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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第54話 魔物の名称と二人での依頼
しおりを挟む次の日、宿を後にして依頼に向かった私達は町と外とを隔てる門の前までやってきていた。
きたときは初めての人間の町に目を奪われていて気付かなったけど、この門も壁も改めて見ると物凄く頑丈そうな素材で作られてる……。
万が一にも魔物の襲撃などで壊される事がないよう丈夫に作られるのは当然なのだろうが、それでも見る限りの強度たるや、長老の使っていた防御壁をも軽く上回るだろう。
「えっと、今日の依頼内容の確認だけど、小型の魔物……ウェイゴブリン五体の討伐だね」
「……ウェイゴブリン?」
そんなことを考えながら壁と門に見入っていると、発行してもらった依頼書に目をやるサーニャの口から知らない単語が聞こえてくる。
話の内容からいって討伐対象である魔物の名前なのだろうが、全く聞き覚えがない。
というか、そもそも集落にいた頃は倒してはいたものの、魔物の名前なんて気にした事すらなかった。
……長い奴とか、四足歩行のでかい奴とか心の中では呼んでたけど、それで不便はなかったからね。
狩りには何が危険でこういう習性があるなどの情報さえあればいいので、私以外のエルフも魔物の名前を気にした事はないだろう。
あるいは長老なら知っていたかもしれないが、今となっては確認のしようもなかった。
「えーと、もしかしてルーコちゃん、ウェイゴブリンを知らなかったりする?」
「……はい、見たことも聞いた事もないです」
「そっか、ルーコちゃんのいたあの森はウェイゴブリンみたいな弱い魔物はいないもんね」
納得した顔で頷くアライアだったが、彼女は盛大な勘違いをしている。
私はたとえあの森に生息している魔物だろうと名前はわからない。
対処法を聞かれれば答えられるし、倒すこともできるが、その魔物が正式になんと呼ばれているかを答える事はできない。
「あの、そうじゃなくて……いや、ウェイゴブリンはもちろんわからないんですけど、それ以前に魔物を名前を呼ぶ習慣自体がないので、その、見た事のある魔物でも名前はわからないです……」
ここで見栄を張っても仕方ない。分からないものは分からないと正直に話す私へ二人の唖然とした視線が突き刺さる。
「ま、まあ、名前を知らなくても問題はないんじゃないかな?少し調べればすぐにわかる事だし……」
「そ、そうだね。これから少しずつ覚えればいいんじゃないかな」
「…………すいません」
視線に反して掛けられた優しい言葉が心に突き刺さり、申し訳なさから反射的に謝ってしまった。
ともあれ気を取り直し、さっそく外に出ようとした矢先、アライアが不意に立ち止まる。
「アライアさんどうかしたんですか?」
「……うん、今回の依頼なんだけど、ルーコちゃんとサーニャの二人で行ってきてくれないかな」
唐突に切り出された言葉に戸惑う私達へアライアは難しい顔をしながらその理由を口にした。
「ちょっと気になる事があってね。この依頼なら私がいなくても大丈夫だろうし、サーニャがついてるなら問題ないでしょ」
「確かに問題はないですけど……」
どこか引っ掛かるような物言いに不満をあらわにするサーニャ。
こうして二人で依頼に向かう事自体に問題はないが、まさに向かうこの瞬間に別行動を取る言われたのが気に入らないのかもしれない。
「問題ないならいいんじゃないですか?早く出発しましょうよ」
「う、うん……」
私はそう言ってまだ不満げなサーニャを半ば強引に引っ張って出発しようとする。
たぶん、アライアさんには何か考えがあるのだろう。でなければこんな直前にそんな事を言い出すのはあまりに不自然なのだから。
「━━あ、わかってると思うけど、サーニャは極力手を出したら駄目だからね。これはあくまでルーコちゃんのいらいなんだから」
「分かってますよ!」
声が聞こえなくなるぎりぎりの距離で思い出したかのように飛んできたアライアからの注意に少し声を荒げつつ返したサーニャと共に私は初めての討伐依頼に繰り出した。
そこからサーニャの案内でウェイゴブリンの生息する場所まで雑談に興じながら足を進めていた。
「それにしても気になる事って何だったんだろうね?」
「さあ?見当もつきませんけど、アライアさんの様子からして結構重要な要件だったんじゃないですか」
雑談の内容はほぼほぼアライアの気になる事について。
正直ここでどれだけ考えようと答えが出ないとサーニャも分かっている筈だ。しかし、それでも話題に出さずにはいられなかったのだろう。
「それはそうだと思うけど、事前に言っておいてくれてもいいんじゃないかな?」
「ですねーまあ、何か言えない理由があったのかもしれないですし……あっ」
しばらく何もない平原を道なりに進んで行く中で見えてきた森らしき木々の群れたちに思わず声を上げてしまう。
「ん、見えてきたね。あそこがウェイゴブリンの生息地の森だよ」
「……意外と町から離れてないんですね」
到着にはもう少し時間がかかると思っていただけについそんな感想が漏れる。この距離なら魔物が町の存在に気付いて襲ってくることもあるんじゃないだろうか。
「うん、といってもここに生息してる魔物はそんなに強くないから近くても特に問題はないよ。むしろ初心者にとっては依頼を達成するのに適した場所になってるんだ」
「そうなんですか……」
確かにあの壁や門はちょっとやそっとの襲撃では壊れそうになく、私の心配は的外れなものだったかもしれない。
「っと、よし。それじゃあさっそくウェイゴブリンを倒しに行こうか」
「倒しに行くっていってもまず見つけるところからじゃないんですか」
目標は五体の討伐、倒すうんぬんよりも見つける方が大変だ。
加えて私はウェイゴブリンの姿形すらわからないため、探索はサーニャに頼りきりになってしまう。
「そうだね。でもウェイゴブリンは基本的に数体ずつで行動してるし、生息数も多いから割とすぐに見つかるよ」
「生息数が多いって……それならなんで討伐の数が五体なんですか?こうして依頼が出てるって事は被害にあって困るからって事じゃ……」
被害が出てるにしては討伐数が少ないと思い、その疑問を口にすると、サーニャは頬掻いて少し困ったように首を傾けた。
「あー……確かにウェイゴブリンによる被害が全くないわけじゃないんだけど、この依頼に関しては新人育成のためにギルドの方が発行しているんだよ」
「ぎるどが?」
「そう、依頼は個人の事情で発行されるものだからいつも丁度いい難易度の依頼を用意できるわけじゃない。でもギルドとしては新人を育てていく必要があるから、そのためにいくつか依頼を用意してるの」
そこまで深く考えなかったが、言われてみればそうだ。依頼人の事情で発行されるものが毎回、都合のいい難易度な訳がない。
「もちろん、ギルドとしてもでたらめに討伐依頼を出してるわけじゃないよ。ウェイゴブリンは繁殖力が高くて数が増え過ぎると危険だから定期的に数を減らさないといけないっていう理由もあるからね」
「……つまりこの依頼はぎるどから私への試金石だと」
「え、いや、確かにそういう見方もできなくはないけど……」
そういうことなら話が早い。この依頼を見事成功させて私がきちんと冒険者としてやっていける事を証明してやろうと決意し、気合を入れ直した。
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