113 / 172
第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第107話 絶望の魔女と行き詰まる修行
しおりを挟む絶望の魔女であるレイズとの修行を始めて三日、私は早くも壁にぶち当たっていた。
「――――ふむ、思っていたよりもその『魔力集点』というのは難儀な代物だな」
息切れしながら地面に手足を放り出して倒れる私を見下ろしたレイズが難しい表情で呟く。
この三日間、私は『魔力集点』を洗練させ、まずはレイズのようなとんでも強化魔法を再現しようと試みていた。
今まで使っていたようにではなく、戦った時のレイズの姿を想像して強化魔法を発動させるが上手くいかず、どうやってもいつも通りにしかならない。
「……どう……やっても……できる……気が……しないん……ですけど」
そもそも『魔力集点』を使って修行という時点で大分効率が悪く、限界の瀬戸際まで挑戦しても日に短時間しか修行できないというのも上手くいかない要因の一つだろう。
「……仕方ない。今日の修行もここまでにして、講義の時間にするか」
頭をがしがしと掻いて小さい溜息を吐くレイズの様子を見ていると、なんだか申し訳ない気持ちが湧いてくる。
確かにレイズから言い出して始めた修行ではあるが、それでも折角の魔女から修行を受けられる機会に進歩のない自分が嫌になりそうだった。
「…………まだ始めて三日なんだからあんまり考え込まないで。焦りは禁物よ?」
倒れる私に手を差し伸べて優しくそう諭してくれたのはこの三日間、心配して修行に付き合ってくれているノルンだ。
彼女の内心まで見透かしてくるような言葉に少しどきりとしながらも、お礼を言って手を取り、木陰に移動する。
「……さて、今日も今日とて、講義の時間だが、その前にここまでの三日間の修行を振り返って、問題点を挙げようと思う」
顎に手を当て、考え込むような仕草を見せたレイズが片目を瞑ってそう切り出す。
ここまでの講義では〝醒花〟の事を始め、魔力操作、魔法、魔術、果ては対人戦闘の立ち回りなど多岐にわたる内容だったが、修行を振り返るというのは初めての試みだった。
「問題点……上げればきりがないと思いますけど…………」
「ま、そうだろうな。だからこそ俺やお前ではなく、修行を外から見ていた第三者にまず意見を聞く事にする……ノルン?」
「そこで私に振るのね……」
唐突に話を振られたノルンは面を食らいつつも、少し考えてから口を開く。
「……そうね、全体的な修行の流れについては問題ないと思うわ……なかなか上手くいかないのは『魔力集点』の性質上仕方ない事だし、講義も無駄にはならないから時間をかけて少しずつ進めばいいんじゃないかしら?」
「そうだな。俺も概ねノルンと同じ意見だが、ルーコ、お前はどう思う?」
ノルンの意見に同意したレイズが今度は私の方に問うてくる。私としてもノルンの意見には賛成だけど、どうしたって進まない現状に焦ってしまう事を止められなかった。
「……私は、その、もう少し無理をした方がいいんじゃないかなと……確かにノルンさんの言っている事が正しいとは思うんですけど、このままじゃあまりに進まなすぎるというか」
「ふむ、まあ、言わんとしてることは分かるが、現状、どうしようもないだろう?『魔力集点』の性質を曲げて何度も使えるようにできるなら別だが」
頷き、そう返してくるレイズ。現状の『魔力集点』は全身の魔力を中心に集めて圧縮し、解き放つ事で出力の枷を外して一気に消費する事で魔力不足を補うためのものだ。
そのため使った後は魔力が底を尽くのが欠点なのだが、それを何度も使うにはレイズの言う通り、性質を曲げるしかない。
言葉にすれば簡単だけど、一気に全部使い切る事で出力の枷を外す『魔力集点』を何度も使うという矛盾だらけのそれをどう実現すればいいのだろうか。
