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第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ
第7話 穴掘りと強化魔法とお姉ちゃんのお手本
しおりを挟む朝食後、再び逃げようとして捕まった私は姉と腕を組む形で強制的に昨日の練習場所へと連れてこられた。
「ルーちゃんったらそんなに遠慮しなくてもいいのに……」
「いや、遠慮とかじゃなくて本当に勘弁してください」
いくら嫌だと言っても姉はふふっと笑って取り合ってくれない。なんというか、姉の頭の中では私の言葉が全部が照れ隠しや遠慮に聞こえているような感じがする。
「まあまあ、そう言わずに張り切っていこー!」
「……やっぱり話が通じないよ」
もうここまで来たらしょうがないと半ば諦め、姉の指導を受ける覚悟を決めた。
何とか走り回らないように立ち回るしかない。最悪でも死にはしないから大丈夫……たぶん。
悲壮な覚悟を決めて顔を上げると姉が苦笑いを浮かべてこちらを見ていた。
「そんな顔をしなくても大丈夫。実戦練習の前にしばらく別の事をするから」
「別の事?」
てっきり実戦練習でまたボロボロにされるものだとばかり思っていたから思わず聞き返してしまったけど、これはもしかして生き残れるのでは?
そう思っていた時期が私にもありました。
「ほらルーちゃん、まだいける!踏ん張って!」
「も、う、無理っ、限界、だって、ばっ……!」
もうほとんど力が残っていない両手を必死に動かしてひたすらに目の前の地面を掘る。
「大丈夫!ルーちゃんならまだいけるよ!」
「い、いや、もう無理……」
そう言って力も気力も絞り尽くした私は自分の掘った穴に大の字で倒れた。
今、これは何をしているのかと聞かれたら私はこう答える。そんなもの私が聞きたい、と。
現在、私は全身を魔力で覆った状態の素手でひたすら地面を掘るという作業をさせられていた。
最初の内は姉と模擬戦をする事に比べたらこんなの余裕だとか思っていたけど、目的のわからない作業がここまできついなんて……。
「うーん、まあ、最初だから仕方ないかな……」
出来た穴の大きさにいまいち納得していない様子の姉が首を傾げているが、どうしたってこれ以上は無理だ。指一本動かせる気がしない。
どうして私にこの作業をさせるのか、その意味はわからないが、姉の意図自体はなんとなく理解できる。
この魔力で身体を覆う技術は強化魔法と呼ばれ、魔法技能の基本とされており、その効果は文字通り魔力で覆う事による身体能力の向上、及び防護機能の獲得だ。
姉は私にこの強化魔法の練習をさせたいのだと思う。
この強化魔法は一応、魔法の分類ではあるが、詠唱は必要なく、魔法を主に戦わなくてもこれだけは習得しているという人は多いと本で読んだ事がある。
これだけ聞けば使い勝手のいい便利な魔法ともとれるが、実際は魔力を湯水の如く消費し、使っている間は集中力が削がれて他の魔法が使えなくなるようなひどく不便な代物だ。
さっき挙げたような魔法を主にしない人達からすれば、それでも問題ないのだろうけど、魔法を使う者にとってはそこまで注視するものではないだろう。
「……これに何の意味があるの?」
全身に疲労感を感じながら倒れたまま姉に聞こえないくらいの声で呟く。
なんというか、これは魔法の練習というより一種の拷問なんじゃないかと思う。
随分前に読んだ本の中にあった人間の刑罰に同じようなものがあった気がする。
確か囚人に何も知らせず穴を掘らせて、その穴をまた埋めさせ、埋め終わったらまた掘らせてを繰り返させるという内容だった。
「無意味な作業を繰り返させて精神的な苦痛を与えるための罰だったっけ」
これはもしかしてあれかな、今朝私が逃げた事を姉がまだ根に持ってて、罰を与えてるとか……。
「いやいや、それはない。お姉さまはその罰を知らない筈だし、あれくらいじゃ怒らない……」
「じゃあ次は掘り返した土を埋めていこっか?」
否定しようとしたそばから聞こえてきた姉の発言に思わず体固まった。
やっぱり今朝の事を怒ってたんだ……。まずい、このままだと精魂尽きるまでこれをやらされる。
「……え、あ、あのお姉さま?それに何の意味があるんですか?」
姉の顔色を窺いながら恐る恐る尋ねてみる。もし本当に怒っているのなら早く謝ってこの無意味な作業を終わらせなければならない。
「んー……?あ、そっか。まだ説明してなかったね」
