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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第106話 絶望の魔女と創造具現
しおりを挟む私に示された可能性についてを聞こうとした矢先、アライアを呼びに行っていたノルンが彼女を伴って戻ってきたため、話が一旦、そこで止まってしまった。
「――――あらら、随分派手にやってくれたねぇ……こうなる気はしてたけどさ」
辺りをひとしきり見回したアライアが森の惨状を前に呆れた様子で呟く。アライアとしても、この惨状はある程度予想していたらしく、別段、怒ってはいなかった。
「フフン、一応、これでも気を遣って直せる範囲に留めたからな。褒めてもいいぞ?」
「……なんで得意げなんですか」
「……昔からこういう人なのよ。ちょっとずれてるというか、基本的にちょっと阿呆なの」
何故かどやっとした顔をしているレイズに対して半ば呆れ気味にそう口にすると、ノルンもまた大きなため息と共に、半眼を向ける。
「おい、誰が阿呆だ。俺はきちんと気が遣える知的な大人だぞ」
「もうその発言からして知的じゃないけどね……まあ、確かにこのくらいなら私が直せるから問題ないよ。それでルーコちゃんにはどこまで教えたの?」
未だにレイズへ残念なものを見るような視線を向けるノルンと私を他所に、アライアがそう尋ねる。
「んーどこまでというと、まだ何も。知識なら戦う前に少しだけ講義はしたな。後はお前達がくる前に振り返りをしてたくらいで、直接的な指導はまだだ」
「そっか、指導をする前からこれかぁ……終わる頃に森が残ってるかな…………」
レイズの答えにアライアは頭を掻き、遠い目をして呟く。たぶん、指導が始まってないにも関わらず、これだけの被害が出ているという観点から、先の事を考えてしまったのだろう。
「心配性だな。俺だってそのくらいの配慮は持ち合わせてるから大丈夫だ」
「……実際に一部を消し飛ばした人が言っても全然説得力がないわよ」
呆れ返るノルンの言葉に対し、レイズは聞こえていないかの様に振る舞い、アライアに早速、直せと促す。
「ルーコには戦いを通して〝醒花〟の基本は見せた。だからお前がここを直すところを見学するのは悪くない事だろ?」
「……なるほど、そういう魂胆ね。私としてはルーコちゃんに〝醒花〟を教えるのはまだ早いと思ってたんだけど、ま、仕方ないか」
一応は納得したらしく、肩を竦めたアライアは身の丈ほどの杖を出現させ、惨状の拡がる方を向いてそれをかざした。
「さて、それじゃあルーコちゃん。よく見ておいてね――――」
アライアは私の方へそう声を掛けてから両目を閉じて一呼吸、魔力を内に溜めてから全身に巡らせる。
「〝繰り返す想像、思い巡る理想、描くもの全てを具現し、万物を自在に操る……魔力の深淵よ、理を歪み正せ〟――――『醒花・創造具現』」
詠唱と共に周囲へ圧力とも呼べる何かが放たれ、アライアの赤い髪に薄っすらと白銀が混じり、その瞳が深い碧から濃紺へと変わった。
「何が起きて……」
「起こるのはこれからだ。見逃すなよ」
混乱する私へレイズがそう言うと同時に大地が音を立てて震え始め、薙ぎ倒されてたはずの木々がみるみる内に生え拡がり、あっという間に元の景観を取り戻していく。
「――――はい、これで元通りっと」
これがアライアの引き起こした魔術によるものなのか、さっきまで切り株だらけの開けた景色が今は何事もなかったかのようにすっかり元に戻っていた。
「嘘……こんなことが…………」
「……驚くのも無理はないわ。私も初めて見た時は目を疑ったもの」
絶句する私に苦笑いのノルンがそう声を掛けてくる。レイズの〝醒花〟による圧倒的な強化魔法も凄かったが、アライアのこれはまた別物だ。
ただの無機物を生み出すのとは訳が違う。無論、アライアの『反覆創造』は魔術として破格の性能を持っていたが、植物とはいえ切り折られた生命を元に戻すなんてそれこそ次元を隔するものだった。
「これが〝醒花〟による魔力質の変化が引き起こす現象だ。ま、それを為したのが〝創造の魔女〟だからこその結果とも言えるがな」
どやりとした顔で私とノルンの方を見るレイズになんで貴女が偉そうなんですかと二人揃って胡乱な視線を向けていると、森を修復し終えたアライアが杖を肩に担いでやってくる。
「完全に元通りって訳じゃないけど、これで問題はないかな……久しぶりに使うと疲れるんだよね、これ」
「ハッ、そうは言いつつも、全然鈍ってないな。流石は創造の魔女様だ」
皮肉交じりの言葉で笑いかけてくるレイズにアライアは小さく溜息を吐いた。
「……いちいち絡まないでよ、面倒くさい。それよりもせっかく私の〝醒花〟を見せたんだからルーコちゃんへの講義をきちんと続けなよ」
「おっと、そうだな。それじゃあルーコ。アライアの〝醒花〟を見てどう思った?」
まだ衝撃で頭が回らない中でレイズに尋ねられるも、正直、感想としては凄いとしか言いようがない。確かに見学する事で〝醒花〟が生み出す別の側面を知る事はできた。
けれど、元々規格外だったアライアの魔術がさらに異次元になったのを見せられても私にはどこから学べばいいのかの取っ掛かりすら分からなかった。
「……どうと言われても、私には凄いとしか」
「…………ま、そうだろうな」
「だろうね」
言葉に困ったあげくそのまま正直に言うと、まるでそれを分かっていたかのようにレイズとアライアが揃ってそう口にする。
見学を勧めてきたのにその反応はどうなのかと、釈然としない気分で唇を尖らせる私を慰めるようにノルンが頭を撫でてきた。
「……二人共、言わんとしている事は分からなくもないけど、ルーコちゃんにもきちんと説明しないと伝わらないわよ」
ノルンは私の頭を撫でながら呆れた様子でレイズとアライアに言うと、二人は顔を見合わせる。そしてアライアが顎をしゃくり、レイズに続けるよう促した。
「……ルーコ、確かに俺はアライアの〝醒花〟を見るよう促したが、一度見ただけでそれを理解しろと言いたいわけじゃない。むしろ感想は凄いくらいでちょうどいい。というか、ここで何か分かったふうな事でも言いようものなら説教していたところだ」
まだ全部は分からないが、どうやら見せること自体が目的で、今の私に何かを汲み取らせる意図はなかったらしい。
「……まあ、でもルーコちゃんだって概要くらいは分かったんじゃない?」
「え、あ、その……さっきのが〝醒花〟によって質の変わった魔力を用いた魔術だって事は分かりましたけど、それ以外は……」
実際、今まで見てきたアライアの魔術とは違い、明らかに異質、私でなくともそれは気付くだろう。ただ、それがどう違い、どう異質なのかを上手く言語化する事が今の私にはできなかった。
「今はそれだけ分かってればいい。と、それで、だ。おそらく〝醒花〟がどういうものか、ある程度は見えてきたと思うが、それを踏まえてお前は今後、どうすべきだと考える?」
ぱんと手を叩き、話をまとめたレイズは試すような視線を私の方に向け、そう尋ねてくる。
どうすべきか、それは〝醒花〟という境地の存在を知り、その力の使い方を目の当たりにした今、私がどう活用するのかを聞いてるのだろうが、正直、何をどう考えればいいのかすらわからない。
……私にとっての〝醒花〟が『魔力集点』だとして、アライアさんのように活かせる魔術がない以上、レイズさんみたいに強化魔法を使うしかないんだけど……たぶん、それじゃ意味がない。
仮に私がレイズのように〝醒花〟による強化魔法を使えるようになったとしても、おそらくただの劣化した真似事にしかならないだろう。
「……まだ分かりません。私には継続的に使える魔術が『魔力集点』しかありませんから」
「……別に〝醒花〟は継続的な魔術だけに限った話じゃないんだけど、私とレイズしか資料がないんじゃそう思うのも無理はないかな」
私の答えに頭を掻いたアライアはちらりとレイズの方に視線を送る。
「……ま、無理に今すぐ答えを出せとは言わない。ひとまず、当面の目標としては〝醒花〟の習得……もしくは『魔力集点』をその領域まで昇華させる。それから使い方を考えても遅くはないだろ」
腕を組んで片目を瞑ったレイズがそう言ったところでひとまず、今日のところは解散となった。
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