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オラクルハイト襲撃編
第30話
しおりを挟む「じゃああの時…やっぱりボクは死んで…!!」
「ええ。その一部始終を私も見ていました。魔王アムダールの放った影を操るスキルによって、あなたは死に至らしめられたのです」
「ちょっと待って…という事はボク、人間から猫に転生するまでに一回元いた世界で死んで、この世界でも死んだって事!?何回死ぬんだ…」
「チェス…強く生きて…」
メルセデスはチェスの境遇に涙を流した。それを見ていたエマ、ピョートル、シャルロットの3人も気まずそうな顔をする。
「さて、話を本題に戻しましょう。不謹慎ですが、今は誰が死んだのかどうかを話す余裕は無いのです」
メルセデスは黒い布で涙を拭き、即座に話題を切り替えた。
「メルセデス、さっきの話の続きだけど、私、エマは冥界から現世に行きたいの。そして、魔王アムダールを斃したい。でも、その為にはあれよね?」
「ええ。肉体が必要になるわ」
「肉体…?」
「現世で動く為の身体って事よ。エマとチェスの身体はまだアムダールに捕食されていなければ現世に残ってるとは思うけど、私の身体はもう1000年以上前に滅びたから無いわね」
「そして、現世に戻る為には魂も必要です。わかりやすく言えばライフポイント、生命の残機というところでしょうか」
「つまり、肉体と魂が二つ揃ってないと駄目か…」
「はい。そして、たった今現世のイレイン王国の魔法都市、オラクルハイトから映像が入りました」
メルセデスは再び投影魔術でオラクルハイトの状況を映した。魔法によって出現した、現世での映像を映し出す鏡。そこには、アムダールと竜人型となったブライゼの死闘が繰り広げられていた。
「ブライゼ!!そっか、ボクらの遺体を守りつつ、アムダールと戦ってくれていたんだ…」
チェスは複雑な表情で魔法の鏡に映った映像を見つめる。
「ブライゼって…まさか私達が勇者クレイドル達とアムダールを斃した時に協力してくれたあの竜!?」
「あなたは…シャルロットと言いましたよね?苗字はまさか…」
「クローリーよ。シャルロット・クローリー」
「ああ!あの現世でイルミナとユーディットが協力して作ってた人形のモデルになった魔法使いか!」
「人形?何よソレ」
「そうですよね、知らないですよね。ボクがまだ現世にいた頃、この世界に転生したばかりの時、オラクルハイトで開かれた魔術展覧会にてあなたをモチーフにした魔法人形を作った魔法使いの人達がいるんです。なんでも魔力を溜め込んで自動的に動けるし、シャルロットさんそっくりのデザインでした」
「なるほど…その話、もっと詳しく聞かせてもらっても良いかしら?」
「はい!」
「その人形はなんという名前で、今現世のどこにあるの?」
「まだオラクルハイトの、ボクが所属している魔術師ギルドのスマイル・ソーサリーに安置されてました」
チェスのその言葉を聞き、シャルロットはふふーんと目を煌めかせる。
「メルセデス、私の現世で活動する上での問題は解決したわ。さっきそのケットシーのチェスが言っていた、私をモチーフにして作られた魔法人形の中に私の魂を入れるの。それで魔王アムダールに対抗できる肉体が手に入るわ!」
メルセデスはシャルロットの言葉を聞き、名案ねと相槌を打つ。
「でも次はエマとチェスに関する問題が出てくるわね。一度死んだ者は、人間だろうと魔物だろうと魔族だろうと、簡単に蘇る事はできない。もし蘇るとするならば、代わりに現世で生きている人間の魂を身代わりにして生き返るというような方法しかないわね。でもその方法は禁忌…行う事を禁じられてるわね」
「魂や命が複数存在する者なら残り残機さえあれば蘇られるのだけど…って、あれ?」
メルセデスはチェスの方を向いて首を傾げる。
「えっ?どうしたんですかボクを見て」
「あなた、ケットシーなのよね?」
「はい、そうですが…」
「ケットシーには、9つの魂が存在するのです。つまり、現世で死亡しても8回目までならもう一度現世に蘇る事が可能なのです。こういった事を聞くのも失礼かもしれませんが、チェス、あなたは今回死亡したのは初めてかしら?」
