姫君たちの傷痕

和泉葉也

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第一章 調教部屋への道案内

女王との謁見(1)

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 父の出兵時の負傷による看護に追われる母の代理に、行儀見習いも兼ねた王妃の侍女として王宮に招かれたはずのエリヴァル姫は、通された謁見の間で本来なら有り得ないはずの光景を目の当たりにした。

「ーーこの度は母であるヘリティギアの代理として、第一王女殿下にお会い出来まして、光栄に存じます」

 慣れない口調での挨拶と一礼をしながら、エリヴァルイウスは震えを抑えきれない手でドレスの裾を掴んで、初めての伯母の姿を見つめる。
 長く伸ばした薄茶色の髪を結え、鋭い赤茶色の瞳をした王女は豪奢なドレスと貴金属に身体を覆われ、王たる証の錫杖と銀のメダルに彩られていた。

 オーファルゴートの大地を作り上げたとされる始祖神が、紫の髪と赤い瞳をしていた事も有り、どちらかの色を持った娘は神の使いとして古くから崇められている。
 それも赤茶色とはいえ、王族の生まれである第一王女は神の化身ではと、過度な信仰の対象になり貴族院を支配してきたと、女家庭教師ガヴァネスから教えられてきた。

「お前は姪御ですからね、楽になさい。
 ランベルの負傷、心より見舞い申し上げる。エリヴァル姫は私がこの場に腰掛けている事に、疑問を感じているみたいですが、王は体調が芳しくなく居城にて療養し王妃もそれに付き添い、私は王代行として一任された。居城には王と妃以外は立ち入る事は許されぬ。お前のために、王妃がお会いする事はない」

「父へのお言葉痛み入ります。また、1日も早い皇帝陛下の回復を願っております。第一王女殿下に疑問を投げかけてしまい、大変恐縮なのですが……それでは、私は何のために王宮に呼ばれたのでしょうか?」

「ランベルの治療には、高価な国外の薬と侍医が必要との事で、その返礼と看護への集中も兼ねて侍女としてお前が招かれたと聞いている。
 その準備や大量の資金の用意は、既に私の方で済ませておきました。流行り病による低迷と戦の最中で城の資金が尽きかけているにも拘わらず、子爵家に多大な予算と高価な薬が届けられた事は知っていますね?」

「はい、甚大なるご厚意をヘリティギアや子爵家も心より感謝しておりました」

 戦禍での負傷であり、第一王子に対する療養費と考えても破格の金額が格下となる母の子爵家に届き、一人娘を侍女見習いとして送るには充分過ぎる対価ではあった。
 それが、国王や王妃からの恩恵であったのなら妥当な話だが、父と次期国王を争う第一王女の手による資金であったのなら話は随分と変わってくる。

 古くから続く王族の伝統として、女子への王位優先が定められており、王女が産まれた場合は王子よりも王位継承順位が高くなる決まりだ。
 女王として即位した場合は、男の王より高位な存在として崇められ、次期女王と認められた姫君は王となるまで婚礼を上げる事は決して許されない。

 女神を信仰する関係から出来た古い決まりではあるが、これには一つ大きな例外があり、王位継承は貴族議会や元老院の指示を仰がない前国王の意志が尊重される。
 つまり、どんなに王女が産まれたとしても王として不適格と見なされれば王子が戴冠する事となり、王からの指名を受けた時点で次期国王は承認されてしまう。

 カスティア王女は、女王となるには不適格。おまけに、何人もの令嬢を囲っている異質な性趣向の持ち主で、失望された王は第一王子である父に次期王位を予定していたと聞いている。

「では、その多大なる費用を私が支払った事も、エリヴァルイウス姫は理解したと考えて構わないか?」
「はい、慈悲深い第一王女殿下のご厚意に、心よりの感謝を申し上げます」

 これでは、完全なる身売りではないか。
 王が居城に隠れ、王妃もそれに準じたのは父への次期国王としての指名を阻止する王女の策略だろう。
 身の危険を感じ、居城へ避難したであれば、子爵家への伝達が遅れたのも不思議ではない。
 父の看護に追われて疲れ切った母が、元老院名義で届いた資金と高価な薬を第一王女からのものだと気がつくはずもない。騙されたのだ。

「それならば良いのです。お前は大層賢い姫君と聞いています。私には子が居ません。恐らく、即位したとしても孕む事はないでしょう…。だからエリヴァルイウス、お前を養女に迎え入れて次期女王として育て上げたいとも、考えていたのです。この意味が理解出来ていて?」

「…私のような者が、第一王女殿下の養女となるのは恐れ多い、話です。子爵家を母に持ち、姫としての身分も低いのですから」
「言い訳は良いのです。エリヴァルイウス、ひざまずいてコルセットを外して、私に背中を見せなさい」

 国王付きの衛兵がエリヴァルの肩を掴み、ドレスを脱がしてコルセットの紐に手をかける。
 王の前で言葉を発する事を許されない衛兵達は、彼女がどんなに抵抗しようともその命令に背く事はなかった。
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