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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第55話 外の魔物とサーニャの魔法
しおりを挟む森にたどり着き、ウェイゴブリンを探し始めたのも束の間、少し開けた場所にそれらしき魔物を見つけた私はサーニャを呼んで確認を取ってもらっていた。
「うん、あれは確かにウェイゴブリンだね。数も五体以上いるみたいだし、幸先いいんじゃないかな」
茂みから見つからないように様子を伺いつつ、ウェイゴブリンを観察してみる。
人型で大きさは小さな子供と同じくらい。全身の肌色は薄い緑にぎょろりとした目玉や突き出た歯が嫌悪感を煽ってくる見た目だ。
……腰の辺りだけ布を巻いてるのはウェイゴブリンにそういう文化があるのかな。
それ以外に衣服らしい衣服は見受けられず、ほぼ全裸の状態だ。
というかあの布はどこから持ってきたんだろう。まさか自分達で作ってるとか……。
これから討伐するというのにそんな事ばかりが気になり、まじまじと見つめていると、横からサーニャに突つかれ、はっと我に返る。
「ど、どうしたんですかサーニャさん?」
「どうしたって……ルーコちゃんが向こうを見たまま動かないから……」
怪訝な顔でこちらを見るサーニャに対して「えっと、どうやって攻めようかを考えていて……」といって誤魔化し、改めてウェイゴブリンの方に視線を向けた。
さて、森の外の魔物と戦うのは初めてだけど、どうしたものか……。
思考を切り替え、今度はきちんと戦うことを想定して考えを巡らせる。
基本的に集落のあった森に生息している魔物は体が大きく、その巨体を強みに仕掛けてくる相手ばかりだった。
例外は森を出ようとする時に戦った二足歩行の魔物だが、あれは長老が外に出ようとするエルフを始末するために用意したものだろうから他にはいない筈だ。
あそこまで小さい魔物と戦った事はないため、森での経験は活きづらいが、それでも複数を相手取る場合の基本は変わらない。
「……決まりました。ここは任せてもらってもいいですか?」
「え、う、うん。元々そのつもりだったし……」
サーニャに確認を取ると同時に一歩前へと踏み出し、片手を下げる。
……まずは奇襲で数を減らす。
「〝しなり動く風、静かに迫り、斬り回れ〟━━」
ひゅっと短く息を吸い込んで詠唱を口にし、狙いを定めながら一気に飛び出す。
『這い回る風鞭』
呪文と共に下げていた手を斜めに振り上げると、細く長い鞭状の風がその動きに合わせてしなり、一番近いウェイゴブリンへと迫った。
「ガ━━」
風の鞭はウェイゴブリンの首元を正確に捉え、悲鳴を上げる暇すら与えずにその命を刈り取る。
「グギャッ」
「ギャウッ」
その勢いは一体に止まらず、しなり、軌道を変えて近くにいた二体の喉元を切り裂いたところで霧散。
最初の一体がようやく倒れた事でウェイゴブリン達は異常に気付き、それぞれ動揺しながらも戦闘態勢をとろうとする。
『風の飛刃』
完全に態勢を整える前に振り向き様、腕を水平に振るって真後ろにいたウェイゴブリンに風の刃を放ち、当たったかどうかを確認するよりも先に、強化魔法を纏いながら一番近くにいるもう一体の方へと駆け出した。
「━━グッ」
ウェイゴブリンの腹部目掛けて駆ける勢いのまま、強化された掌底を突き放つ。
━━あと三体。
勢いよく吹き飛んだウェイゴブリンには目もくれず、頭の中で戦況を把握し、強化魔法を解きながら振り返ると、残りの個体がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「遅い━━『土くれの置棘』」
呪文を唱えて地面に手を当て、迫るウェイゴブリン達の足元に土くれで構成された鋭い棘を作り出す。
当然ながらウェイゴブリン達は突如として現れた土くれの棘に反応できず、走ってきた勢いと自重に押される形でそのまま突き刺さり、絶命してしまった。
「グッグギャッ━━!?」
遅れていた事で辛うじて難を逃れた最後の一体が恐怖に竦みあがったような声で鳴きながら踵を返し、慌てて逃走を始める。
突然襲撃され、他の仲間があっという間に殺されたのだから当然の反応と言えるし、同情を禁じ得ない部分もあるが、それでも他の仲間を呼ばれる可能性がある以上、逃がすわけにはいかない。
