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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第53話 続く武器選びと蠢く陰謀
しおりを挟む欠点についてはミアレの説明で理解できたが、それを踏まえた上で何故サーニャは銃を薦めてきたのか。
その疑問を私が口にするよりも早く、ミアレがサーニャの方を向いて口を開いた。
「━━というか、説明以前に銃がそういう武器だってサーニャも知ってた筈だろ?」
「もちろん、銃が扱いにくい武器だっていうのは分かってますよ。でもルーコちゃんの戦い方には合ってると思います」
「私の戦い方に……?」
さっきまでの話を聞く限りだと正直、合っているようとは思えない。強化魔法やその他の魔法で防がれてしまうというなら、直接打撃を打ち込んだ方が効率的な筈だ。
「うん、ミアレさんの話から銃が決定打になりづらいのが分かったと思うんだけど、全く使えないわけじゃない。防御魔法ならともかく、強化魔法相手なら銃は打撃武器に為り得るんだよ」
「……えっと」
ミアレの説明を聞いた限りだと、貫通性能に長けた銃はどうしたって打撃武器にはならないように思える。
だからそう為り得ると主張するサーニャの言葉の意味がいまいち理解できていなかった。
「……確かに強化魔法越しに銃を撃てば着弾した反動で疑似的な打撃になりはするけど、それこそ至近距離で撃たないと大した効果はないし、そこまで近づいているのならそのまま殴った方が早い。違うかい?」
「そうですね、その通りです。そんな至近距離なら殴った方が早いですし、何より剣士でも近すぎるような間合いに普通の魔法使いは近づきません。けれど、戦士や剣士並みの強化魔法で積極的に距離を詰めるルーコちゃんなら銃という武器は十分に機能する筈です」
私にとっての銃の有用性を力説するサーニャ。銃の実際の挙動を見たわけではないため、何とも言えないが、それでもサーニャの言葉で少し試してみようかなという気持ちが湧いてくる。
「……アタシはルーコの戦い方を直接見たわけじゃないから、それを知ってるアンタがそこまで言う以上、何も言わないけどさ、武器選びは自分の命に直結するからその辺もきちんと考えてあげなよ」
「分かってます。ただ選択肢の一つとして薦めただけで、最終的に決めるのはルーコちゃんですから」
難しい顔をして責めるでもない厳しい言葉を吐いたミアレにサーニャは頬を緩め、笑みを持ってそう答えた。
「私は……」
「━━邪魔するよ」
サーニャの意見も考慮して再度、武具の数々に目をやり、選び出そうとしたその瞬間、入り口の扉が開いて誰かが店内に入ってくる。
「あ、アライアさん」
「や、おまたせ。遅れて悪かったね」
どうやら思っていたよりも話し込んでいたらしく、アライアが宿の予約をし終えるほどの時間が経っていた。
「久しぶりだね。アライア」
「うん、久しぶり。ひと月ぶりくらいかな。元気だった?」
互いに久しぶりと他愛もない会話を繰り広げる中で、アライアはミアレの持っていた銃に気付く。
「珍しいね、銃を持ち出すなんて。もしかしてルーコちゃんに薦めてたの?」
「……アタシじゃなくてサーニャがね、何でもこの子の戦い方に合ってるんだって」
問われたミアレは肩を竦めて答え、サーニャの方に視線を向けた。
「銃の特性的に候補の一つとして挙げただけですよ」
「ん、確かにルーコちゃんには合ってるね。でもその単発式の銃だと流石に使い勝手が悪いんじゃないかな」
肯定しつつも、アライアはさっきまで出なかった銃の欠点を論う。
「単発式?」
「そ、この銃は撃つごとに弾を込め直さないといけないから近距離では使い物にならない。だからサーニャが想定したであろう運用をするには向かないんだよ」
想定したであろう運用が私の想像と合致しているかはわからないが、いちいち弾を込め直すという動作はアライアの言う通り、近距離戦において致命的ともいえる隙だ。
わざわざその隙を許容してまで使うほどの利点が銃にない以上は武器の候補から外さざるを得ない。
「もちろん、その辺はわかってます。だからルーコちゃんが使うっていうなら連射式のやつを用意してもらおうかと……」
「……言っとくけど、うちにはこの単発式のやつしか在庫がないからね」
言葉に先んじてミアレがそう言い放つと、サーニャは表情をぴきりと固まらせる。
「まあ、売れない割に作るのに高い技術を要求されるからね。放置してると暴発の危険性もあるから維持も大変だし、在庫がそれしかないのも仕方ないよ」
そんな厄介な商品は店として抱えておきたくはないという気持ちは何となく想像できるし、むしろ在庫があるだけ凄いとすら思えた。
「……一応、頼まれれば特注で作れなくもないけど、時間とお金が掛かるから薦められないね」
「……そうですか。それなら銃はひとまず候補から外すしかないですね」
時間はともかく、私にはお金というものがない。存在自体は本の中に出てきたため、知ってはいたが、そもそもエルフの集落に何かを買うという概念がなく、通貨なんて流通していなかった。
だから当然、今の私は無一文で必要なお金を出してもらっている状態だ。そんな中で、お金の掛かるものを頼むのは流石に気が引ける。
「そうだね。明日には依頼に取り掛かってもらうつもりだから時間の掛かるものはちょっと厳しいかな」
少し理由は異なるが、アライアが私の言葉に賛同の意を示した事で銃を武器にする案は立ち消え、他の武器を探す運びとなった。
そこから私はアライア達の助言を聞きながら改めて武器を吟味し、最終的にいくつかの投擲用の刃物と小さな剣を選んで購入、会計を済ませて店を後にしようとしていた。
「━━ミアレさん、色々とありがとうございました」
「別に礼なんていらないよ。アタシは仕事をしただけだからね」
帰り際、丁寧に説明してくれた事や一緒に考えてくれた事に対して礼を告げるとミアレは何でもないようにそう言って肩を竦める。
「ま、武器や防具がが必要になったらまた来なよ。今度はうちの旦那も紹介するからさ」
「わ、ちょっ……」
にっと笑って私の頭をがしがしと乱暴に撫でるミアレ。そのせいで髪が乱れてしまうも、不思議と悪くない気持ちだった。
「それじゃ、お世話になったね。今度また飲みにでも誘うよ」
「ああ、期待せずに待ってるよ」
「本当にお世話のなりました。また来ます」
「じゃあね、サイオンさんによろしく」
互いの気の置けなさを感じるやり取りを交わし、挨拶とする二人に続いて私達もそれぞれミアレに別れの言葉を告げて店を後にし、アライアの予約した宿屋へと足を向ける。
「そういえばどこの宿屋を予約したんですか?」
「んーいつものとこがいっぱいだったからギルドの近くのとこ。大部屋が取れたから三人とも同じ部屋だね」
いつものところというのがどこだか分からないけど、今回の宿がぎるどの近くなら報告する際にも足を運びやすくて便利そうだった。
「同じ部屋かぁ……そうだ!せっかくだから一緒にお風呂に入ろうよ」
「お風呂……ああ、水浴びの事ですか?それは別に構いませんけど……」
「……あの宿屋のお風呂はそんなに広くなかったから二人は入れないんじゃない?」
明日に依頼を控えながらも、この日は他愛のないやり取りを繰り広げ宿に向かい、そのまま一日を終える事になる。
━━この時の私はは知るよしもなかったが、依頼の裏でとある策謀が張り巡らされていたらしい。
……いや、後から振り返ってみると策謀と呼ぶにはあまりに稚拙、それを画策した理由も酷く幼稚なものだった。
薄暗い路地裏。ごみが散乱し、異臭が漂うこの場所で二つの人影が向かい合っていた。
「……それで?今回の標的はそのガキ一人って事でいいのか」
二つの人影の内、大きい方の影が野太い声を響かせて問い掛ける。
「一応な。だが、近くに青い髪のガキもいたらついでにやれ。その分の報酬は上乗せしてやる」
小さい方の影の不遜な口調に大きい方の影は一瞬、ぴくりとするも、すぐに首を振り、苛立ちを隠しながら言葉を続けた。
「……こっちとしちゃ報酬を払ってくれればそれでいい。支払いが滞ればこの依頼の事を公にするが構わないな?」
「もちろんだ。きちんと金は用意するからな。何の問題もない」
話の内容は明らかに後ろ暗いもの。もしここが人のいない路地裏でなかったならこの会話はかなり危ういものだろう。
「ならいい。依頼を達成し次第連絡する。金を用意しておけ」
「ああ、ちょっと待て。念のためこれを渡しておく」
大きい方の影が話を打ち切り去ろうとした瞬間に小さい方の影が懐から掌くらいの大きさの玉を取り出し、手渡した。
「これは?」
「保険だ。中には調教済みの魔物が封じられてる。もしもの時は地面に叩きつけて割れ」
訝しみながらも渡された玉をしまい、その場を去る大きな影。
それを見送った小さい方の影がほの暗い笑みと共に不気味な声を漏らす。
「……この私を陥れた報いを受けてもらう……その命でな」
影から覗いたその瞳に狂気の色を滲ませたその男は小さく笑いながら路地裏の闇に溶けていった。
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