ケモノだから王族を追放されたけど存外元気にやってます~国家もなにもかも全ては模倣から始まる~

岸谷 畔

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第12話 空から落ちてきたもの

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僕とマヘンドラは狩りを終え、集落へと戻ってきた。すると、集落は僕らが狩りに出かける前よりも、ざわざわとした雰囲気に包まれていた。



僕は何かあったのだろうかと不安になり、周囲を見渡していると、遠くからリヤが駆け寄ってくるのが見えた。リヤは僕達の前で止まると、息を切らしながら僕達にこう告げた。



「シン様、マヘンドラ!大変です!空から・・・空から神様が降ってきました!」



僕とマヘンドラはポカーンと口を開けた。空から神様が降ってきた?なに?どういうことなの?そう思った僕はリヤに訊ねた。



「話は後です・・・まずは里の集会所に来てください!」



僕とマヘンドラはリヤと共に、里の集会所へと向かった。そこで僕らが見たもの。それは、浅黒い肌に、4本の腕を持つ、身長は3m近くの人間の姿をしたなにかだった。精悍な顔立ちで、目を閉じながら集落の回復魔法を使える者達の手により、治療を受けている最中だった。



「こ・・・この人が神様なの?確かに腕が4本あるし、普通の人の2倍近く身長があるから、そんな感じはするけど・・・」



「シン様とマヘンドラが狩りに出かけている間、この里は普段通り生活を営んでおりました。そこに、突如空から、この神様が落ちてきたのです」



リヤはいつもの冷静さを欠き、少しだけ顔に不安を浮かべながら、僕達にそう告げた。僕達がその横たわる神様を見ていると、その神様の身体が突如、強い光に包まれた。光は集落の集会所を一瞬で包み込む。そして、その光が止み、目を開けると、そこには独特のポーズで、その神様が元気いっぱいに立っていた。



「復活!!!はーっはっは!!!!」



僕を含めた集落の民たちは、またポカーンと口を開ける。さっきまであんなに傷だらけだったのに、もう何事もなかったかのように復活している。



「ははは!!我を看病してくれた事!!!感謝するぞ!!!!」



高い。テンションが予想以上に高い。そして正直うるさかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「まず、あなた様の名前を教えてください」



あの眩しい光が止んでから少し経過した後。リヤは改めて、状況を整理するために空から落ちてきた人物に対して、あなたは何者なのかという質問をした。



「うむ!単刀直入に言おう!我はヴィシュヌ!この世界を維持する役目を担う神にして、最高神だ!!」



その言葉に、周囲が再びざわつく。僕も動揺を隠しきれなかった。ヴィシュヌ神だって?この世界を維持している神が、なぜこんなところに。僕もすかさず、質問をした。



「・・・なぜ、空から落ちてきたのですか?僕は少し前までこの集落の外に出かけていたため、実際に落ちてくるところを見ていませんが・・・」



「それに関しても説明しよう!我は襲撃を受けた!!」



「襲撃・・・ですか?」



「ああ!我を襲撃した者の正体についても教えよう!我を襲撃した者の正体は、"アナンガ"!身体無き悪意だ!!」



身体無き悪意・・・?それって・・・霊体みたいなものかな?僕はそのことに関しても、ヴィシュヌに訊ねた。



「身体無き悪意って、霊体なの?」



「うむ、その通りだ!そなたらは見たところ、ナアトの者ではないのか?なら、ナアト神話は知っているな?身体無き悪意はその名の通り、霊体のような存在だ。元々は人間の持つ悪意や、妬みや嫉み、そして僻みや怒り、無力感といったものが集まってできたものだ。元々は単なる悪霊程度の存在だったのだが、その悪意の塊に目を付けた者達がいた」



「悪意に・・・目を付けた者達・・・?」



「そうだ。その目を付けた者達は複数存在する。過去に悟りを開こうとした者に妨害を加えた魔王マーラや、愛欲で他者を狂わす神カーマ、悪政を敷いたアスラの王族ヒラニヤカシプ、暴虐の限りを尽くしたラクシャーサの王子インドラジットーーーーそういった霊体となった悪しき神々がその悪意と融合した結果、肉体を持って強大な力を持ったのだ!」



「そんな・・・・!では、神話では死んだと思われた魔の王や悪神はまだ霊体となって存在し続けていたということなのですか!?」



「そう、リヤの言うとおりだ。我はその悪意の集合体に、アナンタの上でこの世界を維持するための瞑想を続けていたところ、急襲を受け、空から落ち、偶然この集落に墜落し、今に至るという訳だ!」



「悪意の塊の目的は、この世に"地獄ナラカ"を顕現させること!この世を地獄に変え、この世に生きとし生けるもの全てに絶望と苦痛を与えることで、平等を見出そうとしているのだ!!」



この世を地獄に変えるだって?この世を絶望と苦痛で満たすことで平等を見出すだって?僕はその話を聞き、恐ろしさのあまり体を震わせた。他の民も、僕と同じくヴィシュヌの話を聞いて怯えていた。



自分のことをヴィシュヌと名乗った男は、そう意気揚々と民達に告げた後、ゴフッ!と盛大に吐血をした。



「だ、大丈夫ですか!?」



リヤがヴィシュヌに駆け寄り、回復魔法を付与する。それを見た他の民も、ヴィシュヌに回復魔法をかけるが、ヴィシュヌはそんなものは要らん!と勢いよく自身にかけられた回復魔法を無効化した。



「この身体はもう限界だ。悪意の塊はどうやら、神に対する特攻、神性特攻を持っているらしい。我の力、"化身アヴァターラ"で一度は話ができるほどに回復したが、それは上辺だけの話で、今の我は全身を串刺しにされた状態に等しい!時期にこの身体は・・・死を迎えるだろう」



「そんな!ヴィシュヌ様は維持の神・・・ヴィシュヌ様が瞑想を続けるからこそ、この世界は維持されていると聞きます。そのヴィシュヌ様が消えてしまったら・・・この世界はどうなってしまうのです!?」



「ああ、それならば案ずるな。誰かが我の依り代となり、我はその者の精神世界の中で存在し続け、そこで瞑想を続ければ、ひとまずはこの世界の崩壊は止まる」



「それならば、わたしがヴィシュヌ様の依り代となります!」



そのリヤの言葉に、ヴィシュヌが待ったをかけた。



「しかし、我を依り代とするには、膨大な魔力、強靭な生命力、そして可能ならば人ならざる者であるのが望ましい。そなたは膨大な魔力を持っているが、生命力を見たところ、平均よりも少し強靭程度で、人ならざる者でもない。残念ながら、我の依り代とはなりえない」



リヤはショックを受けた顔で、一張羅の裾を握りしめ、唇を紙ながらうつむく。その姿を見て、僕は決心を決めた。



「ヴィシュヌ様。・・・・僕を依り代にしてください」
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