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弟子と添い寝するのは当然であり、何も悪いことなんかじゃない

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 もしかして男の子を連れてきたんじゃないかと一瞬にして私の背筋が冷たくなり、罪悪感がやってくるがまだ確定したわけじゃない!
 気づかれないように、こっそり本人の性別を確認しないといけない。それはさりげない会話で。

「休憩してもいいのよ? パルマはまだ子供だから無理することないわ。私は女だけれど、大人だから力はあるし」
「ボクが子供でもできることはあるよ。それにシエナと違って、ボクは男の子なんだから荷物運びぐらいは頑張らないと」

 パルマの口から男だと言わせた。あまり会話が上手ではない私が1発目で答えを引き出せるなんて! 自分の会話力に感心……している余裕はない。
 男の子。そう、男の子なのだ。
 私は初めて見たときから女の子だと信じて疑わなかった。
 だって、こんな綺麗な髪できゃしゃな体でかわいい顔をしている子が男の子なはずがないじゃない!?
 だけど今になって思えば、服を買うときに店主がスカートを薦めて来なかった理由もよぉくわかる。普通、男の子には出さない商品だから。
 他の人ももしかして男の子だと知っていた? 
 私だけが女の子だと思っていた?

 ……仕方ないじゃない。男の人の裸なんて見る機会は滅多になかったし、恋愛経験すらなかったのよ? 男の人独特の体型や筋肉の付き具合なんてわかるわけもなく、こんな小さい子供のうちから男か女か分かるほうがおかしいのよ!!
 そう、だから間違っても仕方がないところがあると思うの。私は悪くない!!

「……シエナ?」
「え、あぁ。ごめんね、ちょっと疲れたみたい」
「それなら休んでいてよ。残りは小さいのばかりだから。あ、ここにあるツボはどこに運べばいい?」
「外のドア近くに運んでくれればいいわ」
「わかった」

 元気な笑みを私に向けてくれたパルマは上半身裸のまま、ツボの重さに少しふらつきながらも部屋の外へと運んでいく。
 そして1人になった私は、部屋の隅っこに行くと壁に頭を押し付けながら混乱した頭を整えていく。
 女の子だと思って弟子にした子が、実は男の子だった。
 でもパルマを引き取ったことを私は後悔していない。
 ここに来るまで話をしていて、良い子だというのはわかっていから。

 ただ、男の魔女というのは聞いたことがない。
 魔力があるわけだから、魔女の育て方をすれば同じようになれるとは思うけれど。
 ただでさえ男が魔力を持っているというだけでも珍しいのに、魔女になれるほどの魔力量があるのは『珍しい』という言葉を越えるんじゃないかしら。
 このまま魔女として育てると、なんらかの問題が発生そう。

 今からでも魔女としてでなく私の同居人。そう、養子扱いで迎え入れれば問題は…………。
 そう考えるも、最初に魔女の弟子と私は言ってしまった。魔女は嘘つくことなかれ、と教えられてきた私としてはその選択を取るのはとてつもなく苦痛だ。
 その前に男の子の魔女ってどう教えればいいんだろう。
 私が知っているのは師匠がやってくれたのと同じ教え方と、私の仕事に合わせた教育。他にも常識や男の子に必要なことを教える必要があるけれど、そういう知識は村の人たちと交流していくうちに学んでいくはず。学んでくれないと困る。

 とりあえず、女の子だと思った、なんて正直に言うとあれくらいの年頃の子は反抗期になってしまうかもしれない。
 子供の、特に男の子の反抗期は暴力的だと聞いたことがある。あと家出や悪いことに手を染めるとかも。
 特に大事なのがこのままだと私の尊厳が1日も経たないうちになくなってしまう。
 頭の悪い魔女と思われたくない。
 あぁ、どうすればいいの……。

 ……。
 ………。
 ……うん? 『魔女』なのだから女の子として育てれば何も問題はいいんじゃないかしら。
 つまり魔女(男の子)になってしまえば大丈夫はずよ! 普段から女装させて、お肌や髪の手入れも教えていけば大丈夫。
 顔や体つきから将来を考えると、女の子よりかわいい外見になるはずだし。

 男の人に対する知識もあまりない私だから、女の子扱いですべて解決だわ。もしパルマが疑問を感じても、魔女(男の子)だから、の一言で解決よ。うん、これは名案ね!
 魔女として弟子にするという約束も果たせるし。
 うんうんと何度も力強く納得していく私は、まだ子供なパルマの男の子の裸を思い出してドキドキしながら立ち上がると深呼吸をして心を落ち着ける。
 そうして戻ってきたパルマと一緒に残りの物を片付けたあとは、風の精霊を使って部屋のゴミやほこりを一気に外へと放り出す魔法を見せた。
 扉の鍵を開けた魔法と違い、やや見た目が派手になったため、パルマからの尊敬の視線がとても気持ちいい。

「ねぇ、シエナ。ボクも魔法を使えるかな」
「精霊と仲良くなれば、きっと使えるわ」

 きらきらと星のように輝く目で聞いてくるパルマに、パルマが暑くて脱いだ服を拾って手渡す。
 服は汗でしっとりとぬれていて、私はつい自然と服をさわった手のにおいをかいでしまう。
 そう、男の子のにおいを。それは春の森のようにさわやかで、興奮しちゃったけど気分がよくなるものだった。
 その後に興奮なんて、と自分自身がしたことにすごく落ち込むけど、ここは平静を維持してパルマに笑顔を向けて掃除を続けた。

 部屋の片づけが終わってお昼ご飯を食べてからは、魔法に興味津々なパルマは寝る時間まで私に魔法や精霊についての話をねだってきた。
 私も誰かに語るなんてことはあまりなかったため、たっぷりと話してしまう。
 井戸水から火で沸かしたお湯を使って体を拭いたあとは就寝の時間となるけど、パルマの寝具がまだないためにパルマは私と同じベッドに入る。
 男の子だと知っているから、心臓がばくばくと緊張してしまう。まだ小さな子供だというのに、男として意識してしまうだなんて。
 ……でも今日から私の弟子なんだから、将来は私好みで気が利く素直な子を育てようと決意する。
 そして私とまだ話し足りないパルマのために、私たちは至近距離で顔を突き合わせながら話を続けた。

 おとぎ話を語っていくとパルマは幸せそうな表情で眠り、一方の私は男の子といえど、初めて男の人と同じベッドに入った緊張感を隠しきれて安心した。
 私は魔女であり、300歳でパルマの師匠である。
 初日からみっともないところを見せることもなく、興奮で鼻血が出ることもなくて本当によかった。
 ……家具がそろうまでは同じベッドで寝るから、いつかはベッドを鼻血で血まみれにしてしまいそうだけどね。

 ぐっすりと寝ているパルマのほっぺは手でつつくとぷにぷにでかわいいし、じっと見ていると顔も実にいい。
 将来は美少年になって、村や街の女の子から大変よく好かれるに間違いないと思う。
 少し、ほんの少しだけ自分好みの男の子に育てればいいじゃない、と心の悪魔がささやいてくる。
 でも魔女の弟子にするため引き取ったのだから、パルマのいい匂いがする空気を深呼吸で吸って心を落ち着かせ、私は目をつむって寝る。
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