転生したら史上最強の猫ちゃんでした~唸れ肉球伝説~

岸谷 畔

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オラクルハイト襲撃編

第29話

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「ここが…冥王の間…」

エマ、ピョートル、シャルロットの3人は冥界の地下まで続くエレベーターに乗って最下層に位置する冥王の間まで来ていた。

「この先にメルセデス様がいるのですね…私めは先代の冥王のバルバトス様にしかお会いした事がありませんので少し不安ですな」

「大丈夫よ!私がいるもの!さ、着いてきて」

シャルロットはエマとピョートルを引き連れて巨大な黒い配色の扉へと向かう。

「見えたわ、ここが冥王の間へと続く影の門よ」

「この辺り一帯も花が咲き乱れてる…街の中よりもすごく綺麗…」

「見とれている暇は無いわよ、さ、行きましょ」

花や景色に見とれているエマの手をひき、シャルロットとピョートルは歩き出した。花の蔓が巻きついた巨大なアーチをくぐり抜け、600メートルほど歩いた所でだろうか。3人は冥王の間の前にいた騎士の姿をした幽霊に声をかけられた。

「そこの3人組、ここで止まりなさい」

エマ、シャルロット、ピョートルの3人はその声に反応して門の前で立ち止まる。3人の目の前には、2人の騎士の姿をした男性が槍を持って立っていた。どうやらこの2人は人間の姿をとっているようだった。

「この冥王の間に何用でしょうか?そして、名を名乗りなさい」

騎士の亡霊は3人に名を名乗るように要求する。そして一番にシャルロットが名を名乗った。

「私はシャルロット。シャルロット・クローリーよ」

「わ、わたしはエマです」

「私めはピョートルと申します」

シャルロットに続き、エマ、ピョートルの2人も名を名乗った。

「シャルロット・クローリー様!あの先代の冥王のバルバトス様と、現在の冥王のメルセデス様とお知り合いの!」

「ええ。私はメルセデスに用があって来たわ。そしてこの2人も、同じようにメルセデスと謁見を希望しているの」

「そうでしたか。では、こちらの門を潜り、メルセデス様のいらっしゃる大広間へとお通りください」

「ありがとうね。あ、もしかしたら言わなくてもわかってはいるでしょうけど」

シャルロットは騎士の亡霊に向かって話を展開する。それに続き、騎士の亡霊もシャルロットへと返答をした。

「ええ。現世に何か危機が迫っているのですよね。メルセデス様も現世に魔王が復活したという事を存じているはずです」

「この事は一般の冥界の住民には内緒にしてね。まあ、あなたもメルセデスの元で門番をしているなら口は硬いでしょうけど」

「はっ!エマ様とピョートル様にも幸あれ!」

2人の騎士の亡霊は意気揚々とシャルロット達を門の中へと迎え入れた。そして、冥王の間へと3人は足を踏み入れた。

冥王の間は巨大な城の内部の中心部に埋め込まれているような構造になっており、影の門を潜った後も更に階段を登らなければ辿り着けない構造になっていた。皮肉な事にエレベーターなど無い。

「ふぅ…なんで冥王の間にはエレベーターが無いのかしら。こればっかりは改築してほしいわね…」

「はい….もう300段くらい登ったのかな」

エマは少しだけ汗をかきながら階段を登っていた。死後の世界でも汗はかくんだと判明した瞬間でもあった。

「シャルロット様に至ってはヒールの高い靴を履いていますし、そのような靴でこの城の階段を登るとなると、山登りをしているのとほぼ変わりはないでしょう。ご愁傷様です… 」

「あ、わたし達もピョートルさんと同じような姿になれば良いのではないでしょうか?ほら、冥界では姿形を複数のパターンから選んで変身できるんですよね?」

「エマちゃん、その案は既に思いついているわ。だけど却下。」

シャルロットがエマの提案を切れ味の良い刃物で物を切るように断る。

「えっ、どうしてですか?」

「ただでさえかわいい私がもっとかわいくなっちゃうじゃない!そんな姿じゃメルセデスに会ったら舐められちゃうわ!」

「ああ、私めも忘れてました。冥界で姿を変えれば、最低でも24時間ほど経過しなければ元の姿に戻ったり、他の姿に変身できない制約があったのです」

「そうなんですね!でも、何のために?」

「冥界でもし幽霊が犯罪を働いた時に、何回もすぐに変身できたら簡単に行方をくらます事ができるでしょう?だから治安の為に時間の制約もかけているのよ」

「そっか!でも、冥界にも犯罪はあるんですね….」

「残念ながらね。さ、階段ももうひと踏ん張りよ」

シャルロットとピョートルはエマに簡潔に理由を説明し、階段をひたすら登る。そして、冥王の間に到着した。


「やっと着いたわ…ここまでざっと1時間!私の空間移動の魔法が使えればいいんだけど、この城ではメルセデス以外が魔法を使う事は禁止されてるからなぁ。だから歩きで登っていくしかないのよね」