……いや、可能性自体はある。今の魔力を一気に使い切るという性質から、それこそ〝醒花〟みたいに魔力の質を上げるものに変える事ができれば……って、それができるなら修行の必要もないんだけどさ。
そもそもこの修行の目的が〝醒花〟、もしくはそれに類する境地に至る事なのに、過程でその先が必要になるのは本末転倒もいいところだ。
「……流石にそれは現実的ではないでしょう。それならまだ〝醒花〟以外に目を向けた方がいいと思うわ」
やはりというべきか、ノルンも首を振り、別の提案を挙げる。
とはいえ〝醒花〟以外に目を向けると言っても、せっかく魔女との修行の機会に一人で出来るような事をしても仕方ないだろう。
「…………あ」
そこまで考えたところで不意にある事を閃き、思わずそんな声を漏れる。
「どうかしたのルーコちゃん?」
「何か思いついたのか?」
不思議そうな顔で尋ねてきた二人に対して、私は頭の中で考えをまとめながら答えを返した。
「……えっと、思いついたというか、最近、練習中の魔法……というか、技術が使えないかな、と」
「技術?」
「一体なんだそれは?」
興味津々といった様子で先を催促してくるノルンとレイズ。どうすればいいのか頭を悩ませていたにもかかわらず、唐突にそんな事を言い出したのだからその反応は当然と言える。
「まだきちんとはできないんですけど、簡単に言えば魔力の物質化です。自分の魔力を体外に放出して固める事で一時的に保管するっていう――――」
「ッそれは本当か!?」
途中まで言いかけたところでレイズに肩を掴まれ、凄い勢いで詰め寄られる。別におかしな事は言ってないのにどうしたのだろうかと困惑していると、こめかみに手を当てたノルンが短いため息と共に口を開いた。
「……あのね、ルーコちゃん。自他問わず、魔力そのものを体外に放出して固め、あまつさえ一時的に保管するなんて技術は今まで一度も確立された事がないの」
「えっと……それはどういう…………」
確立されてないと言われても理解が追い付かず、二人の反応を見てますます首を傾げてしまう。
「……分かってないようだから言っておくが、その技術が本物だとしたら、お前は人類の魔法体系から外れた稀有な魔法を創った事になるんだぞ」
「人類の魔法体系って流石に大袈裟じゃ…………」
確かに魔力を放出して固めるなんて聞いた事はないけれど、物に魔法を込めた魔道具や魔法を補助する杖があるのだから、私の習得しようとしている技術もそこまで凄いものでもない筈だ。
「……大袈裟じゃないわ。魔道具や杖みたいに魔法そのものを道具に込める事は可能だけど、さっきも言ったように魔力そのものを放出して保管なんて技術は表立って存在してないの。だからルーコちゃんがそれをできると言うのなら彼女の言っている事もあながち間違いじゃない」
「で、でも、やっぱり大袈裟ですよ。そもそも魔力を物質化して保管しようなんて少し考えれば誰でも思いつくような事ですし、難しいですけど、今までそれをやってのけた人がいないとは思えません」
全部を知っているわけじゃないけど、長い人類史の中で私みたいに魔力の少ない人が同じ事を考えていても何ら不思議ではないし、その中にそれができる人だっていると思う。
だからこそ二人がここまで驚き、言い募るのは予想外だった。
「…………確かに今まで誰かが思いつき、やってきたかもしれんが、その母数は圧倒的に少ないだろう。さらにその中でそれを再現できる奴は皆無といえる」
「……そうね。だからもし、本当にできるならそれは〝魔女〟になる上での実績に繋がるはずよ」
「……そこまでですか」
二人の反応から魔力の物質化というのは私が思っていたよりも遥かに凄いというのは理解できた。けれど、この技術はそんなに便利なものではない。
仮に上手くこの技術を扱えたとしても、それによって得られる効果は万人にとって有用なものとは言い難いのだから。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる