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魔王アムダール復活編
第18話
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「初めまして!オイラが第七天使シエルだよ!」
突如現れた天使に、辺りはシーンと静まり返る。そして、一瞬の沈黙の後、イルミナをはじめとする魔法使い達や、猫達は臨戦態勢へと入った。
「ちょ、待ってよ!オイラ丸腰なんだって!」
天使シエルは必死に周囲を宥める。その後、ブライゼがシエルに詰問した。
「まず問おう。ここに何しに来た?カトレアを統治する天使よ」
「オ、オイラはみんなの、人間達の味方になりたいんだ!!」
「何だと?」
「詳しい事を話すね!」
♢♢♢
「はーなるほど、お前は天使の中でも序列が最底辺だからいびられまくってて、それで天使達に復讐がしたいと。そんで、アタシらの力を借りたいと」
イルミナが呆れながらシエルにそう呟いた。シエルはイルミナの台詞を聞いて冷や汗をかきながらヘラヘラと笑っている。
「うーん、まあ、否定はできないかなぁ…みんなオイラに雑用を押し付けるんだ!でもそれよりもさ、大変な事が起きたんだ!第一天使のマクスウェルは禁断の果実というアイテムを生み出したんだよ!」
「禁断の果実?何だそれは」
「禁断の果実っていうのはね、その名の通りリンゴに似た形をした果物なんだけど、この果実を食べた人間は異形の姿に変形して理性が無くなり、化け物みたいになっちゃうんだ」
「な….」
「マクスウェルは今ナワトっていう国を裏から支配してるんだけど、そこで大量の人間に禁断の果実を無理矢理食べさせて異形化した人間を増やしてる。確かそうだな、カリって呼ばれている化け物から抽出したエキスで作られたとか言ってたな」
シエルのその言葉を聞き、ベルガは戦慄する。そう、彼の故郷はナワト王国なのだ。恐る恐るベルガはシエルに向かって訪ねた。
「まさか、僕の家族を殺したのも…」
「えっと…君の顔をどこかで見たような。君はもしかして…ナワトの王族の子かな?まさか、ベルガ?」
「そうだよ。何で僕の名前を知ってるの?」
「全部見てたからだよ。君のお父さんとお母さんをマクスウェルがけしかけたカリが殺すところもね」
「…..!!」
「ベルガ、これからオイラが言う事は全部事実だ。ショックを受けないで聞いてほしい。カリの封印を解きナワトに放ったのはマクスウェルだ」
「マクスウェル….!!あの第一天使の!」
「そうだよ。そして、マクスウェルはカリを加工する事で禁断の果実を作り上げた。より効率的に人間を殺して間引く為にね。カトレアを管理してるのはオイラだけど、その裏で手を引いていたのはマクスウェルさ。あいつが天使の力でカトレアの人間を次々と洗脳していき、他国に攻め込ませることで人間の数を減らそうと考えている」
「やばいよそれ!というより君も天使なんでしょ?なんでマクスウェルとかを止めないの!!」
「そんなの逆らえないからに決まってるじゃないか!!さっきそこのドラゴンが言ってた通りだよ!!オイラは天使の中でも最弱で最下位なんだ!!でもね、希望はあるよ。そこのチェスっていう転生者のケットシー、いや神霊の中にオイラが入って、天使に戦ってもらうのさ。そうすれば彼の神性のランクはEXだから十分に勝ち目はある」
「だからお前はここに来たというわけか」
「ザッツライトッ!!その通りだよ!!それにマクスウェルは自分の考えに賛同しなかったマルナパリス、ユグレイア、エストレイトを吸収しちゃったんだ!!そんで次はオイラが殺されて吸収されちゃうよ!!だからそれならチェスに吸収された方が意識も消えないしまだ良いって思って…」
「都合良すぎですよ。今までたくさんの人間を間接、直接問わず殺したくせに。どうしますブライゼ、あなたならこいつに勝てるんでしょう?さっさと殺してチェスさんに吸収してもらいましょうか」
「うむ。ノストラ、お前も加勢しろ」
「ええ。わたしの空間魔術で首と胴体を分断して差し上げましょう」
ブライゼとノストラはシエルに敵意と殺意を剥き出しにして詰め寄る。
「ブライゼ、あなたは竜の姿になるのでしょう?だとしたらここではない方がいいですね。わたしも竜の姿になりますので、フィールドチェンジといきましょうか」
ノストラは手をくいっと振ると、辺りの景色が一変する。そこは荒廃したビル群が立ち並ぶ未来都市のような場所だった。
「まさかこの力は、予言竜ノストラの…」
「さて、ここなら竜の姿になれるな。皆の者、よく見ておくが良い」
ブライゼは身体に力を込めると、バキバキと音を立てて人間の姿からドラゴンの姿に変化する。それに続いてノストラもドラゴンの姿へと変わった。ブライゼは全長20m、ノストラは全長10mほどのドラゴンに。
「あっ….竜が2体!?嘘でしょ!!オイラは非力なんだよ!!こんなの卑怯じゃないか!!」
「大冷界」
ブライゼはシエルの足元に魔法陣を出現させ、広範囲の冷気を放った。その冷気はシエルの周囲を包み込み、鋭い氷塊を作り上げていく。
「ちょ、話を聞いてよ!!光体化(パーティクルボディ)!!」
シエルは全身を光に変え、ブライゼの強力な冷気を回避する。
「危なっ…もう!話を聞いてよ!竜ってこんなに人の話を聞かないの!?」
「なるほど。全身を光の粒子に変えましたか。これでは攻撃が通りませんね。しかしこれならどうです?亜空間の墓(ディメンション・グレイブヤード)」
ノストラの放った技がシエルのいる辺り一帯を包み込む。それは、透明な升目のような模様が描かれた巨大な立方体のような空間だった。
「!!閉じ込められた!?」
「終わりだな。この技で幕を引いてやろう。稲妻の刺突剣(ライトニング・カルンウェナン)」
「シエルの背後の空間が歪み、その渦から光の収束した剣が放たれる。光の剣はシエルに直撃した。
「かっ….!!!」
シエルの横腹に光の剣が一つ突き刺さる。シエルは痛みで地に落ち、衝撃を全身に受けた。
「終わりましたね。光の身体には光の魔法をぶつければいい。まあそれもブライゼのような並外れた魔力がなければ敵いませんが」
ノストラが涼しげな顔でシエルを見て呟いた。そして、ブライゼとノストラはドラゴンの姿から人の姿へと戻った。それに伴い、ノストラの能力も解除され、周囲の空間も元いたギルドの中へと戻る。
「分断の鎖(ディビジョン・チェイン)」
ノストラは更に倒れているシエルに追い打ちをかけるように手足を魔法で出現させた鎖で縛り、拘束する。シエルの首にも鎖が巻き付いている。
「痛たたたた….」
シエルは起きあがろうとするも、巻きつかれた鎖に縛られて動けないようだった。横腹からは出血もしている。
「さて、こいつをどうする?ノストラよ。まあ、もう答えは決まっているだろうがな」
「ええ、殺しましょうか。マクスウェルはこいつも吸収するようですし、これ以上強くなられても困りますしね。さ、ブライゼ、やっちゃってください」
ブライゼがシエルの頭に手を伸ばした瞬間、チェスが声を上げた。
「待って!ブライゼ!ノストラ!」
「チェス?」
「その子…シエルは多分悪い奴じゃないと思う。だから解放してあげて」
チェスはブライゼとノストラに恐怖を感じながらも勇気を出して二人と対峙する。
「最終的にあなたの中に収納さえすれば良いではないですか。こいつの生死は関係ないのでしょう?それに、敵を庇うなんてまだまだあなたは甘いですね。やはり元人間の身だからでしょうか」
「…..」
「どうしましたブライゼ?」
「いや、私の竜眼が告げている。この天使を生かせと。ノストラよ、お前の未来予知ができる竜眼も調べてくれないか」
「あ…そうか。アレを使えばいいのか」
「そうだ。お前の能力、分岐接触(ディバージェンス・タッチ)で見てみてくれ」
「わかりました。アレは脳に負担がかかるからあまり使いたくないのですがね…まあ仕方ないか」
ノストラは額に両手を当てて目を閉じた。なにやら瞑想をしているようだ。
「ブライゼ、ノストラは何をしているの?」
「ああ、ノストラはな、未来を予知できる竜眼を有しているのだ。それも一つの未来だけではない。分岐した未来をある程度まで見ることが出来る。これにより、望んだ未来に近づけるように行動の方針を決められるのだ。しかも、ある程度その未来にノストラが可能な範囲までだが干渉することもできる」
「凄いじゃないか!もしかしたらこの天使が生き残る道も見つかるかもって事?」
