ケモノだから王族を追放されたけど存外元気にやってます~国家もなにもかも全ては模倣から始まる~

岸谷 畔

文字の大きさ
2 / 13

第2話 月夜の出会い

しおりを挟む
ナアト王国の南部に広がるこの広大なジャングルは、ナアト王国と隣国の間にまたがっており、隣国との国境にもなっている。



そんなジャングルに、僕は手ぶらで何の後ろ盾もない状態で放り出されたのである。



これからどうしよう。何をすればいいのだろう。時刻はもう夜だ。食べるものもなく、空腹だ・・・。



僕は途方に暮れながら、模倣属性の魔法によって習得した、弱めの火を放つ火属性の魔法を、そのあたりから適当に拾ってきたそれなりに柄の長い木の棒の先端に灯し、松明にした。



その松明を持ち、闇が広がる森の中を進む。しばらく進むと、大きな泉のある森の湖畔に到着した。満月を鏡のように映すその泉に、一人の人影が目に入った。



「あれは・・・人間かな・・・?」



僕は静かに獣化し、獣人へと姿を変えた。獅子獣人はネコ科の獣人の為、夜は目が利く。獣人の姿になると、そういった視力のような点も含めて身体能力が増す。僕はその人影の正体を確かめる為に、茂みに隠れながらある程度まで距離を縮めた。



「あ・・・あれは・・・!!」



それは僕と同じか、少し年下くらいの少女だった。正確な年齢を言うと、14~15歳くらいだろうか。その少女は、裸体で湖に入り、沐浴をしていた。



その姿を見て、僕は慌てて茂みの中に入り、必死で息を殺す。僕は今15歳。思春期真っ盛りだ。あのような異性の姿を見て、興奮しないはずがない。そして、ついうっかり気になってしまい、股間を触ってしまった。



「くっ・・・やっぱり・・・・!」



立っていた。アレが立っていた。平静を装っていても、やはりアソコは正直である。また、獣人の姿、いくら顔は獣で体は毛で覆われていても、アソコの形状は人間とほぼ変わらない・・・というか、何を思っているんだ僕は。



茂みにひっそりと隠れながら、30分ほどが経過した。なんでこのジャングルの中に女の子が夜に一人でいるんだという疑問からか、色々と考えてしまった結果、この場に思いもよらずとどまってしまったが、とりあえずはこの場を離れよう・・・と思った瞬間、後ろから声がした。それは柔らかく、春のそよ風のような声。



「あの」



「ひゃあっ!!??」



僕はつい、叫び声をあげてしまった。そして後ろを振り返る。するとそこにいたのは、さっきまで湖で沐浴をしていたと思われる少女だった。沐浴はもう終わったのか、彼女はもう全裸ではなく、襟や袖の部分に三角形が噛み合った模様があしらわれた、黒い衣装を身にまとっていた。



「あ・・・あ・・・・」



僕は再びギンギンになったアソコを手で覆い隠しながら、何かを言わなければと必死で言葉を紡ごうとする。も、何も出てこない。



「ふふ、そんなに緊張をなさならなくても良いのですよ?わたしはこの森に暮らす者です。・・・あら?」



その女の子は僕の下半身を見て、全てを察したようだ。



「ふふっ、やっぱりあなたは男の子なのですね・・・もしかしてわたしの沐浴の姿を見ていたのですか?」



「え!?いや違うよ!!みみみ見てません!!!」



必死で僕はごまかし続ける。が、彼女にはすべてお見通しだったようだ。





「・・・嘘をつかなくても良いのですよ。あなた様が今日ここに来て、わたしの沐浴を覗く、ということも、全てわかっています。そして、あなたが王族を追放されたということも」



「・・・・え」



僕は頭を傾げた。僕が王族を追放されたという事実は、不必要な問題を防ぐために、公にはしていないはずだ。それを何故、彼女が知っている?僕は少し不思議になって訊ねる。



「あの・・・僕が王族を追放されたということを何で君が知ってるの?・・・もしかして、僕が何者なのかということにも気づいているの?」



「ええ。あなた様は、ナアト王国の第9王子、シン。人と獣の二つの姿を持つ者にして、模倣というこの世界において唯一無二の属性を持つ者ーーーー」





「君は・・・一体・・・・」



「わたしはリヤ。元、ナアト王国の司祭にして、今は単なるしがない森に住む占い師です。わたしには未来を見通す力があります。だからこそ、今日、あなたがここに来るということがわかっていたからこそ、ここでお待ちしておりました」



「僕を待っていただって?・・・君は何が目的なんだ?」





「今、時代は改革の時を迎えています。ナアト王国・・・いや、シャンドラ大陸に根付いた、生まれた時から全てが決まるという悪しき考え。それらを断ち切る力を、あなた様は持っています。わたしと共に、国を作りましょう。・・・今日はもう夜も更けました。わたしの住む家がある場所まで案内します。続きはそこでお話ししましょう」



リヤと名乗った女の子はにっこりと笑い、僕の手を引いてゆっくりと歩き出した。それにしても、僕は今獣人の姿なのに、よく怖がらないな。こんなことって始めてだ。





かくして僕は、このリヤと出会い、彼女の居住している場所を目指して森の湖畔を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...