7 / 8
愛される努力
しおりを挟む
早速各貴族家への根回しについて話し始めるミニストロ宰相・ドゥーカ公爵・マルケーゼ侯爵を見やり、フィーリャは嬉しそうに笑う。
「どうしました、フィーリャ」
そんなフィーリャにレジーナ皇后が声をかける。
「いいえ、嬉しくなったのですわ、皇后陛下。これからは女に生きやすい時代になりそうですもの。女だけが愛される努力を求められなくなりますでしょう?」
クスクスとフィーリャは笑う。
「愛される努力……ね」
その言葉に、レジーナ皇后だけでなくドゥーカ公爵夫人もマルケーゼ侯爵夫人もミニストロ宰相夫人もどこか遠い目をする。
レジーナ皇后は婚約者であった現皇帝と結婚をしたが、他の3人の夫人は先代の茶番劇によって婚約破棄をしている。かつての婚約者から散々それに類する言葉を投げつけられた記憶が苦く蘇る。
「プリンチペ殿下に散々言われましたの。お前は可愛げがない、俺に愛されたければ努力をしろと。俺がお前を愛さないのはお前の努力が足りないからだと。ご自分は一切わたくしに愛されようとはなさいませんでしたのにね」
フィーリャの言葉にレジーナ皇后は頭を抱える。婚約者時代の夫と同じことを盆暗息子はフィーリャに言っていたらしい。そして3人の夫人も以前の婚約者に同じようなことを言われていたことを思い出す。
「毒婦が現れる前はそれなりに真面な方だったのですけれどねぇ。何故か傲慢で自信過剰で自意識過剰な馬鹿になってしまいますのよね……」
「うちのは元々盆暗でしたわ。毒婦が現れてからは一層馬鹿になりましたけれど。けれど、愚息については呪いかと思いましたわ。教育にはかなり力を入れておりましたのに」
ドゥーカ公爵夫人とマルケーゼ侯爵夫人は溜息をつく。特に息子が今回の茶番劇に関わってしまったマルケーゼ侯爵夫人の苦悩は深い。
「ですが、女性当主となれば、男性ではなく女性が選ぶ立場になりますでしょ? ならば、今度は男性が愛される努力、選ばれる努力をすることになりますわよね。なんだかとっても愉快ですわ」
キラキラと輝く笑顔のフィーリャに母親世代の4人は彼女のこれまでの鬱屈を感じた。プリンチペやその側近に鬱憤を溜めていたのだろう。
「女は現実主義ですわ。男性のように守ってあげたいだとかそんな感情で子の父親を決めません。己が命を懸けて子を産むのですもの。より優れた殿方の子を孕みたいと思うのです。そして、より自分を、子を大切にしてくれると思う者に身を委ねるのですわ」
ニッコリとフィーリャは微笑む。誰が自分を蔑ろにする男の胤など孕みたいものか。毒婦たちだって、狙うのは高位貴族や皇族だ。下位貴族や平民は狙わない。
そこには明らかに現実的な『より裕福でより贅沢な生活のできる相手』を選ぶ意図がある。男たちのように庇護欲をそそるからと自分の将来の不利になる平民や下位貴族を選んだりしないのだ。
これまでは男は自分の子であれば母親が誰であれ後継に出来た。けれど女系相続になれば、妻の子でなければ後継にできない。妻の子であれば、胤が誰であれ後継になれるのだ。
もし夫である自分が妻を粗雑に扱えば、妻は他の男の胤を孕む可能性がある。夫が自分を大切にしないならば、自分を幸せにしてくれる他の男を閨に招くだろう。
つまり、これまでの貴族男性の女性軽視のままでは、自分の血は絶える可能性があるのだ。そんな生物的な危機感を男は抱き、妻に誠実に向き合わなければならなくなる。
勿論、女性側にも様々な変化とそれに伴う苦労や苦悩はあるだろう。けれど、これまで軽視されてきた女性の地位は一気に向上する。
父親や兄弟、夫に握られてきた人生はこれからは自分の足で歩き、自分で選べるようになるだろう。全てとは言わなくとも、これまでよりは遥かに多くのものを自分で掴めるはずだ。
帝国は新しい時代を迎える。それが正しい選択なのかは歴史の判断を待つことになるだろうが、少なくともここに集う者たちはよりマシな時代が来ることを確信していた。
「どうしました、フィーリャ」
そんなフィーリャにレジーナ皇后が声をかける。
「いいえ、嬉しくなったのですわ、皇后陛下。これからは女に生きやすい時代になりそうですもの。女だけが愛される努力を求められなくなりますでしょう?」
クスクスとフィーリャは笑う。
「愛される努力……ね」
その言葉に、レジーナ皇后だけでなくドゥーカ公爵夫人もマルケーゼ侯爵夫人もミニストロ宰相夫人もどこか遠い目をする。
レジーナ皇后は婚約者であった現皇帝と結婚をしたが、他の3人の夫人は先代の茶番劇によって婚約破棄をしている。かつての婚約者から散々それに類する言葉を投げつけられた記憶が苦く蘇る。
「プリンチペ殿下に散々言われましたの。お前は可愛げがない、俺に愛されたければ努力をしろと。俺がお前を愛さないのはお前の努力が足りないからだと。ご自分は一切わたくしに愛されようとはなさいませんでしたのにね」
