ケモノだから王族を追放されたけど存外元気にやってます~国家もなにもかも全ては模倣から始まる~

岸谷 畔

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第11話 命を頂くということ

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僕がリヤやマヘンドラのいる集落に来てから、もうすぐ2ヶ月が経過しようとしていた。僕はこの集落に来てから、集落の民の生活に協力した。



ある日は最初にこの村に来た時のようにアーシャと共に、魔法で作物の成長を早め、それを収穫する農作業に従事したり。



またある日は、マヘンドラをはじめとする戦闘力が高い民と共に、ジャングルに生息する動物を狩りに行ったりもした。



「シン様、見えますか?あれが私達がいつも肉料理を使う際に食材として重宝しているアルミラージという動物です」



「うん。聞いたことあるよ。市場でたくさん売っているのを見かけたこともね。」



アルミラージとは、チャンドラ大陸に生息している、額に角の生えた茶色い毛並みの、体長が50cmほどの野ウサギだ。角の一撃は強力で、自分に危害を加える者に対しては反撃してくるが、基本的には臆病な動物であり、こちらから何かしない限りは手は出してこない。人の気配を察知することに長けており、すぐ逃げてしまう。そのため、捕獲は難しい動物だが、角は薬に、肉は米料理などと炊くと美味しく頂ける食材となる。



「本日は、そのアルミラージの命を頂くための行動を行い、それをシン様にも実行して頂きます。・・・もう何をするのかはおわかりですね?」



僕はゴクリと息をのんだ。そう、マヘンドラがそのセリフを言う前から。僕が今日、これから何をするのか、ということはなんとなくわかっていた。僕はこれから、生き物を。他者を。殺すのだーーーーー



「アルミラージはとても警戒心の強い動物で、これ以上近づくと逃げられてしまいます。ですから、この距離から仕留めたいと思います。まずは私の狩りを見ていてください」



マヘンドラはシンに自分の狩りを見ていろと告げると、アルミラージめがけて短めの槍を放つ。アルミラージとマヘンドラの位置はおよそ20m程度あったが、マヘンドラの放った槍はアルミラージに見事命中し、首と胴体を一瞬で分断した。



「シン様、見ていただけましたか?これがアルミラージの仕留め方です!」



マヘンドラは息一つつかず、僕に対して爽やかな笑みを向けた。生きるために必要な行為であるが、熊の首を切り落とす時同様、僕は恐怖を感じていた。なんだろう、マヘンドラは首を切り落とす趣味でもあるのだろうか。そう思って僕は訊ねてみたが、別にそういった趣味はなく、獲物は最終的に食べるものであり、仕留め方として、首を一瞬で切り落とすと、獲物に対して余計なストレスを与えず、旨味などの成分を落とさずに済むのだそうだ。・・・良かった、マヘンドラがサイコパスじゃなくて。僕はそっと、胸をなでおろした。



「さあ、シン様もやってみてください!私に勝ったシン様であれば、確実にできるはずです!」



僕は新たなアルミラージを見つけ出し、再び20m程離れ、茂みの中からマヘンドラから借りた槍を手に構える。



僕の属性、模倣は魔法による攻撃だけではなく、他人の動きをコピーすることも可能だ。打撃はもちろん、剣術、槍術、そして最近他国から伝わった銃を扱う際の動きなどにも対応している。さっき見たマヘンドラの槍を放つ動きは、既に僕の脳裏に記憶されていた。



そして僕は、気配を遮断し、静かに獣化する。これにより大幅に上がった動体視力で20m程離れたアルミラージを視界にとらえ、そこ向かって槍を放った。



結果は見事アルミラージに、僕の放った槍は命中した。が、いくら模倣属性で他人の動きを吸収するのが早い僕といえども、マヘンドラほどの手練れではないため、流石に一瞬で獲物の首と胴体を分断するほどの技量はない。槍が胴体に刺さったアルミラージに近づくと、どうやらまだ生きているようであった。槍が刺さった傷口からはドクドクと大量の鮮血が溢れ出している。



「・・・どうやらまだ生きているようですな。さあ、シン様、とどめを」



「うん・・・」



僕は心の中でごめんなさいと思いながら、アルミラージの首と胴体を刀で分断し、とどめを刺した。



「・・・よし!これで今日、私が伝えたかったことは全て伝え終わりました。シン様は基本的な狩りの技術もさることながら、命を頂くということが何たることかということもわかっていらっしゃる」



「命を・・・頂くということ・・・」



「そうです。先ほどあなたは、アルミラージを屠ることに対して、躊躇していましたね。その心意気が大切なのです。私もはじめは、この行為に関してはどうしても慣れませんでした。まだ私があなた様くらいの年齢だった頃は、あなた様と同じように、命を奪うということに抵抗がありました」



「しかし、それはこれから頂く命に対して心から感謝の念を送ることが出来るということ。近頃はそれを忘れた輩が多すぎる!しかし、あなた様は違う。あなた様は、全ての命を尊重し、慈しみ、感謝ができる方だ。・・・きっと良い王になれますよ」



僕はマヘンドラのその言葉を聞き、少しだけ自信が湧いてきた。王族として僕に足りなかったのは覇気やカリスマ性、絶対なる力。僕は今まで、暴力こそが全ての力だと思っていた節があった。他者を支配するために、惹きつけるために必要なのは、力。それがない僕は、王族として、人の上に立つ者として、失格だと思っていた。それを彼は今、違うと言ってくれたのだ。僕の家族や民衆にずっと否定されてきた、甘さを肯定してくれたのだ。それだけでーーーー



「・・・・」



「シン様?泣いていらっしゃるのですか?」



僕はいつの間にか、涙を流していた。仮にも王族なのに、みっともない。でも、マヘンドラはそんな僕に対して、再び優しい言葉をかけてくれた。



「シン様、そう気負わずに。シン様にはこれから、里の長ーーーーいえ、リヤ様の予言によれば、大国の主として皆の上に立っていただく存在ではあります。しかし、私達の前では、一人の年相応の者としての姿を見せてくれてもいいのですよ」



「・・・ありがとう、マヘンドラ」



「さあ、行きましょうか、再び狩りへ!・・・次は熊を狩りに行きましょうぞ!前に私が退治した熊の肉は美味だと里の民からも好評でした!」



「うん!」



僕らは再び、狩りへと繰り出した。



一方その頃、集落のちょうど上空。一つの影が、上空から落ちてきていたーーーー

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