押し付けられた仕事、してもいいものでしょうか

章槻雅希

文字の大きさ
2 / 4

002

しおりを挟む
 15歳になり、学院へと入学いたしました。我が国では貴族子女は皆王城に隣接する学院で15歳から18歳まで学ぶことが義務付けられております。

 他国の学院では身分にとらわれず自由に学ぶため、学院内では皆平等とされるところもあるそうですが、我が国では違います。学院の外では身分差はございますし、学院は社交界デビュー前のプレ社交界という意味合いもございますから、身分に応じた振舞いを求められます。

 また、クラス分けは成績順となっており、通常は上位貴族ほど成績が良く、下位貴族ほど下の成績となります。薄々気づいてはおりましたが、アシュトン殿下はお馬鹿さんでいらっしゃいました。最下位クラスにご在籍なのですもの。

 学院は身分差があると申しましたが、学業成績に関しては平等でございます。普通は爵位が上がるほど家庭教育の質も上がりますので、成績順はほぼ爵位順になります。少々出来がよろしくない方でも爵位から予想されるクラスの一つ下くらいです。

 なのに、王族で王太子であるアシュトン殿下が最下位クラス……。王宮の教育係は何をしていたのでしょう。ああ、アシュトン殿下の癇癪を抑えられずに勉学が進まなかったのですね、きっと。なんだかんだと国王陛下も王妃殿下も一粒種のアシュトン殿下にはお甘いですし。

 わたくしは爵位相当のクラスに入りました。周りは全て同じ公爵家か侯爵家。アシュトン殿下をお支えする側近となられるはずの方々でした。因みに各クラスは10名ほどです。貴族だけの学院ですから、一学年100人に満たないくらいの在籍数ですわね。

 アシュトン殿下が最下位クラスと知った皆様は頭を抱えていらっしゃいました。勉学の出来=為政者の資質ではございませんけれど、中位クラスならまだしも、下位クラスですらなく最下位クラスでございますからね。側近候補の皆様としては頭の痛いところでしょう。取り敢えず、クラスでは次期王妃として側近候補の皆様との交流及び連携を図ることとなりました。

 学院のクラスも含め、嫌な予感はしておりましたの。そして案の定、それは的中するのでした。







 15歳の準成人となりましたので、アシュトン殿下には公務が割り振られることとなりました。学院が休みの日に式典に来賓として参加なさったり、王都周辺の貴族領を視察なさったり、その報告書の作成もございます。実務的な報告書は同行していた文官たちが作成しますから、アシュトン殿下の報告書は将来の王としてどう感じたかのレポートというところでしょうか。

 最初の視察を終えられたアシュトン殿下は何故かわたくしにその報告書を書くように仰いました。え、無理ですわ。わたくし、その視察には同行しておりませんもの。そう理由を述べてお断りいたしましたが、アシュトン殿下は『使えないヤツだな』とご立腹。

 いやいや、同行していない婚約者に書かせようとするのがそもそもの間違いでしょうに。勿論、このことは王妃殿下とお父様に報告いたしましたわ。

 そうしたら何故かわたくしも視察に同行するように命じられました。まだ婚約者に過ぎませんのに……。次期王太子妃としてと言われても、万が一にも婚約解消になったらどうするのでしょうね。

 お父様にご相談して、妃確定ではない者が同行するのはおかしいと奏上していただき、無事に回避出来ました。現王妃殿下も婚約者時代に視察同行などなさってませんから、すんなりいきましたわ。

 アシュトン殿下が書いた報告書は1行しかないものでした。仕方ありませんので、わたくしと側近候補のドリスコル公爵令息ギデオン様が殿下から印象を聞き取り、それらしく修飾した文章で下書きしたものを殿下に清書していただきました。

 それすらも面倒臭がっていらっしゃいましたが、国王陛下からレポートの出来を誉められたらしく、大層ご機嫌でした。取り敢えず、視察の報告書はわたくしとギデオン様が聞き取りして下書きするということで慣れていただくことにしました。徐々に殿下がご自分で作成なさる部分を増やしていく予定です。飽くまでもわたくしたちはお手伝いであり、アシュトン殿下に慣れていただくための暫定的措置でございました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?

もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。 政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。 王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。 王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。 オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

自業自得の召喚代償

みっちぇる。
ファンタジー
魔王に対抗するために召喚した? そんなの私達には関係ないじゃない! ―ー関係ない人に全て押し付けて自分たちは高みの見物? そんなのは許しません! それ相応の犠牲ははらってもらいます。 ……シリアスを目指しましたがなりそこねました。 この話に恋愛要素はありませんが、今後追加するおまけに恋愛要素を入れる予定なので恋愛カテゴリーに変更しています。

ただの辺境の道具屋です

綾崎オトイ
ファンタジー
辺境で道具屋を営んでいる少女。 実はわけありなこの少女が作るものは効果抜群。なんでも揃う道具屋の店主は聖女様か魔女様か? 難しいことは全然考えてないので設定ゆるゆる

断罪茶番で命拾いした王子

章槻雅希
ファンタジー
アルファーロ公爵嫡女エルネスタは卒業記念パーティで婚約者の第三王子パスクワルから婚約破棄された。そのことにエルネスタは安堵する。これでパスクワルの命は守られたと。 5年前、有り得ないほどの非常識さと無礼さで王命による婚約が決まった。それに両親祖父母をはじめとした一族は怒り狂った。父公爵は王命を受けるにあたってとんでもない条件を突きつけていた。『第三王子は婚姻後すぐに病に倒れ、数年後に病死するかもしれないが、それでも良いのなら』と。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

聖女召喚2

胸の轟
ファンタジー
召喚に成功した男たちは歓喜した。これで憎き敵国を滅ぼすことが出来ると。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...