「兎にも角にも、到着しました。さ、シャルロット様、エマさん。何を言うべきなのかはもうお決まりですよね」

「ええ!魔王アムダールの事を言わなくちゃ!」

3人は冥王の間へと続く扉を開け、壮麗なシャンデリアが吊り下げられた回廊を歩いていった。

♢♢♢

冥王の間。それはこの冥界を治める王が魂の管理などを行う場所である。

「…来たのね」

「ああ!メルセデス!久しいわね!」

その冥王の間の中心部に位置する水晶で作られた巨大な椅子に、冥界の女王、メルセデスが座っていた。

「あなたが….メルセデス様….」

エマはメルセデスのあまりにも美しい姿に息を呑んだ。黒い豪華なドレスに白き肌、桃色の長い髪、アメジストのような瞳、そして冥界に咲く白い花で編まれた花冠。どれもがメルセデスの美しさを引き立てるものだった。

「シャルロット。このお2人は?」

「紹介するわ。この金髪の女の子はエマで、この亡霊はピョートルというの」

「そうですか。見たところ、そちらのエマという方はまだこの冥界に来てから日が浅いようですが」

「そうよ。その事についても話すわ。実は…」

「魔王アムダールが現世に復活したのでしょう?」

メルセデスはシャルロットが事の一部始終を話す前に、3人が出そうと思っていた話題を言い当てた。

「流石はメルセデス様。もうご存知でしたか」

「ええ。現世の出来事は私の後ろに配置された鏡を介して見ているわ。そして、私はこの冥界に来た者の全てを知っているの」

メルセデスはそう言うと、水晶の椅子から降りてエマの頭に手を乗せる。

「’’鑑識(ディスクリミネーション)’’」

エマの頭の上に手を置いた瞬間、メルセデスの頭の中にエマが生きてきた10年の記憶が流れ込んできた。それを見たメルセデスは涙をこぼした。

「あなたはまだ10年しか生きていないのに、大変な思いをしてきたのね…」

メルセデスはスキル発動後、エマの頭を優しく撫でた。

「あのスキルは?」

「あれは死体となった人間、もしくは亡霊の死因や生前の記憶を読み取る事ができるスキルよ」

「そうなのですか…それで詳細な情報を探る事ができるというわけなのですね」

「ええ。それに、生前何をしてきたかも詳細に判明するの。投影をする映像系のスキルを使えば読み取った記憶を第三者にも見せる事ができるわ。ちょっとした悪戯も、大きな悪事も全て暴かれてしまうわけ。ああ、メルセデス、恐ろしい子…」

シャルロットは少しだけ恐怖を感じながらピョートルにスキルの説明をした。ピョートルもそれを聞いて少しだけメルセデスに恐れを抱く。

「あの…私めが生前にレストランのウェイターとして働いていた頃、オーダーを聞き間違えてしまった事も全部わかるのでしょうか…?」

「もちろん筒抜けよ。まあでもそれは可愛らしい間違いだから許されるわ」

ピョートルはシャルロットのその言葉に安堵のため息を漏らした。

「魔王アムダールが現世に復活した事はわかりました。….シャルロット、あなたは私に何を望むの?」

メルセデスはシャルロットに問う。問いただすといっても、メルセデスとシャルロットのやり取りをする空気から、エマとピョートルはもう2人の中の答えが決まっている事はわかっていた。

「私は魔王を斃す為にもう一度現世に蘇りたい。だから、私の魂が現世に行く事を許可してほしいの」

シャルロットは真剣な眼差しでメルセデスに答えを申し出た。

「….わかったわ。過去にブライゼという竜、そして勇者達と共に魔王を斃したあなたならできるわよ。…でもねシャルロット、魂だけを蘇らせても、アムダールにはきっと勝てない」

