宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

黒鯛の刺身♪

文字の大きさ
92 / 148
【第二章】赤い地球

第九十二話……占領政策、民衆の要求!!

しおりを挟む
「よろしくお願いします」



「よろしくお願いします」







 ……いつもの営業所の風景か。

 同僚が電話口で必死に顧客に頼み込んでいるのだろう……。



 ……うん?

 そういえば私は、会社にはもう出てなかったよな?

 ここはそもそもどこだ?





 私は重たい眼を開くと、そこはハンニバルの艦長室だった。

 私は少し寝ていたらしい。





『提督!お願いします!』

『よろしくお願いします!』



 モニターに多くの方が映っている。

 何かの陳情のようだった。





「……これ、何なの?」



 副官殿を呼んで尋ねる。





「……あ、お休み中に回線がつながっておりましたか、申し訳ありません」

「こちらは食料プラントの建設依頼の皆様でございます!」



「え? なんでハンニバルに……!?」



 ハンニバルは現在、ジョー・ウハン星系に進駐していた。

 ハンニバルは海上停泊型なので、とある地方都市の入り江に間借りして停泊していたのだった。



 先日の戦いで、畑などの農業プラントが全壊したために、農業プラントの建設依頼に周辺の民衆の皆さんが私に陳情に来ているらしかった。





「提督がアルデンヌ星系の惑星カイなどで、食料量産をなさっているのが今朝のTVで放映されたらしいのですわ……」



 ……え? TVってすごい威力だね。





 私は陳情に来ている皆さんの代表者を艦に招き入れた。

 村長さんや市長さんといったところだろうか……。





「お初にお目にかかります、少将閣下!」

「閣下はおやめ下さい、皆さまは軍人ではありませんから」



 へりくだり揉み手状態の地方自治の政治家様たち。





「では、こうに申し上げましょう、ハンニバル開発公社社長!」



 ……軍には用がなくて、開発公社に用があるのだな?





「要件をお伺いしましょう」



 副官殿がお客さん4人と私にお茶を入れてくれる。





「率直に申し上げましょう、食料が足りません! 援助してください!」



「……いや、私にも余分があるわけではないのですが?」



 あまりにも率直で驚く。



 実は食料プラント要請ではなく、食料そのものの要求だった。

 この船は軍政の配給担当係でもないのだが……。





「いやいや、手広く商売をされているからには富はいくらでもお持ちでしょう? 早く援助して下さい!」



 ……彼らはハンニバル開発公社が沢山の借金を抱えているのを知らないのだろう。

 実は私個人も借金があるのだが……。



 各種資産が借金の抵当に入っていることを説明し、余剰物資はないことを告げる。





「うそだ! 君は嘘をついているに違いない!」

「今すぐ食料を供給しなさい! 民が飢えているのですよ!」



 ……半ば恐喝されてしまった。

 このまま追い払うと、暴動が起きそうな雰囲気だった。





「……これくらいなら、すぐにご用意できますが」



 電卓を叩き提示する。

 今回は連れてきていないドラグニル陸戦隊用の予備食料が、艦内にあったのを思い出した。

 ……それをとりあえず供出することにした。





「ちっ! あるならさっさとだせよ! この腐れ軍人!」

「本当はもっと持っているんだろ! 明日はもっと用意しとけよ!」



 お客様は捨て台詞を吐いて、食料を持ち帰った。

 彼等は彼等で大変なのだろうが、こちらとしては少し悲しくなった。



 帰ったら、アルベルトに食料の件で怒られるだろうなぁ……。







☆★☆★☆



――その晩。



「美味しいポコ♪」

「釣りたては美味しいクマ♪」



「おいしいですわね♪」



 ハンニバルの食堂にて、クマ整備長と整備班員たちが昼間に釣ってくれたお魚の刺身を、皆で頂いていると……。







――ドドォォォン



 山の向こう側で爆発が起きた。





「晩飯中止! 総員配置に付け!」



 今は占領地なので、油断大敵だった。

 お皿を置き、急いで装甲服を着て、艦橋に上がる。





「何事だ!?」



「隣町に停泊している、第七戦隊の宿営地で暴動が発生しました!」



 顔面を蒼白させた情報担当士官が、こちらを向いて答える。





「閣下! 我々も退避すべきです!」

「民衆の要望は過大なものです、今の我々には応じきれません!」



 内政担当のヨハンさんが進言してきた。



 司令部に占領地放棄とみなされないように、幕僚たちと相談し、この惑星の衛星軌道上に離脱することにした。



「各艦にも伝達! 至急衛星軌道上まで退避せよ!」

「了解!」



「ハンニバル発進!」



 我が第六戦隊はすぐさま、衛星軌道上まで退避した。

 眼下には暴徒と化した民衆が、街に次々に火を付けている。



 ……これに伴い、辛うじて残っていた各種インフラやプラントも廃墟となった。



 カリバーン帝国軍は民衆に与える食料を大量に持ってきていたが、それは惑星地上軍と一緒にグングニル共和国軍の無差別攻撃にて、陸上で灰にされていた。



 民衆側からすればあずかり知らないことではあったのだが……。







☆★☆★☆



「くそう! グングニル共和国の奴らめ!」

「卑怯なり!」



 リーゼンフェルト大将のいる司令部は怒りに包まれていた。

 占領したジョー・ウハン星系のあちこちで反乱が起きていたのだ。





「食料の輸送はどうなっている?」

「総司令部に頼みましたが、輸送だけであと2週間はかかるとのことです!」



「くそう!」



 リーゼンフェルト大将にもあと2週間も待てないことは明白だった。





「やむを得ん、占領地を放棄して撤兵する!」



「し、……しかし」

「このままでは、兵も飢える! それが分からんのか!」



 リーゼンフェルト大将は幕僚を一喝した。

 兵站が整わなければ、いかなる占領地を維持するなど不可能だったのだ。





 ……結局。

 カリバーン帝国軍はジョー・ウハン星系において、艦隊戦では敵艦船28隻を撃沈破する大戦果を挙げながら、星系占領は諦めることとなる。



 占領地政策の失敗は、既に戦死していた惑星地上軍責任者のモロドフ中将とされ、艦隊戦大勝利の功績でリーゼンフェルト大将は上級大将に昇進した。





 リーゼンフェルト上級大将はこの件を決して忘れず、以後グングニル共和国の民間輸送船団めがけて特務潜航艇部隊を大量に派遣。

 多くの食料と物資を焼き払うことに執心した。





 ……こうして銀河は混迷の色合いをより強めていった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...