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魔王アムダール復活編

第16話

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「戻りました」

エデン魔術協会集会所。日夜会議が行われるこの場所に、2体のホムンクルスが帰還した。それをヨセフなどの錬金術科のメンバーが迎える。

「おかえり、ヴァイス、それにシュバルツ。成果はどうだったかな?まあもちろん、人狼の殲滅には成功したとは思うけどね」

「では、結果を報告致します。人狼の殲滅には成功しました。ですが予想外のアクシデントーーー魔王アムダールの復活により、冒険者達は全員死亡しました」

「….は?魔王の復活?」

「ええ。詳細はこちらをご覧ください」

ヴァイスとシュバルツはそう言うと、自身に備えられた映像の記録機能を使い、空中にホログラムを映して錬金術科のメンバー達に見せた。そこには、魔王アムダールが復活する過程と、冒険者達を皆殺しにする映像が映っていた。

「な….なんだよこれ….」

「私の推測ですが、魔王アムダールの魂はこの千年間滅びておらず、虚空を彷徨っていたものと思われます。それが今回、人狼達の祈りを聞き受け、人狼達の躯や魔石を利用して復活したのかと」

「あり得ない….!あの魔王はもう死んだはずじゃ…!」

「私が矢を放っても平然としていましたし、封印の能力も効果はありませんでした。恐らく状態異常に耐性があるものかと思われます」

「そんな事より冒険者達が死んだ!!くそっ、中にはA級ランクの魔術師もいたのに!!」

魔術協会のメンバーの一人が怒号をあげる。しかし、ヨセフはその怒号以上の怒鳴り声を発した。

「そんな奴らなんかどうでもいいっ!!」

ヨセフは怒鳴り声をあげて集会所のテーブルに両腕の拳を叩きつける。

「僕の最高傑作の力が通じないだと…?一体ヴァイスとシュバルツの製作にいくら掛けたと思ってるんだ!!」

「あの魔王め….ただじゃおかないからな….」

ヨセフの鬼気迫る雰囲気に、魔術協会の錬金術科の面々は慄いていた。

♢♢♢

そして、場面は再びオラクルハイトの魔術師ギルド、スマイルソーサリーへと戻る。

「それで、天使達をどうすればいいの?」

「うむ、そうだな。天使達はトゥバンの命令プログラムから完全に切り離され独立している。天使達の動作をハッキングすれば戦わずして行動を止められるかもしれないが、それは難しい」

「なんで?ブライゼもこの世界を作ったんだから天使っていうプログラムをハッキングする方法も知ってるはずでしょ?」

「それはそうなのだが、天使達はこの世界の神を吸収し、我らドラゴンの手が及ばぬ存在となっている。やはり斃すか、収納のような力を使ってお前の中に封印するくらいしか天使達を止める術はない」

「その為に天使達にダメージを与えられる武器が必要になるわけか…」

「ああ。そして天使達は単体でも強力だが、聖装と呼ばれる力を持っている」

「せいそう…?それって聖なる力って事?」

「そうだ。この世界に魔王が出現するような危機が迫った時の為の力だ。天使達は自らを武器の姿に変形させる事ができるのだよ。そして、その天使達が変形した聖装と呼ばれる武器を装備した人間は、何の力を持っていなくとも天使の力を武器を介して使えるようになる」

「凄いじゃん!それなら勇者がいなくても魔王が倒せる可能性があるね!」

「ああ。魔王はこの世界には複数体存在してな、聖装を装備して打ち倒された者もいる。しかし、今その力は悪用されようとしているわけだ」

「うーん…ボクも攻撃魔法はブライゼに教わったから一通り使えるようにはなったけど、ボクの魔法じゃ天使に敵わないかな?」

「ああ。炎撃や電撃のような基礎的な攻撃魔術では奴らに到底太刀打ちは出来ない。いくらお前が全属性に適性があるにしても、ランクの高い神性を持つとしても、お前はこの世界に生まれてから日が浅いからな。私の攻撃魔法ならダメージを与えられるが、天使達が致命傷まで持っていくには難しい。攻撃系のマジックアイテムも基本的には効果がないと見ていいだろう」

