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2章 本編

1話 愛しい悪夢

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「お待ちしておりました。トウジ様」

犬耳を生やした村の門番に手形を見せると、村長のところへ通された。

「魔物襲撃しゅうげきの時は誠にありがとうござりました」

王国の兵士に渡された手形には、「ガルチ村」と書かれていた。

「なんで俺を村に通したんですか?」

「んん?それはどういうことですかな」

「俺をかくまってるのがバレたらパラキシアはともかく、他国は黙ってない。最悪、俺と一緒に村ごと焼かれる可能性だってあります。なのにどうして......」

「おっふぉっふぉ、あなたがいなければわしらガルチ村の者は全員生きてはおらんでしょう。あなたが命をしてわしらを救ってくださったんじゃ。わしらが命を賭してあなたを助けない道理はございませぬ」

そう笑ってこちらを見据みすえる村長の目には覚悟が宿やどっていた。いや、村長だけではない。周りの村人も覚悟が決まっている。ここにいるほとんどに一度も会ったことがないというのに、反逆はんぎゃくの容疑をかけられ追われている相手を本気で信頼し、身体を張って守ろうとしてくれているのだ。

その事実に泣きそうになりながら、それをさとられぬようこらえる。

「ありがとうございます」

    *

宿に着き、部屋に入った瞬間ベッドにダイブした。外はすでに日が登りきっている。まりきっていた疲れが少し和らぐ。村長さんが事前に宿を取ってくれていたらしく、着いてすぐ部屋に案内された。

「ほんと、村長さんたちには顔上がらないわ。宿代も負担するって言った時はさすがにびっくりしたけど」

ここにいる間の宿代全て負担しようとしてくれていたのだが、さすがに気が引けるので断った。

「とりあえず、今後どうするか考えなく、ちゃ……」

途端とたん視界が暗転し、気絶するように深い眠りについた。

    *

やみ。足元すら見えないほど暗い暗い闇。その中、遠くに白い光を見つける。光の元へ吸い寄せられるように歩いていく。

「トウジ」

白く長い髪をした少女。ひどくなつかしく感じる少女が光の中心でうつむいていた。少女の呼びかけにこたえるように、温かい光の中に入る。少女が顔を上げる。


「――早く、助けに来て」

その顔には、生気せいき一切いっさい感じられなかった。


俺は、そっと少女をきしめた。

優しく、優しく抱きしめ続けた。
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