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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第107話 絶望の魔女と行き詰まる修行
しおりを挟む絶望の魔女であるレイズとの修行を始めて三日、私は早くも壁にぶち当たっていた。
「――――ふむ、思っていたよりもその『魔力集点』というのは難儀な代物だな」
息切れしながら地面に手足を放り出して倒れる私を見下ろしたレイズが難しい表情で呟く。
この三日間、私は『魔力集点』を洗練させ、まずはレイズのようなとんでも強化魔法を再現しようと試みていた。
今まで使っていたようにではなく、戦った時のレイズの姿を想像して強化魔法を発動させるが上手くいかず、どうやってもいつも通りにしかならない。
「……どう……やっても……できる……気が……しないん……ですけど」
そもそも『魔力集点』を使って修行という時点で大分効率が悪く、限界の瀬戸際まで挑戦しても日に短時間しか修行できないというのも上手くいかない要因の一つだろう。
「……仕方ない。今日の修行もここまでにして、講義の時間にするか」
頭をがしがしと掻いて小さい溜息を吐くレイズの様子を見ていると、なんだか申し訳ない気持ちが湧いてくる。
確かにレイズから言い出して始めた修行ではあるが、それでも折角の魔女から修行を受けられる機会に進歩のない自分が嫌になりそうだった。
「…………まだ始めて三日なんだからあんまり考え込まないで。焦りは禁物よ?」
倒れる私に手を差し伸べて優しくそう諭してくれたのはこの三日間、心配して修行に付き合ってくれているノルンだ。
彼女の内心まで見透かしてくるような言葉に少しどきりとしながらも、お礼を言って手を取り、木陰に移動する。
「……さて、今日も今日とて、講義の時間だが、その前にここまでの三日間の修行を振り返って、問題点を挙げようと思う」
顎に手を当て、考え込むような仕草を見せたレイズが片目を瞑ってそう切り出す。
ここまでの講義では〝醒花〟の事を始め、魔力操作、魔法、魔術、果ては対人戦闘の立ち回りなど多岐にわたる内容だったが、修行を振り返るというのは初めての試みだった。
「問題点……上げればきりがないと思いますけど…………」
「ま、そうだろうな。だからこそ俺やお前ではなく、修行を外から見ていた第三者にまず意見を聞く事にする……ノルン?」
「そこで私に振るのね……」
唐突に話を振られたノルンは面を食らいつつも、少し考えてから口を開く。
「……そうね、全体的な修行の流れについては問題ないと思うわ……なかなか上手くいかないのは『魔力集点』の性質上仕方ない事だし、講義も無駄にはならないから時間をかけて少しずつ進めばいいんじゃないかしら?」
「そうだな。俺も概ねノルンと同じ意見だが、ルーコ、お前はどう思う?」
ノルンの意見に同意したレイズが今度は私の方に問うてくる。私としてもノルンの意見には賛成だけど、どうしたって進まない現状に焦ってしまう事を止められなかった。
「……私は、その、もう少し無理をした方がいいんじゃないかなと……確かにノルンさんの言っている事が正しいとは思うんですけど、このままじゃあまりに進まなすぎるというか」
「ふむ、まあ、言わんとしてることは分かるが、現状、どうしようもないだろう?『魔力集点』の性質を曲げて何度も使えるようにできるなら別だが」
頷き、そう返してくるレイズ。現状の『魔力集点』は全身の魔力を中心に集めて圧縮し、解き放つ事で出力の枷を外して一気に消費する事で魔力不足を補うためのものだ。
そのため使った後は魔力が底を尽くのが欠点なのだが、それを何度も使うにはレイズの言う通り、性質を曲げるしかない。
言葉にすれば簡単だけど、一気に全部使い切る事で出力の枷を外す『魔力集点』を何度も使うという矛盾だらけのそれをどう実現すればいいのだろうか。
……いや、可能性自体はある。今の魔力を一気に使い切るという性質から、それこそ〝醒花〟みたいに魔力の質を上げるものに変える事ができれば……って、それができるなら修行の必要もないんだけどさ。
そもそもこの修行の目的が〝醒花〟、もしくはそれに類する境地に至る事なのに、過程でその先が必要になるのは本末転倒もいいところだ。
「……流石にそれは現実的ではないでしょう。それならまだ〝醒花〟以外に目を向けた方がいいと思うわ」
やはりというべきか、ノルンも首を振り、別の提案を挙げる。
とはいえ〝醒花〟以外に目を向けると言っても、せっかく魔女との修行の機会に一人で出来るような事をしても仕方ないだろう。
「…………あ」
そこまで考えたところで不意にある事を閃き、思わずそんな声を漏れる。
「どうかしたのルーコちゃん?」
「何か思いついたのか?」
不思議そうな顔で尋ねてきた二人に対して、私は頭の中で考えをまとめながら答えを返した。
「……えっと、思いついたというか、最近、練習中の魔法……というか、技術が使えないかな、と」
「技術?」
「一体なんだそれは?」
興味津々といった様子で先を催促してくるノルンとレイズ。どうすればいいのか頭を悩ませていたにもかかわらず、唐突にそんな事を言い出したのだからその反応は当然と言える。
「まだきちんとはできないんですけど、簡単に言えば魔力の物質化です。自分の魔力を体外に放出して固める事で一時的に保管するっていう――――」
「ッそれは本当か!?」
途中まで言いかけたところでレイズに肩を掴まれ、凄い勢いで詰め寄られる。別におかしな事は言ってないのにどうしたのだろうかと困惑していると、こめかみに手を当てたノルンが短いため息と共に口を開いた。
「……あのね、ルーコちゃん。自他問わず、魔力そのものを体外に放出して固め、あまつさえ一時的に保管するなんて技術は今まで一度も確立された事がないの」
「えっと……それはどういう…………」
確立されてないと言われても理解が追い付かず、二人の反応を見てますます首を傾げてしまう。
「……分かってないようだから言っておくが、その技術が本物だとしたら、お前は人類の魔法体系から外れた稀有な魔法を創った事になるんだぞ」
「人類の魔法体系って流石に大袈裟じゃ…………」
確かに魔力を放出して固めるなんて聞いた事はないけれど、物に魔法を込めた魔道具や魔法を補助する杖があるのだから、私の習得しようとしている技術もそこまで凄いものでもない筈だ。
「……大袈裟じゃないわ。魔道具や杖みたいに魔法そのものを道具に込める事は可能だけど、さっきも言ったように魔力そのものを放出して保管なんて技術は表立って存在してないの。だからルーコちゃんがそれをできると言うのなら彼女の言っている事もあながち間違いじゃない」
「で、でも、やっぱり大袈裟ですよ。そもそも魔力を物質化して保管しようなんて少し考えれば誰でも思いつくような事ですし、難しいですけど、今までそれをやってのけた人がいないとは思えません」
全部を知っているわけじゃないけど、長い人類史の中で私みたいに魔力の少ない人が同じ事を考えていても何ら不思議ではないし、その中にそれができる人だっていると思う。
だからこそ二人がここまで驚き、言い募るのは予想外だった。
「…………確かに今まで誰かが思いつき、やってきたかもしれんが、その母数は圧倒的に少ないだろう。さらにその中でそれを再現できる奴は皆無といえる」
「……そうね。だからもし、本当にできるならそれは〝魔女〟になる上での実績に繋がるはずよ」
「……そこまでですか」
二人の反応から魔力の物質化というのは私が思っていたよりも遥かに凄いというのは理解できた。けれど、この技術はそんなに便利なものではない。
仮に上手くこの技術を扱えたとしても、それによって得られる効果は万人にとって有用なものとは言い難いのだから。
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