「そうだな。ノストラが予言竜と呼ばれる所以だ」
そして20分後、ノストラは再び瞳を開けた。
「解析と予知が完了しました。ここまで演算したルートは累計26ルートです。うち最も人間達が天使に勝てる可能性の高いルートは1つだけ存在しました。それは、この天使シエルを生かす事です」
それを聞いてチェスの顔は明るくなる。いや、チェスだけではなく、マルタンら猫達の顔も、イルミナ達の顔も明るくなった。
「ノストラ、それはシエルを生かせば天使達に勝てるって事だよね!?」
「ええ。屈辱ですがそういう事になります。ルート19にて人間達が天使に勝利する映像が見えました。天使達はアカシックレコードにも干渉しているようで、過程はところどころノイズがかかって視認できないものもありましたが、この天使シエルと共に戦うことが勝利の鍵のようです」
シエルはそれを聞くと、助かったとばかりに安堵の表情を浮かべた。
「なら、シエルと一緒に戦おう!可哀想だしこの拘束具も解いてあげようよ!」
「それは駄目だ」
直後、シエルは再び絶望の表情を浮かべた。
「こいつは天使としての能力である人間を洗脳する能力を持っている。いや、人間だけではない。魔物や魔族もレベルの低い者なら意のままに操れるほどの力を有しているのだ。そんな奴を野放しにしてみろ、イルミナ達やマルタン達に危険が及ぶぞ」
「ええ。だからその拘束具を装着したまま、チェスの中に収納されて貰います」
「ええ!?オイラまだ何もしてないじゃないか!!」
「しない保証はないだろう?さあチェス、そいつを収納の能力で吸収しろ。私とノストラもお前の中に入って何重にもロックを施してくる」
「わかったよ。でも、シエルを殺さないでね?これは約束して。じゃなきゃブライゼとノストラには協力しない」
「ああ、わかった」
チェスは収納の能力を使い、シエルを収納した。
「さて、私達もお前の中に入る。一度お前の精神世界に入ればゲートを出現させてもう一度入る事は容易いからな。さあ行くぞノストラ」
「ええ」
ノストラとブライゼはブライゼが作ったチェスの精神世界へと繋がるゲートを通じてチェスの精神世界へと入っていった。
「うー…..ここは…..」
「おはよう、堕天使」
ブライゼとノストラは牢獄のような場所にいた。シエルの視界には、蝋燭の炎に照らされた人間形態のブライゼとノストラの姿が映っていた。
「はっ!!ドラゴンの二人!!そっか、オイラはチェスの中に吸収されて…」
「そうだ。お前は外に出したら何をしでかすかわからんからな。こうして厳重に、チェスの精神世界の深層に封じるというわけだ」
「まあ、ブライゼがチェスの身体を通して力を放出してた時みたいに、必要になったらあなたの力も貸して頂く事にはなりますが。でもそれ以外の時には出てこなくて良いですよ。あなたウザいんで」
ノストラのストレートな罵倒にシエルはしゅんとなるが、その直後、シエルはこんな事を言った。
「あ….鎖と拘束具に縛られたこの状態、なんか興奮するかもしれない」
「は?」
ノストラは怪訝な顔でシエルのズボンを見つめると、股間の部分がうっすらと膨らんでいた。
「え?死ねよ変態天使」
ノストラはストレートに暴言をシエルへとぶつける。
「というよりノストラ、君もよく見たら人間形態もかわいいなぁ♡うふふ、もっとオイラを詰って?」
「ブライゼ、こいつ殺してもいいですかね?」
「待て待て、お前の未来予知で殺すなって出たんだろう?それを自ら否定する気か?」
「いやなんか….不快極まりないというか」
「ま、まあ私も殺意が湧いたが…ドラゴンにも天使は聖装として装備できるだろう?いざという時のためにお前も戦う手段としてこいつを生かして.…」
「絶対嫌ですね。こいつを装備して戦う?なんの冗談ですか。あなたに頬をつねられる方がマシです」
「オイラ詰られてる!!ああ、もっとやってェ!!」
「死ね。236回死ね」
「ううむ…とにかくチェスの中から出るぞ。さあ行こうかノストラ。こいつはもう動けないから安心しろ」
「チェスには悪いけど二度とここには来ません」
「ああ、もう二度とその綺麗な顔を見れないと思うと更に興奮してきた…」
