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プロローグ
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■プロローグ(前置き)■
慶長五年(西暦一六〇〇年)七月。奥州上杉征伐に乗り出した徳川家康は味方に加わった諸将を率いて、会津若松に向かっていた。その途中、下野国小山で、石田三成らが関西で挙兵したことを聞いて諸将を集めて、上杉を討つか、それとも西に向かって石田軍と戦うかを軍議し、福島正則らの進言により、西上して三成を討つことに決まった(小山評定)。そして一足先に、正則らが尾張国清州に入り、家康は江戸に留まって来たるべき決戦の準備をした。
その内容は、多岐にわたっていた。上杉が関東に攻め込んでこないように、下野には蒲生秀行だけでなく、結城秀康らを配置し、上杉の背後にある伊達政宗と最上義光に、上杉が関東を攻めたら背後を突くように書状を送るだけでなく、敵の内部工作も行っていた。特に総大将になりそうな毛利家内部には、毛利家の両輪である、吉川・小早川のいわゆる両川に内通工作を行い、毛利家以外にも内通を誘う手紙を全国の諸大名に送っていた。
一方、関西で挙兵した三成は、家康の伏見城を落とし、関西を所領する、家康に味方した諸将の城を落とすため、兵を畿内に分散させていた。しかし徳川軍が尾張に戻っていることを聞き、急ぎ美濃に兵を集め始めていた。大垣城には三成らの軍隊が集結し、隣の関が原一帯には毛利秀元・吉川広家・小早川秀秋といった毛利の大軍も集結していた。
しかし家康は一か月経っても江戸から動かない。しびれを切らした正則は江戸に遣いを送った。その返答に正則らは清州から出陣し、石田方の岐阜城を落とすと、ようやく家康も江戸を発つことにした。
徳川の軍勢は、二手に分かれて西を目指した。家康の本隊三万二千は東海道を、家康の息子の秀忠隊三万八千は東山道を、それぞれ進んでいた。九月一日に江戸を発った家康は十日に清州に到着し、そこで暫く秀忠の到着を待ったが、まだ来そうにないので十四日になって美濃の赤坂に到着した。到着して家康は、
「息子が生きていたら」
と側近の本多忠勝に思わず漏らした。忠勝が「若殿がいらっしゃるではないですか」と応じると、家康は、
「あの息子ではないわ」
と思わず声を荒げたのだ。家康の言う息子というのは、長男の信康のことであると、さすがに忠勝も悟った。信康は文武両道に秀でた息子であったが、母親の築山殿とともに武田家との内通が疑われ、同盟を組む織田信長から腹を切るように命じられたのだった。信長の嫡男信忠の代になると、主従関係が逆転するのではないかと、信長が信康の才能を恐れたとの説もある。そんな信康に比べると、秀忠は凡庸だ。太平の世ならむしろそのほうが良いのであろうが、秀吉が死んだ今は再び戦乱の世に戻っている。
家康はこの乱れた世を、自分の目の黒いうちに徳川の世に治めようと、躍起になっていた……
慶長五年(西暦一六〇〇年)七月。奥州上杉征伐に乗り出した徳川家康は味方に加わった諸将を率いて、会津若松に向かっていた。その途中、下野国小山で、石田三成らが関西で挙兵したことを聞いて諸将を集めて、上杉を討つか、それとも西に向かって石田軍と戦うかを軍議し、福島正則らの進言により、西上して三成を討つことに決まった(小山評定)。そして一足先に、正則らが尾張国清州に入り、家康は江戸に留まって来たるべき決戦の準備をした。
その内容は、多岐にわたっていた。上杉が関東に攻め込んでこないように、下野には蒲生秀行だけでなく、結城秀康らを配置し、上杉の背後にある伊達政宗と最上義光に、上杉が関東を攻めたら背後を突くように書状を送るだけでなく、敵の内部工作も行っていた。特に総大将になりそうな毛利家内部には、毛利家の両輪である、吉川・小早川のいわゆる両川に内通工作を行い、毛利家以外にも内通を誘う手紙を全国の諸大名に送っていた。
一方、関西で挙兵した三成は、家康の伏見城を落とし、関西を所領する、家康に味方した諸将の城を落とすため、兵を畿内に分散させていた。しかし徳川軍が尾張に戻っていることを聞き、急ぎ美濃に兵を集め始めていた。大垣城には三成らの軍隊が集結し、隣の関が原一帯には毛利秀元・吉川広家・小早川秀秋といった毛利の大軍も集結していた。
しかし家康は一か月経っても江戸から動かない。しびれを切らした正則は江戸に遣いを送った。その返答に正則らは清州から出陣し、石田方の岐阜城を落とすと、ようやく家康も江戸を発つことにした。
徳川の軍勢は、二手に分かれて西を目指した。家康の本隊三万二千は東海道を、家康の息子の秀忠隊三万八千は東山道を、それぞれ進んでいた。九月一日に江戸を発った家康は十日に清州に到着し、そこで暫く秀忠の到着を待ったが、まだ来そうにないので十四日になって美濃の赤坂に到着した。到着して家康は、
「息子が生きていたら」
と側近の本多忠勝に思わず漏らした。忠勝が「若殿がいらっしゃるではないですか」と応じると、家康は、
「あの息子ではないわ」
と思わず声を荒げたのだ。家康の言う息子というのは、長男の信康のことであると、さすがに忠勝も悟った。信康は文武両道に秀でた息子であったが、母親の築山殿とともに武田家との内通が疑われ、同盟を組む織田信長から腹を切るように命じられたのだった。信長の嫡男信忠の代になると、主従関係が逆転するのではないかと、信長が信康の才能を恐れたとの説もある。そんな信康に比べると、秀忠は凡庸だ。太平の世ならむしろそのほうが良いのであろうが、秀吉が死んだ今は再び戦乱の世に戻っている。
家康はこの乱れた世を、自分の目の黒いうちに徳川の世に治めようと、躍起になっていた……
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