「…どうして?」

「アムダールは肉体と魂を根こそぎ喰らい、己の魔力や生命力の糧とする捕食スキルを持っているの。いくらあなたが魔術師の祖で、あらゆる魔法やスキルに耐性があるといっても、肉体を持っていない、実体を持っていないあなた1人だけでは勝てないわ」

「そんな…なんとかならないのかしら」

♢♢♢

そして舞台はオラクルハイトに移る。人狼の肉体から復活した魔王アムダールは、チェスとブライゼの2人と対峙していた。

「エマが死んだ!?嘘だ!!」

チェスとブライゼはエマの遺体を見て狼狽える。その隙を、魔王アムダールは見逃さなかった。

「どうした?隙だらけだぞーー’’絶叫の影(スクリーム・シャドウ)’’!」

その一瞬の隙を突き、チェスとブライゼに向けてアムダールは鋭利な質量を持つ影を放つ。

「チッ….不意打ちか…!!」

ブライゼは影の攻撃を受けたが、身体強化の魔法を自身に掛け、竜人型の姿になった事で影の攻撃を防ぐ。しかしチェスは反応が遅れ、アムダールの攻撃を受けてしまった。

「がっ!!」

「チェス!!」

ブライゼはチェスに駆け寄り、チェスの猫の形態の小さな身体を持ち上げる。チェスは魔法を習得してから日が浅い為、魔力を使うと人化の術による人間形態の変身を維持できなくなってしまうのだった。

「ブライゼ…!ボクはまだ戦えるよ…!力を貸して、シエル…!」

『うん!!魔王を斃さなきゃ!!』

チェスは収納の力を解放し、シエルの力を引き出した形態になる。が、それがーーーいけなかった。

「ぐあああああ!!!??」

チェスの横腹に刺さっていた、魔王アムダールの放った影が、チェスの肉を引き裂いた。

『あっ!?あああ!!チェス!!!』

「チェス!!チェスーッ!!」

引き裂かれた横腹の痛みに悶えながら、チェスは地面に伏す。

「チェス!!チェス!!!しっかりしろ!!!」

ブライゼはチェスを優しく抱き止める。が、チェスの瞳は光を失っていた。

「そんな…うおおおおおお!!!!」

「ククク….馬鹿な奴だ。俺の影に貫かれた者は魔法、スキルを含む異能の力を行使しようとすれば肉を引き裂く損傷を与える。まあ、それだけで死ぬとはーーー所詮ケットシーごときだという事よ」

「アムダール!!….貴様だけは許さない!!!」

ブライゼはチェスを地面に優しく置き、魔王アムダールへと肉弾戦を挑んだ。

♢♢♢

そして再び冥界にて。

「ともかく、シャルロット。あなたも何か実体やあなたの魂が入る器が無ければ、アムダールに勝ち目はないわ」

「そんな….」

シャルロット、エマ、ピョートルの3人は意気消沈する。しかしその時、メルセデスは新たに冥界に来た魂の存在を感知した。

「これは….またこの冥界に死者の魂が来たわ。あれ…でもこの霊気は…ケットシー?」

メルセデスはその魂の座標を感知し、この冥王の間へと呼び寄せた。

「あ、そうね。メルセデスならこの冥王の間でも魔法を使う事ができるのか」

「ケットシー….まさか….」

エマはメルセデスの放ったケットシーという単語に反応する。

そしてシャルロット、エマ、ピョートルの前に、空間移動の魔法のゲートが開き、そこから黒と白の配色の猫が現れた。

「チェス…?」

エマはそのケットシーを見るなり、近寄って抱きしめる。

「エマ!?えっ…さっき床に血だらけで転がってたのに!?」

「混乱するのも無理はありませんね」

メルセデスがチェスに近寄る。

「誰…ですか?というよりここは!?ボクは魔王アムダールと戦って、それでーー」


メルセデスはチェスの頭に優しく触れ、エマの記憶を読み取った時のようにチェスの記憶を読み取った。そして、それを投影魔術によってエマ、シャルロット、ピョートルへと見せる。

「そっか…ボクはアムダールに殺されたんだ…」

チェスはメルセデスの投影魔術によって映像を見せられ、記憶を思い出した。

「チェス…と言いましたか。あなたもアムダールに殺されたのですね」

「は…はい…そしてここは死んだ者が来る世界なのか…」

「しかし。あなたが来た事。これは私達にとってこの上ない幸運です」

「どういう…事ですか?」

「あなたに協力して頂ければ、必ず魔王を斃せるでしょう」

メルセデスはチェスを見て優しい微笑みを向けた。
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