こうしてチェスらは天使に対抗する手段を一つ手に入れた。しかし、天使シエルはドがつく変態天使である。果たしてチェスはこんなん吸収して大丈夫なのだろうか。
突如現れた天使に、辺りはシーンと静まり返る。そして、一瞬の沈黙の後、イルミナをはじめとする魔法使い達や、猫達は臨戦態勢へと入った。
「ちょ、待ってよ!オイラ丸腰なんだって!」
天使シエルは必死に周囲を宥める。その後、ブライゼがシエルに詰問した。
「まず問おう。ここに何しに来た?カトレアを統治する天使よ」
「オ、オイラはみんなの、人間達の味方になりたいんだ!!」
「何だと?」
「詳しい事を話すね!」
♢♢♢
「はーなるほど、お前は天使の中でも序列が最底辺だからいびられまくってて、それで天使達に復讐がしたいと。そんで、アタシらの力を借りたいと」
イルミナが呆れながらシエルにそう呟いた。シエルはイルミナの台詞を聞いて冷や汗をかきながらヘラヘラと笑っている。
「うーん、まあ、否定はできないかなぁ…みんなオイラに雑用を押し付けるんだ!でもそれよりもさ、大変な事が起きたんだ!第一天使のマクスウェルは禁断の果実というアイテムを生み出したんだよ!」
「禁断の果実?何だそれは」
「禁断の果実っていうのはね、その名の通りリンゴに似た形をした果物なんだけど、この果実を食べた人間は異形の姿に変形して理性が無くなり、化け物みたいになっちゃうんだ」
「な….」
「マクスウェルは今ナワトっていう国を裏から支配してるんだけど、そこで大量の人間に禁断の果実を無理矢理食べさせて異形化した人間を増やしてる。確かそうだな、カリって呼ばれている化け物から抽出したエキスで作られたとか言ってたな」
シエルのその言葉を聞き、ベルガは戦慄する。そう、彼の故郷はナワト王国なのだ。恐る恐るベルガはシエルに向かって訪ねた。
「まさか、僕の家族を殺したのも…」
「えっと…君の顔をどこかで見たような。君はもしかして…ナワトの王族の子かな?まさか、ベルガ?」
「そうだよ。何で僕の名前を知ってるの?」
「全部見てたからだよ。君のお父さんとお母さんをマクスウェルがけしかけたカリが殺すところもね」
「…..!!」
「ベルガ、これからオイラが言う事は全部事実だ。ショックを受けないで聞いてほしい。カリの封印を解きナワトに放ったのはマクスウェルだ」
「マクスウェル….!!あの第一天使の!」
「そうだよ。そして、マクスウェルはカリを加工する事で禁断の果実を作り上げた。より効率的に人間を殺して間引く為にね。カトレアを管理してるのはオイラだけど、その裏で手を引いていたのはマクスウェルさ。あいつが天使の力でカトレアの人間を次々と洗脳していき、他国に攻め込ませることで人間の数を減らそうと考えている」
「やばいよそれ!というより君も天使なんでしょ?なんでマクスウェルとかを止めないの!!」
「そんなの逆らえないからに決まってるじゃないか!!さっきそこのドラゴンが言ってた通りだよ!!オイラは天使の中でも最弱で最下位なんだ!!でもね、希望はあるよ。そこのチェスっていう転生者のケットシー、いや神霊の中にオイラが入って、天使に戦ってもらうのさ。そうすれば彼の神性のランクはEXだから十分に勝ち目はある」
「だからお前はここに来たというわけか」
「ザッツライトッ!!その通りだよ!!それにマクスウェルは自分の考えに賛同しなかったマルナパリス、ユグレイア、エストレイトを吸収しちゃったんだ!!そんで次はオイラが殺されて吸収されちゃうよ!!だからそれならチェスに吸収された方が意識も消えないしまだ良いって思って…」
「都合良すぎですよ。今までたくさんの人間を間接、直接問わず殺したくせに。どうしますブライゼ、あなたならこいつに勝てるんでしょう?さっさと殺してチェスさんに吸収してもらいましょうか」
「うむ。ノストラ、お前も加勢しろ」
「ええ。わたしの空間魔術で首と胴体を分断して差し上げましょう」
ブライゼとノストラはシエルに敵意と殺意を剥き出しにして詰め寄る。
「ブライゼ、あなたは竜の姿になるのでしょう?だとしたらここではない方がいいですね。わたしも竜の姿になりますので、フィールドチェンジといきましょうか」
ノストラは手をくいっと振ると、辺りの景色が一変する。そこは荒廃したビル群が立ち並ぶ未来都市のような場所だった。