フィーリャの言葉にレジーナ皇后は頭を抱える。婚約者時代の夫と同じことを盆暗息子はフィーリャに言っていたらしい。そして3人の夫人も以前の婚約者に同じようなことを言われていたことを思い出す。
「毒婦が現れる前はそれなりに真面な方だったのですけれどねぇ。何故か傲慢で自信過剰で自意識過剰な馬鹿になってしまいますのよね……」
「うちのは元々盆暗でしたわ。毒婦が現れてからは一層馬鹿になりましたけれど。けれど、愚息については呪いかと思いましたわ。教育にはかなり力を入れておりましたのに」
ドゥーカ公爵夫人とマルケーゼ侯爵夫人は溜息をつく。特に息子が今回の茶番劇に関わってしまったマルケーゼ侯爵夫人の苦悩は深い。
「ですが、女性当主となれば、男性ではなく女性が選ぶ立場になりますでしょ? ならば、今度は男性が愛される努力、選ばれる努力をすることになりますわよね。なんだかとっても愉快ですわ」
キラキラと輝く笑顔のフィーリャに母親世代の4人は彼女のこれまでの鬱屈を感じた。プリンチペやその側近に鬱憤を溜めていたのだろう。
「女は現実主義ですわ。男性のように守ってあげたいだとかそんな感情で子の父親を決めません。己が命を懸けて子を産むのですもの。より優れた殿方の子を孕みたいと思うのです。そして、より自分を、子を大切にしてくれると思う者に身を委ねるのですわ」
ニッコリとフィーリャは微笑む。誰が自分を蔑ろにする男の胤など孕みたいものか。毒婦たちだって、狙うのは高位貴族や皇族だ。下位貴族や平民は狙わない。
そこには明らかに現実的な『より裕福でより贅沢な生活のできる相手』を選ぶ意図がある。男たちのように庇護欲をそそるからと自分の将来の不利になる平民や下位貴族を選んだりしないのだ。
これまでは男は自分の子であれば母親が誰であれ後継に出来た。けれど女系相続になれば、妻の子でなければ後継にできない。妻の子であれば、胤が誰であれ後継になれるのだ。
もし夫である自分が妻を粗雑に扱えば、妻は他の男の胤を孕む可能性がある。夫が自分を大切にしないならば、自分を幸せにしてくれる他の男を閨に招くだろう。
つまり、これまでの貴族男性の女性軽視のままでは、自分の血は絶える可能性があるのだ。そんな生物的な危機感を男は抱き、妻に誠実に向き合わなければならなくなる。
勿論、女性側にも様々な変化とそれに伴う苦労や苦悩はあるだろう。けれど、これまで軽視されてきた女性の地位は一気に向上する。
父親や兄弟、夫に握られてきた人生はこれからは自分の足で歩き、自分で選べるようになるだろう。全てとは言わなくとも、これまでよりは遥かに多くのものを自分で掴めるはずだ。
帝国は新しい時代を迎える。それが正しい選択なのかは歴史の判断を待つことになるだろうが、少なくともここに集う者たちはよりマシな時代が来ることを確信していた。
187
あなたにおすすめの小説
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです
くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は……
※息抜きに書いてみたものです※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※
本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?
もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。
政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。
王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。
王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。
オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。
よくある風景、但しある特殊な国に限る
章槻雅希
ファンタジー
勘違いする入り婿、そしてそれを受けてさらに勘違いする愛人と庶子。そんなお花畑一家を扱き下ろす使用人。使用人の手綱を取りながら、次期当主とその配偶者の生きた教材とする現当主。それをやりすぎにならないうちに収めようと意を痛める役所。
カヌーン魔導王国では、割とよくある光景なのである。
カヌーン魔導王国シリーズにしてしまいました(笑)
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる