雪を溶かすように

春野ひつじ

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第二章

38 side凱

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 今から十数年前、その当時はその国は存在しなかったが、獣人国の王、つまり薫の父には八人の息子がいた。それぞれの王子には、“能力”が備わっていたが、中でも注目されていたのが薫の“能力”だった。薫の“能力”は治癒能力。治癒能力をもって生まれてくる獣人はほとんどいない。薫の父は、その力を使わせないように、他の王子と隔離して、家来に監視させていた。

 しかし、ある日突然薫が逃げ出し、帰ってきた頃には“能力”を使い果たしてしまっていたらしい。優しい薫のことだからきっと怪我をした人を助けたのだろうと俺は思う。しかし、当然薫の父は激怒し、薫に興味を持たなくなった。運の悪いことに、その時ちょうど薫の母が亡くなり、いよいよ薫を気にかける人がいなくなった。

 そんな時に俺は薫と出会った。寂しそうな目をして、表情が乏しい薫を見て、俺は同情すると同時に激しい怒りを感じていた。

「薫は俺と一緒に暮らす!」

 そう国王に告げ、十五歳だった俺は周りの反対を押し切って薫と暮らすことに決めた。

「なんでわざわざ将軍を辞めてまで」

「あなたには将来があるのに」

 周囲はそんなことを言って俺に辞めさせようとしていたが、自分で決めたことは絶対に諦めないというのが信条の、俺の決断を変えることは出来なかった。

 そして俺は自分の”能力“で薫の五歳までの記憶を消した。どうしてかというと、薫に限ってそういうことはないと思うが、万が一“能力”を使った相手を恨むようなことがあってはいけないと思ったから。その代わりに、薫には“能力”は元々なかったと教えた。
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