「━━『水の礫』」
逃走するウェイゴブリンの頭を狙って手をかざし、撃ち抜く姿を想像しながら呪文を唱える。
撃ち出された魔法は姉のものと比べてかなり劣るものの、ウェイゴブリンの頭を撃ち抜くには十分な威力を持っており、茂みに紛れて逃げ切る前にその命を奪った。
「他に敵は……いないかな」
一応、周りを警戒して魔物がいない事を確認してからふっと一息を吐く。
終わってみれば一瞬、周りには八体のウェイゴブリンの死体が転がっていた。
……ここまで聞いてきた話で分かってた事だけど、やっぱり外の魔物はそこまで強くないみたい。
そもそもこのウェイゴブリンが新人向けの依頼に設定されている魔物という事もあるが、それでも今まで戦ってきた魔物との圧倒的な差を感じずにはいられなかった。
「お疲れさまルーコちゃん……っていっても一瞬過ぎてあれだったけど」
戦闘が終わり、茂みで待機していたサーニャが少し呆れた顔をして出てくる。
「やーウェイゴブリンなんて相手にならないとは思ってたけど、ここまで一方的になるとは思わなかったよ」
「……反撃を受けないように奇襲して動揺している内に攻め切りましたからね。正面から戦ってたらもう少し時間は掛かってましたよ」
まあ、それでも強化魔法だけで倒せると分かった今、ごり押しても結果は変わらなかっただろうと予想は出来るが。
「そうかな?ま、何はともあれこれで討伐目標は達成したから後は証明部位の牙を剥ぎ取って終わりだね」
そう言うとサーニャは腰に巻いていた鞄から小さな刃物を取り出して何の躊躇いもなくウェイゴブリン牙を剥ぎ取っていく。
「あ、ルーコちゃん剥ぎ取り方ってわかる?」
「え、あ、はい。集落にいた頃に何度かした事あるので大丈夫です」
サーニャに倣って牙を剥ぎ取り、残った死体を一か所に集める。
なんでも死体をこのままにしておくと、腐敗して森の環境に悪影響が出る可能性があるので、燃やすなり、解体しきるなりして極力処理した方がいいらしい。
集落にいた頃は倒した魔物は持ち帰り、ほとんどを食用肉にしていたため気にした事はなかったが、これからはその辺りにも配慮する必要が出てくるという事だ。
「よし、それじゃあ牙も取り終えたし、これは燃やすねっと」
積み重なった死体の山を前にサーニャはそう言い、鞄から小指くらいの大きさの棒を取り出した。
「それは?」
「ん?これが私の杖だよ。ほら━━」
サーニャが手に持ったそれを振るった瞬間、棒切れが伸び始め、あっという間に倍ほどの長さを持つ黒塗りの杖へと変わる。
「棒が……」
「これが私の杖。直接触れて魔力を流すと元の大きさに戻るよう出来てるの」
杖をくるくると手元で弄びながらそう説明し、サーニャは死体の山にそれを向けた。
「━━『円環の内火』」
呪文と共にサーニャが杖を振るうと死体の山を囲うように炎の線が広がり、円を形成、みるみるうちにその内側を紅蓮に染め上げていく。
火の魔法……それも詠唱を省いた状態でここまでの規模と威力を出せるなんて……。
この魔法の冴えを見る限り、サーニャの魔法使いとしての技量は相当なものだ。
「……謙遜してましたけど、サーニャさん。凄い魔法の技量じゃないですか」
完全に燃えつくされ、灰となって消えた死体の山を目にして思わずそんな言葉が漏れてしまう。
私の見てきた中であの人や姉、長老にアライアさんという例外を除けば、ここまでの技量を持った人はいなかった。
正直、技量に関して言えば私よりもサーニャの方が上だと思う。
「そんな事ないよ。これは杖の補助があったから威力が損なわれずに済んだだけ。私はルーコちゃんみたいに素で詠唱を省く事は出来ないからね」
もちろん、杖があれば詠唱破棄や無詠唱の助けになる事は知っているが、それを加味してもサーニャの技量は高いし、そもそも杖があろうとなかろうと、結果として同じ事ができるなら実践においては変わらないだろう。
「だとしてもサーニャさんの技量が優れている事に変わりはありません。補助があろうと使い手の技量が優れていなければあそこまでの威力はでないと思います」
「……なんだかルーコちゃんに褒められるとむず痒いな~……でもありがと」
頬掻き、照れる仕草を見せるサーニャ。私としては思った事を口にしただけなのでお礼を言われるのはなんというか、不思議な気分だった。
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