「まさかこの力は、予言竜ノストラの…」
「さて、ここなら竜の姿になれるな。皆の者、よく見ておくが良い」
ブライゼは身体に力を込めると、バキバキと音を立てて人間の姿からドラゴンの姿に変化する。それに続いてノストラもドラゴンの姿へと変わった。ブライゼは全長20m、ノストラは全長10mほどのドラゴンに。
「あっ….竜が2体!?嘘でしょ!!オイラは非力なんだよ!!こんなの卑怯じゃないか!!」
「大冷界」
ブライゼはシエルの足元に魔法陣を出現させ、広範囲の冷気を放った。その冷気はシエルの周囲を包み込み、鋭い氷塊を作り上げていく。
「ちょ、話を聞いてよ!!光体化(パーティクルボディ)!!」
シエルは全身を光に変え、ブライゼの強力な冷気を回避する。
「危なっ…もう!話を聞いてよ!竜ってこんなに人の話を聞かないの!?」
「なるほど。全身を光の粒子に変えましたか。これでは攻撃が通りませんね。しかしこれならどうです?亜空間の墓(ディメンション・グレイブヤード)」
ノストラの放った技がシエルのいる辺り一帯を包み込む。それは、透明な升目のような模様が描かれた巨大な立方体のような空間だった。
「!!閉じ込められた!?」
「終わりだな。この技で幕を引いてやろう。稲妻の刺突剣(ライトニング・カルンウェナン)」
「シエルの背後の空間が歪み、その渦から光の収束した剣が放たれる。光の剣はシエルに直撃した。
「かっ….!!!」
シエルの横腹に光の剣が一つ突き刺さる。シエルは痛みで地に落ち、衝撃を全身に受けた。
「終わりましたね。光の身体には光の魔法をぶつければいい。まあそれもブライゼのような並外れた魔力がなければ敵いませんが」
ノストラが涼しげな顔でシエルを見て呟いた。そして、ブライゼとノストラはドラゴンの姿から人の姿へと戻った。それに伴い、ノストラの能力も解除され、周囲の空間も元いたギルドの中へと戻る。
「分断の鎖(ディビジョン・チェイン)」
ノストラは更に倒れているシエルに追い打ちをかけるように手足を魔法で出現させた鎖で縛り、拘束する。シエルの首にも鎖が巻き付いている。
「痛たたたた….」
シエルは起きあがろうとするも、巻きつかれた鎖に縛られて動けないようだった。横腹からは出血もしている。
「さて、こいつをどうする?ノストラよ。まあ、もう答えは決まっているだろうがな」
「ええ、殺しましょうか。マクスウェルはこいつも吸収するようですし、これ以上強くなられても困りますしね。さ、ブライゼ、やっちゃってください」
ブライゼがシエルの頭に手を伸ばした瞬間、チェスが声を上げた。
「待って!ブライゼ!ノストラ!」
「チェス?」
「その子…シエルは多分悪い奴じゃないと思う。だから解放してあげて」
チェスはブライゼとノストラに恐怖を感じながらも勇気を出して二人と対峙する。
「最終的にあなたの中に収納さえすれば良いではないですか。こいつの生死は関係ないのでしょう?それに、敵を庇うなんてまだまだあなたは甘いですね。やはり元人間の身だからでしょうか」
「…..」
「どうしましたブライゼ?」
「いや、私の竜眼が告げている。この天使を生かせと。ノストラよ、お前の未来予知ができる竜眼も調べてくれないか」
「あ…そうか。アレを使えばいいのか」
「そうだ。お前の能力、分岐接触(ディバージェンス・タッチ)で見てみてくれ」
「わかりました。アレは脳に負担がかかるからあまり使いたくないのですがね…まあ仕方ないか」
ノストラは額に両手を当てて目を閉じた。なにやら瞑想をしているようだ。
「ブライゼ、ノストラは何をしているの?」
「ああ、ノストラはな、未来を予知できる竜眼を有しているのだ。それも一つの未来だけではない。分岐した未来をある程度まで見ることが出来る。これにより、望んだ未来に近づけるように行動の方針を決められるのだ。しかも、ある程度その未来にノストラが可能な範囲までだが干渉することもできる」
「凄いじゃないか!もしかしたらこの天使が生き残る道も見つかるかもって事?」
「そうだな。ノストラが予言竜と呼ばれる所以だ」
そして20分後、ノストラは再び瞳を開けた。
「解析と予知が完了しました。ここまで演算したルートは累計26ルートです。うち最も人間達が天使に勝てる可能性の高いルートは1つだけ存在しました。それは、この天使シエルを生かす事です」
