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第五話……必殺! キツツキ戦術
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――勘助の考えた策はこうであった。
まず、8千の本体を率いた信玄が、霧の中に隠れ、北東部に秘密裏に進出し、善行寺周辺の越軍の補給拠点を奇襲し攻略する。
それに堪らず妻女山を降りてきた越軍を、海津城に残していた甲軍の伏兵1万2千が、背後を突くという作戦だった。
越軍も豪族の参陣率が高く、背後の拠点を脅かされては、謙信とは言えまともに戦えぬ公算が高かった。
越後の補給線を窺う甲軍本隊が、実は囮という作戦である。
……まさしく、キツツキが木から虫を叩き出す様に似ていることから『キツツキ』作戦と命名された。
武田軍の編成は、以下のとおりである。
〇本隊……兵8000
・武田信玄旗本隊
・武田義信隊
・武田信繁隊(有名な典厩殿)
・武田信廉隊
・原虎胤隊
・両角虎定隊
・飯富昌景隊(後の山県昌景)
・山本勘助隊
……他・主として甲斐の兵
〇伏兵(別動隊)……兵12000
・飯富虎昌隊
・馬場信春隊
・真田幸隆隊
・高坂昌信隊
・内藤正豊隊
……他・主として信濃の兵
こうして、まず本隊が未明の霧の中、犀川を静かに渡り、善行寺方面を目指した。
決して目立たぬ様、孫子の旗も隠して行軍した。
――信玄の本体が八幡原に達した頃。
「御屋形様!」
「どうした勘助?」
「静かすぎるのでございます、妙に胸騒ぎがいたします」
軍師の勘助の言に、慎重になる信玄。
「一旦軍を止めよ、四方に斥候を出せ!」
「「「「はっ!」」」
伝令役の百足衆が諸隊に連絡の為、馬を走らす。
「ご注進! ご注進!」
斥候が馬から落ちるように、降り立つ。
「越軍、すでに南西の方角に、目と鼻の距離に行軍しております!」
「なんだと!? それは誠か!」
勘助の顔が引き攣る。
「いかん、謀られた!」
「全軍に防御態勢をとる様に伝えよ!」
「「「はっ!」」」
信玄は急いで百足衆に告げる。
軍旗を掲げ、急いで幕が張られ、本陣の形を成す。
「陣形を鶴翼に改め!」
「鶴翼に改め!」
伝令が四方に散り、武田本体は横陣に似た、鶴翼の陣を急ごしらえすることとなった。
……この顛末は、信玄の子勝頼の代になって、高坂昌信が甲越同盟の執り成しをした際に、酒宴の席で上杉方から、
「あれは越後の反乱を恐れて、霧に乗じて山を下っただけ」
「流石の御先代も、信玄公の奇襲が見抜けていたわけではござらぬ!」
と伝えられた。
上杉方も意図した奇襲では無かったのである。
まさしく、両雄意図せぬ遭遇戦となっていのだった……。
☆★☆★☆
【一口信玄メモ】……
『御屋形様』という表現は、輿に乗れる身分の人という意味もあります。
今川義元は馬に乗れなかったのではありません。
輿に乗ったほうが、威厳があって都合がよかったのです。
ひょっとしたら、実際は信玄や謙信も、輿に乗って戦場を巡っていたのかもしれませんね(笑)
まず、8千の本体を率いた信玄が、霧の中に隠れ、北東部に秘密裏に進出し、善行寺周辺の越軍の補給拠点を奇襲し攻略する。
それに堪らず妻女山を降りてきた越軍を、海津城に残していた甲軍の伏兵1万2千が、背後を突くという作戦だった。
越軍も豪族の参陣率が高く、背後の拠点を脅かされては、謙信とは言えまともに戦えぬ公算が高かった。
越後の補給線を窺う甲軍本隊が、実は囮という作戦である。
……まさしく、キツツキが木から虫を叩き出す様に似ていることから『キツツキ』作戦と命名された。
武田軍の編成は、以下のとおりである。
〇本隊……兵8000
・武田信玄旗本隊
・武田義信隊
・武田信繁隊(有名な典厩殿)
・武田信廉隊
・原虎胤隊
・両角虎定隊
・飯富昌景隊(後の山県昌景)
・山本勘助隊
……他・主として甲斐の兵
〇伏兵(別動隊)……兵12000
・飯富虎昌隊
・馬場信春隊
・真田幸隆隊
・高坂昌信隊
・内藤正豊隊
……他・主として信濃の兵
こうして、まず本隊が未明の霧の中、犀川を静かに渡り、善行寺方面を目指した。
決して目立たぬ様、孫子の旗も隠して行軍した。
――信玄の本体が八幡原に達した頃。
「御屋形様!」
「どうした勘助?」
「静かすぎるのでございます、妙に胸騒ぎがいたします」
軍師の勘助の言に、慎重になる信玄。
「一旦軍を止めよ、四方に斥候を出せ!」
「「「「はっ!」」」
伝令役の百足衆が諸隊に連絡の為、馬を走らす。
「ご注進! ご注進!」
斥候が馬から落ちるように、降り立つ。
「越軍、すでに南西の方角に、目と鼻の距離に行軍しております!」
「なんだと!? それは誠か!」
勘助の顔が引き攣る。
「いかん、謀られた!」
「全軍に防御態勢をとる様に伝えよ!」
「「「はっ!」」」
信玄は急いで百足衆に告げる。
軍旗を掲げ、急いで幕が張られ、本陣の形を成す。
「陣形を鶴翼に改め!」
「鶴翼に改め!」
伝令が四方に散り、武田本体は横陣に似た、鶴翼の陣を急ごしらえすることとなった。
……この顛末は、信玄の子勝頼の代になって、高坂昌信が甲越同盟の執り成しをした際に、酒宴の席で上杉方から、
「あれは越後の反乱を恐れて、霧に乗じて山を下っただけ」
「流石の御先代も、信玄公の奇襲が見抜けていたわけではござらぬ!」
と伝えられた。
上杉方も意図した奇襲では無かったのである。
まさしく、両雄意図せぬ遭遇戦となっていのだった……。
☆★☆★☆
【一口信玄メモ】……
『御屋形様』という表現は、輿に乗れる身分の人という意味もあります。
今川義元は馬に乗れなかったのではありません。
輿に乗ったほうが、威厳があって都合がよかったのです。
ひょっとしたら、実際は信玄や謙信も、輿に乗って戦場を巡っていたのかもしれませんね(笑)
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