上 下
22 / 56

第二十二話……メドラ星系

しおりを挟む
「進路をメドラ星系に捕れ!」

「了解!」

 クリシュナは最寄りの有人星系であるメドラ星系を目指す。
 この星系は、フランツさん率いる艦隊がマーダ連邦から解放した星系であった。


「大気圏進入!」
「耐熱シャッター閉鎖!」

 有人星系とはいえ、人類の手に復帰直後の為、管制システムなどはない。
 クリシュナは適当な荒れ地へと着陸した。


「……では行ってくる!」

「司令、お気をつけて!」

 クリシュナには留守番にレイとトム。
 一緒に装輪装甲車にのるのは、相棒のブルーだった。

 なぜならブルーと私はバイオロイド。
 多少の有害物質をものともしない体質だった。

 とりあえず、私達は荒れ地をひた走り、とあるドーム状のコロニーの残骸へと着いた。



☆★☆★☆

「入場料はおひとり様3000クレジットです」

 コロニーの入り口にはお婆さんがいて、入場料を要求される。
 私とブルーは顔を見合わせるが、おとなしくクレジットカードで支払うことにした。


「毎度あり!」

 威勢の良いしなびれた声を後ろに、私たちはコロニーへと入る。


「しかし、中も凄いですな!」

「……ああ」

 お金を払って中へ入った光景もまた、外と同じで荒野だった。
 建物が無残に壊され、建築物の原形を留めていない。


 トボトボと歩くと、瓦礫の下から声がした。


「お兄さん、カードゲームをしないかい?」


 瓦礫の下から小さな子供の姿が見える。
 ゆっくりと近づいていくと、地下に繋がる階段へと案内された。


「是非、遊んでいってください!」

 瓦礫の下は、なんと地下賭博場だった。
 片隅にバーもあり、そこそこの大きさである。


「いらっしゃい、コインは何枚いりますか?」

「一枚いくらですか?」

「100クレジットになります!」

 ……げ、高い。
 それはジュースが一本買える値段であったのだ。


「貰おう!」

 なんとブルーがお金を出してくれた。


「お前、カジノとか得意なの?」

「任せて下さい!」

 得意げに私に10枚のチップを渡した後、彼はスロットマシーンの列へと消えていった。

 仕方なく私はバーでお酒を頼む。
 珍しい煙草も売っていたので吸ってみる。


「……ぉ、これはイケる!」

「でしょ? 旦那」

 歯が不自由そうなバーテンが笑う。

【システム通知】……違法麻薬を検知。
 すぐに捨ててください。

 ……げ。
 結構うまかったのだが、仕方なく灰皿へ。


「なあ、マスター。この近くで宇宙船が不時着してないかい?」

 そう言うと、彼は無言でチップを要求。
 それに応じると、目線で奥の男と話せと合図してくれた。



☆★☆★☆

「遭難した宇宙船についての話が聞きたいのだが、ここでいいかね?」

 私はバーの奥に座わる、明らかにアウトローな感じのひげだるまに聞く。


「ああん?」
「何か聞きたかったら、この俺様にカードで勝ちな!」

「わかったよ、ルールを教えてくれ!」

 私は男にルールを尋ねる。
 どうやら前の世界で言うポーカーに似たゲームであった。
 私はすぐにゲームに興じる。

 ……が、


「フルハウスだ!」

「……くっ」

 ところが、何度やろうとも勝てない。
 追加でコインを両替しても、サッパリ勝てなかった。


「あんた弱いな! 話にならん、ガハハ!」

 しかし、4ゲーム目。
 私は相手のイカサマを見抜く。
 すぐさま相手の手首をつかみ、捻り上げた。


「いでで……、貴様何しやがる?」

「イカサマをしたら、殺してもいいんだっけ?」

 そんなルールは聞いてないのだが、私は腹が立っていた。
 そんな騒動を起こしていると、この男にバーのマスターが駆け寄ってきた。


「ボス! 変なブタ野郎がコインを荒稼ぎしていやす! なんとかしてくだせぇ!」

 私と男がスロットの列に目を移すと、山のようにドル箱を積み上げるブルーの姿があった。


「ボス、なんとかしないと、この店は破産ですよ!」

「あいつを何とかしてほしかったら、情報を出しな! ごちゃごちゃいうなら、この手首を引きちぎるぞ!」

 私はここぞとばかりに高圧的にでた。


「……くっ、お前ら仲間だったのか!」

 男はすぐに屈した。



☆★☆★☆

「あの船はな、奴隷商人が買っていったのよ」

「奴隷商人?」

「……ああ、俺たちはそう呼んでいる。表の看板は何かしらねぇがな!」

 どうやら、フランツさんの乗っていた巡洋艦ウィザードはこの星に不時着。
 非合法な連中に捕まり、この星の収容所に送られているとのことだった。


「どうしたら助け出せる?」

「売られたものは、買い戻すしかねぇ!」

「……なわきゃねーだろ!」

 訳の分からない裏のルールなど知ったことではない。
 非合法に攫われたのであれば、非合法に攫い返すまでだった。
 私は強引に男から収容所の位置を教わる。


「おい、ブルー帰るぞ!」

「ええ? もう少し稼ぎたかったなぁ?」

 穏便に済ますため、割り引いての換金に応じてその場を去った。


 ……ブルーと帰りの車の中。


「てか、ブルー凄いな。博打の才能があるんだな!?」

「旦那、あるわけないじゃないですか! 俺の特技と言えば、機械を弄ることですぜ!」

 ブルーは笑って小さな電子工具を見せてくれた。


 ……くそっ。
 お前もイカサマだったのか。
しおりを挟む

処理中です...