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2章 本編

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 馬車にて

「そう落ち込むなよ。俺なんかまともな理由なしで出禁できんになったんだぞ……」

 啓一けいいちが苦笑気味にそう言う。

「おそらく、理由自体はあるんだろう。お前達を自由にさせてると勇者を複数召喚したことがバレる可能性があるから……とか」

 遼馬りょうまの言葉にハッと気づく

「この世界では勇者は一国に1人まで、という制定があるのは知ってるかい?」

 勇者は1人で国を滅ぼすことさえる。そんな存在を1国が何人も保有すると、最悪他の国に攻め込んでくる可能性がある。そのため、国同士で牽制けんせいし合うための制定が作られた。

「俺に召喚した責任をり付けたってことか……」

「それも化け物を召喚したとなると、他国全て敵に回した戦争になる可能性もあるだろうな」

 冬志はそれを聞いて、さっきの門番を思い出した。

「なんで俺を捕まえずに見逃したんだ……」

「お前、この後どこ行くつもりだ」

「……パラキシアに行く」

 今は、そこしかあてがない。



「――すまないが、もう国に入らないでくれ」

「……え」

 パラキシア国王は苦しそうにそう告げた。

「ヘリコニアから通達つうたつが来た。もちろん、お主が召喚したなどとは思ってはおらん。しかし……」

「国の繋がり……ですか」

 大罪人をかくまうことになるのだ。他の国が黙っているわけがない。

「すまない。すでに国民にも広まり、わしでもどうにもできんのだ」



 馬車に戻り、項垂うなだれる。

 啓一達はパラキシアに着いた後、それぞれ出ていった。

「こんなことしてる場合じゃないのに……!」

「王様から荷物を預かってきました」

 コソコソと周りの目をうかがいながら兵士が近づいて厚い封筒ふうとうを渡してきた。

「荷物…?」

 封筒を受け取り、中身を取り出す。

 中には、手形が入っていた。
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