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1章 チュートリアル

長い長いチュートリアルの終わり

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 一瞬でカルミアの姿が消えた。どうやら山のふもとまで飛ばされたようだ。

「結局、何も出来なかったな……」

 当初の目的だったカルミアの救出、魔王の討伐は自分ではなく魔神の乱入によって果たされた。冬志の力で出来たことなど……

「――トウジ殿!」

「ウル太郎!なんで……あ」

 魔王が倒されたことで、ウル太郎に乗り移っていた魂が消えたらしい。

「お、おい。大丈夫か?」

 木の後ろから話しかけてきたのは啓一けいいちだ。

「……なんで、こんなとこにいる」

 啓一は城の中で戦っていたはずだ。

「あの女、いきなり戦いを止めて俺たちをここまで飛ばしたんだ」

 遼馬りょうま芽依めいも現れ、遼馬が説明をする。あの女というのは、カルミアの師匠のことか。

「一体どういうつもりだ……」

「凄い怪我けがですね……痛ましい、治してあげましょう。少し我慢してくださいね」

 芽依が手をかざすと、

「……っ!がっ、ぎ」

 折れた骨を、つぶれた内蔵を、無理やりつなげる痛みで気を失いそうになる。

「はい、もう大丈夫ですよ」

 その言葉と共に痛みは消え、怪我は全て治っていた。

「今、のは……?」

「私の固有スキル、『神の慈悲じひ』です。心の綺麗きれいな方にはあらゆる怪我や病気を治します」

「心の綺麗な方、ね」

 その言葉に引っ掛かりを覚える。

「おい、カルミアさんはどうした。助けに行ったんじゃないのか」

 遼馬がたずねる。

「カルミアは……助けられなかった」

「――やっぱり、僕が行くべきだったか」 

「っ!」

 瞬間、冬志は遼馬の胸ぐらを掴んでいた。

「……なんだよ」

 ハッと気づき、静かに手を離した。

「それにしても、上で何があったんだ?いきなり魔物の群れが押し寄せて来て、俺達には目もくれず山頂に向かってったんだが」

 啓一がおずおずと聞いてくる。

「……ガイビスという大男がいきなり来て、魔王を殺した。そいつは魔神を名乗って……どうした?」

 ガイビスという言葉を聞いて、啓一が震え出した。

「が、ガイビスって、まさか」

 *

 ヘリコニア王国、壁門へきもん

「おい!中に入れろ!王に会わせろ!」

 冬志門番に怒鳴どなりつける。

「いけません。あなたは国の出入りを禁止されています」

「なんでだ!俺が何をした!」

「あなたとカルミアには、魔神ガイビスを召喚し世界を滅亡さしようとした疑いがあります。」

「なっ……召喚したのはお前たちじゃないか!」

 啓一の話によると、

「俺とお前が気に食わなかったから新しく勇者召喚しようとしたんだが、現れたのはガイビスっていう大男だったんだ。召喚された直後にどっかに行っちゃったんだけど、まさかこんなとこに現れるなんて……」

 つまり、国王は冬志達に罪を着せようとしているのだ。

「とにかく、あなたを国へ入れることはできません。私はあなたを捕らえたくはない。どうかお引取りを」

「――くそ!」

 冬志はあきらめてここまで乗ってきた馬車に戻る。門番はその後ろ姿に

「どうか、カルミアを頼みます」

 頭を深く下げて願っていた。
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