「あ、はい。あくまでもこの世界では…ですが」
「ならまだ8つ命が残ってるわね。その命のうち、1つの命をエマに分け与える事で、現世でエマもチェスも復活できます。普段は禁忌とされていますが、今回は魔王の復活という事例が起きた為、例外です」
その話を聞いて一同を包む空気は明るくなる。
「という事は、わたしも現世に復活できるのですね!」
「そうよ。チェスの命の残機が減ってしまうから、最終的な決断や判断はチェスに委ねられるけどね。チェスにも残りの命をエマに分け与えても良いのか聞かないとね。もし駄目なら、違う手段を考えるわ」
「ボクは…残りの命のうち、1つをエマに分け与えます。今はもうそれしか手段はないし、ボクの命によって事態が好転するなら、迷わず使ってください!」
その言葉を聞き、メルセデスの涙腺はまたもや潤む。
「本当に良い子ね…でも、嫌だったら言っても良いのよ。いくら非常事態とはいえ、あなたの命を使うのだから」
「ボクはこの世界に来てからブライゼをはじめとする存在に助けられたんです。人助けによって事態が好転するなら自己犠牲も惜しまない。情けは人の為ならず。それは人間だろうと魔物だろうと変わりはしない….そうボクは思います」
「ふふ、この時代にもまだ他人を慮れる者がいたのですね。私めも涙が出てきてしまいます」
ピョートルもメルセデスに釣られて涙を流した。
「でも、本当に良いのかしら?現世の時間の流れと冥界の時間の流れは大きく異なります。このまま冥界に止まれば、少なくともこの冥界では安らかに過ごす事ができますし、魔王アムダールは確かに脅威ですが、現世では天使が存在する為、あなた達が討伐をしなくても天使達の能力によりアムダールの討伐は問題なく行われるでしょう。それでも行くのですか?」
「はい!人間にも魔物にも危害を加えるあいつを、ボク達は絶対倒さなきゃいけないんだ!それに…ボクも天使の力を使えるから心配しないで!」
チェスはメルセデス達に天使シエルの力を得た姿を見せた。
「これは…天使の力!なぜあなたがその力を使えるのですか?」
「理由はかくかくしかじかだけど、成り行きで悪の心を持ってない天使がボク達に力を貸してくれたんだ!あ、そう言えばシエルの意識はどうなったんだろう?」
『聞こえてるよ!チェス!』
「良かった!ボクは一回死んだみたいだけど、シエルはどうなの?』
『オイラは死んでないよ!天使には死亡という概念が存在しないのさ!まあ、怪我はするけどね…』
シエルはチェスの中でブライゼとノストラにされた仕打ちを思い出して苦笑いをする。
「これなら…これなら魔王アムダールに勝てるかもしれません。あなた達が現世に蘇る際、私はあなた達が受けた遺体への傷を修復しておきます。それでシャルロット、ここから現世に戻る方法はあるのよね?」
「ええ!エマちゃんに転送フラスコと転送用の液体も渡したからね!まあ、この冥王の間じゃ使えないけど…」
「そうね。また階段を上り下りしなくて済むように、転送魔法が掛けられた鏡を用意しておいたわ。それでこの城から脱出できるわ」
「ありがとうねメルセデス!恩に切るわ。この借りは….そうね、ピョートルのレストランで返すから!」
「頑張ってね。私は冥界の女神だから今はまだ現世に行けないの。だからここであなた達に後方支援をする事しかできないけど…」
「ありがとうございます!ここまでしてくれて…ボク達は必ずアムダールに勝たなきゃ!」
「私めも冥界から後方支援を行いますので。メルセデス様、私はしばらく冥王の間で残って良いでしょうか?」
「良いわよ。ピョートルは何で後方支援をするの?」
「料理と薬学です!魔性の力に対して効力を発揮する薬品を調合して後方支援をします!」
「頼もしい仲間が増えたわね。さ、チェス、エマ、行くわよ!」
「はいっ!メルセデス様、ありがとうございました!」
シャルロット、エマ、チェスの3人は転送魔法が掛けられた鏡の中に入り、城を抜けた。
そして、城の外ーーー
「じゃあ、行くわよ」
「はいっ!」
「うん!」
シャルロット、エマ、チェスは転送フラスコを手に持ち、現世のオラクルハイトへと移動した。
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