それを聞いてチェスの顔は明るくなる。いや、チェスだけではなく、マルタンら猫達の顔も、イルミナ達の顔も明るくなった。
「ノストラ、それはシエルを生かせば天使達に勝てるって事だよね!?」
「ええ。屈辱ですがそういう事になります。ルート19にて人間達が天使に勝利する映像が見えました。天使達はアカシックレコードにも干渉しているようで、過程はところどころノイズがかかって視認できないものもありましたが、この天使シエルと共に戦うことが勝利の鍵のようです」
シエルはそれを聞くと、助かったとばかりに安堵の表情を浮かべた。
「なら、シエルと一緒に戦おう!可哀想だしこの拘束具も解いてあげようよ!」
「それは駄目だ」
直後、シエルは再び絶望の表情を浮かべた。
「こいつは天使としての能力である人間を洗脳する能力を持っている。いや、人間だけではない。魔物や魔族もレベルの低い者なら意のままに操れるほどの力を有しているのだ。そんな奴を野放しにしてみろ、イルミナ達やマルタン達に危険が及ぶぞ」
「ええ。だからその拘束具を装着したまま、チェスの中に収納されて貰います」
「ええ!?オイラまだ何もしてないじゃないか!!」
「しない保証はないだろう?さあチェス、そいつを収納の能力で吸収しろ。私とノストラもお前の中に入って何重にもロックを施してくる」
「わかったよ。でも、シエルを殺さないでね?これは約束して。じゃなきゃブライゼとノストラには協力しない」
「ああ、わかった」
チェスは収納の能力を使い、シエルを収納した。
「さて、私達もお前の中に入る。一度お前の精神世界に入ればゲートを出現させてもう一度入る事は容易いからな。さあ行くぞノストラ」
「ええ」
ノストラとブライゼはブライゼが作ったチェスの精神世界へと繋がるゲートを通じてチェスの精神世界へと入っていった。
「うー…..ここは…..」
「おはよう、堕天使」
ブライゼとノストラは牢獄のような場所にいた。シエルの視界には、蝋燭の炎に照らされた人間形態のブライゼとノストラの姿が映っていた。
「はっ!!ドラゴンの二人!!そっか、オイラはチェスの中に吸収されて…」
「そうだ。お前は外に出したら何をしでかすかわからんからな。こうして厳重に、チェスの精神世界の深層に封じるというわけだ」
「まあ、ブライゼがチェスの身体を通して力を放出してた時みたいに、必要になったらあなたの力も貸して頂く事にはなりますが。でもそれ以外の時には出てこなくて良いですよ。あなたウザいんで」
ノストラのストレートな罵倒にシエルはしゅんとなるが、その直後、シエルはこんな事を言った。
「あ….鎖と拘束具に縛られたこの状態、なんか興奮するかもしれない」
「は?」
ノストラは怪訝な顔でシエルのズボンを見つめると、股間の部分がうっすらと膨らんでいた。
「え?死ねよ変態天使」
ノストラはストレートに暴言をシエルへとぶつける。
「というよりノストラ、君もよく見たら人間形態もかわいいなぁ♡うふふ、もっとオイラを詰って?」
「ブライゼ、こいつ殺してもいいですかね?」
「待て待て、お前の未来予知で殺すなって出たんだろう?それを自ら否定する気か?」
「いやなんか….不快極まりないというか」
「ま、まあ私も殺意が湧いたが…ドラゴンにも天使は聖装として装備できるだろう?いざという時のためにお前も戦う手段としてこいつを生かして.…」
「絶対嫌ですね。こいつを装備して戦う?なんの冗談ですか。あなたに頬をつねられる方がマシです」
「オイラ詰られてる!!ああ、もっとやってェ!!」
「死ね。236回死ね」
「ううむ…とにかくチェスの中から出るぞ。さあ行こうかノストラ。こいつはもう動けないから安心しろ」
「チェスには悪いけど二度とここには来ません」
「ああ、もう二度とその綺麗な顔を見れないと思うと更に興奮してきた…」
こうしてチェスらは天使に対抗する手段を一つ手に入れた。しかし、天使シエルはドがつく変態天使である。果たしてチェスはこんなん吸収して大丈夫なのだろうか。
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