「じゃあどうするの?ボクらに残された手なんてなくない?」

「いや、いくつか方法がある。この私の竜の身体を使うのだ」

「それって…?」

「まず一つ目に私の血を飲むという方法だな。ドラゴンの血液を体内に取り入れれば、人間の身体は一瞬で鍛え上げられた筋骨隆々の肉体になり、魔力量も増える。天使達にもダメージを与えられる程にな。これはケットシーのような魔物や魔族も例外ではないし、神霊のお前にも効果は適用される」

「凄い!ならみんなブライゼの血を飲めば…」

「と言いたいところだが、竜の血はいわゆる劇物でな、先程説明した効能は人間の中でも勇者のような強靭な肉体を持つものだけが耐えられる。それ以外の人間や力なき魔物が飲むと、肉は腐り、骨は溶け、完全に体は液体のように変形して死亡するだろう」

「ええ!?そんな危険なものを飲めと!?」

「ああ。イルミナ達は素晴らしい魔力を持っているが、私の血液をそのまま飲ませるのは危険すぎる。それに、あの子達がムキムキになるのは絵面的にもキツい。だから希釈するのだ」

「あっ、そっか!薄めたら安全に飲めるって事だね!」

「その通りだ。希釈すれば副作用はせいぜい全身が筋肉痛程度で済む」

「いやそれもきついと思うけど…」

「もう一つ手はあるぞ。それはチェス、お前のおしっこを飲ませるという方法だな。そうすれば副作用はないし、高濃度の魔力の塊を体内に取り入れられるからあの子達の負担も少ない」

「いやいやいや!!女の子におしっこ飲ませられる訳ないでしょ!!駄目だよ!!何考えてんの!?」


「そうだな。流石に今のはナシだ」

「うん。当たり前でしょ….」

チェスはため息をついた。

「だが、私の血はお前なら耐えられる。先程竜眼で解析した結果だ。さあ、行くぞ」

ブライゼはそう言うと、手元からダガーナイフを取り出し腕を軽く切り付けた。ドラゴンの姿であれば傷一つ付かないが、今は人化の術で人間の姿になっているため、腕には簡単に切り傷がつき、血が少し流れた。

「さあ、この血を舐めろ」

「えー…なんか下品だけど仕方ないか…これも天使に打ち勝つ為だもんね」

チェスはブライゼの血液をペロリと3滴ほど舐めた。

「うう、やっぱりドラゴンの血も鉄みたいな味がするなぁ…」

「まあ血だからな。身体に何か変化はあるか?」

「いや、なんか喉がイガイガするくらいかな…って、うわっ!」

チェスの身体が仄かに光っている。それはまるで、蛍が放つ光のようだった。光はすぐに収まり、ブライゼがチェスという名前を命名した時のように、チェスの身体の中には暖かな力が流れた。

「おっ、ブライゼにチェスって名前を貰った時みたいな暖かさがボクの中に流れてきた!」

「成功だな。解析スキルで鑑定したところ、魔力量が底上げされている」

「本当?やった!でも、身体はムキムキにはならないよ?」

「ああ、それも耐性だろう。もしくはお前が身体の筋肉が膨張しないように無意識に望んだかのどちらかだな」

「良かった。ムキムキの猫なんてちょっと頂けないからなぁ…」

「しかしベルガは人間、獣人、獣とどの姿も筋骨隆々ではないか?同じネコ科だからお前も筋肉がついても違和感がないと思うが」

「ベルガは虎の半獣人でしょ?そりゃ筋肉ムキムキだよ。前に上半身の筋肉見せてもらったけど凄かったもん。まあ、ベルガは魔術を主に使うから筋力はあまり関係なさそうだけど」

「そんな事はないぞ?健全な肉体の持ち主ほど魔力量も多く、強力な魔術を使いこなせる。つまり、身体能力と魔力は比例するのだ。半獣人のように強靭な肉体を持つ種族は魔力量も高い」

