクラする。

「人様に作ってもらったものに、文句言わないの」

 胸元と裾に、レミアが三週間かけて手がけた銀の刺繍があるため、見た目はアンジェリナが普段着ているようなドレスと大差無いのだが、それのせいで立派にウエディングドレスに見えてしまっている。

「さらに、ネックレスとティアラもあるんだから……!」

 引出しから、大事にしまっていたアクセサリーを取り出す。
 プラチナや銀やダイヤなどをかき集め、これでもかと言うくらいの出来に仕上げたレミアの傑作である。

「目立つの、好きじゃないのに」
「私の兄様を取っちゃうんですもの。これくらいは、やってもらわなくては……」

 渋々、レミアに手伝ってもらいながらドレスに袖を通し、ネックレスを嵌めた。
 似合うわよと少し嫌味っぽくレミアが口にする。

「……これで終わり?」
「まだまだ。座って---」

 レミアはイスへ座るように促す。机に並べられた化粧水やパウダー、頬紅や口紅達がこれからを物語っている。
 逃げる時間は無かった。

「兄様。今日を泣いて喜んでたわよ……。あなたの顔が見られるって」

 頬紅がアンジェリナの頬へと塗られていく。思えば、化粧なんて初めてかもしれない。

「そんな、喜ばれる顔じゃないわ」
「キスされて、恥ずかしさのあまり条件を付けたそうね。酔い潰して聞いちゃった」
「……ぐっ」

「それくらいで恥ずかしがってたら、これからどうするの?」
「どうするって、知らない」
「頬にキスくらいで反応してたら、困るわよ。早く叔母さんになりたいわ」

 つまりそれは、つまりそういうことだった。
 反論することも出来ず、アンジェリナは赤くなっていく顔を押さえた。

 プロポーズされてからというもの、二人きりの時間が長くなり、また回りも二人きりにさせていた。
 肌を寄せ合い、お互いのことを話す。
 なんでそんなに気軽に出来たんだろうと、いまさら後悔。

 もう、真っ直ぐにあの赤い瞳を見つめることが出来ないし、肩を抱かれたりしたら逃げ出してしまうだろう。
 ちょっと前は、ふざけて抱きしめたりもしていた。
 あんな風な関係には、もう戻れない。
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