私の問いに最初は首を傾げていた姉だったが、自分の中で得心が行ったらしく短く頷いた。
「これは強化魔法に慣れるための特訓だよ」
「へ?慣れる……ため」
どうやら姉の様子からして怒っているわけではないみたいだけど、強化魔法に慣れるとはどういう事なんだろうか。
「単純作業だけど強化魔法を持続させながら身体を動かす事でだんだんと感覚を慣れさせて、無意識の制御を覚えるのが目的なの」
「無意識の制御って言われても……。他の魔法があるんだからわざわざ効率の悪い強化魔法を使わなくてもいいんじゃない?」
無意識の制御という事は要するに強化魔法を纏ったまま戦えるようにするという事だ。
他に手段がないのならともかく、魔法という中、遠距離の攻撃手段があるのならそんな事、必要がないと思う。
「でも昨日の練習でルーちゃんは私の魔法を避けるのに精一杯で最初の一回しか反撃できなかったでしょ?」
「うぐっ……それはそれはそうだけど」
確かに昨日の練習でもし強化魔法を使っていれば姉の魔法にもっと対処が出来ただろう。
攻撃するためではなく上手く立ち回り、回避するための手段としては強化魔法は有用なのかもしれない。
「それに効率が悪いっていうけど、それはルーちゃんの強化魔法に無駄が多いからで、もっと練習すれば魔力消費も抑えられるよ」
つまり、強化魔法の不便な点は全て私が未熟だったからそう勘違いしていただけで、きちんと練習すればそれらの欠点は解消されるという事だ。
「…………あっ、もしかして昨日お姉さまが私の拘束魔法を抜け出せたのって」
「うん、強化魔法を使ったからだよ。きちんと身に付ければあのくらいの拘束なら簡単に振りほどけるからね」
完全詠唱していなかったとはいえ、自信のあった拘束魔法をあのくらいと言われて少しむっとしたものの、事実として容易く破られたのだから仕方ない。
それにしても姉があの瞬間に強化魔法を使っているなんて全然気が付かなかった。
姉のように魔力を感じ取って個人を特定したりは出来ないけれど、流石に目の前で魔法が発動したら私でもわかる。
「……ねえ、お姉さまの強化魔法を見せてもらってもいい?」
「私の?」
「うん、お手本にしようかなって」
もう一度見れば姉の強化魔法がどういう風に発動しているかわかるかもしれない。
……実際、参考になるかどうかは別として。
「そういう事ならもちろん良いよ。ルーちゃんが積極的になってくれてお姉ちゃん嬉しい!」
「あ、うん……」
興味本位で頼んだのに思わぬ誤解を生んでしまった気がするけど、それは後で考えよう。
「じゃあいくよ?よく見ててね━━……」
一見、何も変わってないように見えるが、よくよく見ると姉の周りをうっすらと膜のような光が覆っており、微かに魔力を使っているのがわかった。
「私のとは全然違う……」
同じ魔法とは思えないほど洗練された姉の魔法を改めて目の当たりにし、愕然とした声が漏れる。
確かにこれならあの一瞬で気付かなかったのも無理はない。
私が知ってるのはこの狭い集落の中だけだけど、それでもここまで洗練された強化魔法を使える人は他にいないと思う。
「っと、こんな感じかな。参考になった?」
「……え、う、うん。参考になった、よ?」
本当のところ、私の強化魔法と違い過ぎてあまり参考にはならなかった。
最終的に目指す目標としては見れたけれど、そこに私がたどり着く姿を思い描く事が出来ない。
「そっかー……なら良かった。じゃあ早速実践してみようか」
「え?」
そう言って笑顔の姉が掘り返した土の山を指差す。どうやら上手く話を逸らして誤魔化し、うやむやにする作戦は失敗に終わったらしい。
むしろ誤魔化すどころか自分で逃げ道を塞いでしまった気さえする。
「ほら、さっきの私のお手本を思い浮かべながらやってみて」
「うっ……や、でもほら、私まだ疲れて動けないというか……」
「大丈夫。疲れている時の方が無駄に魔力を使えない分、上達しやすいから」
その理屈はわかるが、それでも今の状態で続ける事は難しい。そう姉に訴えるが、全然聞き入れてはくれなかった。
「ほらほら早くしないと日が暮れちゃうよ?今日はこれをあと三回はやるつもりなんだから」
「三……!?待って、そんなに持たな……」
結局その日は、そこからさらに五回ほど掘って埋めてを繰り返して、へとへとのまま一日を終えた。
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