「つまり魔術(物理)という訳ですか」

「まあそういう事になるな。とりあえず皆を呼ぼうか。今日の仕事は終わったみたいだしな。今後の話をしたい」

「そうだね。ボクが呼んでくるよ」

チェスはマルタンやイルミナ達を呼ぶ為にギルドの外へと走っていった。

「で、天使に対抗する手段が見つかったと言う事だけど、どうすんだ?なんか策とかあんのかよ?」

「ああ。まず一つ目に、私の身体を最大限まで利用してもらう」

「ブライゼさんの身体を?どう言う事ですか?まさかエッチとかするんですか!?」

「いや違うぞユーディット。そういう事ではない。私の鱗を使い武器を作ったり、血液を使って妙薬を作り、その妙薬でお前達の肉体を強化するのだ」

「ん、それはあれか!竜の身体から取れる素材を使って武器作りって事ね!わかったぜ!あとユーディット、女の子がエッチとか言うなし」

「ごめんね…///」

ユーディットは失言した恥ずかしさに顔を赤らめている。

「でもよ、強いブライゼの身体から取れた素材で作った武器が強いのはわかるんだが、それが天使に通用すんのか?魔力耐性も高いからアタシらの攻撃なんかほぼ通んねえんだろ?」

「心配するな。そう思って、助っ人を連れてきている。私の同胞だ。さあ、こちらに来い、ノストラよ」

ブライゼが虚空に向かってそう呟くと、空間が歪み、ゲートが出現した。そこからは星空が見えている。そのゲートから、身長が150cmほどの、可愛らしい菫色の体色をした二足歩行のドラゴンが現れた。

「座標はここで間違いはないですね?ブライゼ」

「ああ。来てくれて感謝するぞ」

「まずは自己紹介からですね。はじめまして皆様。わたしはノストラと申します。こちらの竜、ブライゼの同胞です」

「か….」

「ん?どうしたのですか?」

「かわい~!!!」

アミーシャとイングリッドとユーディットはそう言うと、ノストラに駆け寄りハグをした。つるつるして、ぷにぷにした肌触りに、3人は癒された。

「あの…ブライゼ….」


「うむ。少し触らせてやれ」

「はあ…普通ドラゴンは威厳があるのに、私はこんなナリだから下に見られるのでしょうね」

「いや、これは下に見られたり舐められたりではないぞ。純粋にこの子達はお前を可愛がっている」

「は、はあ….」

3人は思いっきりノストラのつるぷにさを堪能した。

「で、本題に入りますが。あなた方は天使を滅するのですね?」

「はい!ブライゼさんの話を聞いたら、イレインも大変な事になっているみたいですし、わたし達も放っておけません」

「そうですか。ですが、天使達は無策で突っ込んで敵うような相手ではありませんよ。その点に関してはブライゼからも話を聞いたのでしょう?それに、天使達が存在する事で魔王は滅び、魔物、魔族も大人しくなっています。その均衡も崩すという事ですか?」

「ああ。天使でもやっていい事と悪い事がある。アタシらはそれを天使に教えたいんだよ」

「わかりました。わたしも最大限協力しましょう。ただし、一つ条件があります」

「な、なんだよそれは?」

イルミナは恐る恐るノストラに条件を尋ねる。ノストラは冷静な口調でこう答えた。

「痛いのが嫌いなんでわたしは後方支援のみとさせて頂きます!!」

「お、おう。いいぜ…」

ノストラは周囲に威圧しながらそう答えた。猫達はズコーッと薄ら寒いリアクションをする。

「竜が誰しもブライゼみたいに強いと思わないでください。わたしは非力なんです。重たいものは超能力で動かしてますからね」

「は、はあ….」

こうしてまた新たに、スマイルソーサリーに1人仲間が加わった。後にこの竜が世界を救う鍵になるとは、今はまだ誰も知らない。
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