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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第108話 絶望の魔女と魔力の結晶
しおりを挟む思わぬ反応に驚いたのも束の間、まずは実際に見せてみろという流れになり、少しの休憩を挟んだのちに二人の前でやってみせる事になった。
「『魔力集点』を使った後ですから魔力は残ってないんですけど……少しなら…………」
両手を胸の前に掲げながら微かに回復した魔力の流れを意識しつつ、それを掌に集めて放出、霧散しないように神経を尖らせる。
っ……相変わらず操作は難しいし、少しでも気を抜くとあっという間に霧散しそうになるけど、魔力の総量が少ない今なら――――
万全の状態とは違い、すっからかんに近い今だからこそできると確信した私は少ない魔力を一気に練り上げて圧縮、掌の上に豆粒ほどの小さな魔力の塊が一つ出来上がった。
「ッ……できた!」
額に玉のような汗が浮かんでいるのを感じながら、淡い空色を放つ結晶をまじまじと見つめる。
これが魔力の結晶…………。
今まで何度も挑戦してきたが、成功したのはこれが初。そのため魔力の結晶自体をを目にするのも初めての経験だった。
「まさか本当に成功させるなんて……」
「……なるほど、これが魔力の結晶ってやつか」
二人共が興味津々な様子で私の掌にある結晶を見つめる。
たぶん、二人も私と同じく初めて魔力の結晶を目にしたはずだけど、意外にも反応が薄い気がするのは気のせいだろうか。
「……あの、なんか反応が薄くないですか?」
「え、い、いや、そんなことはないわよ?その、なんというか…………」
「随分と小さいな。この大きさだと魔法一発分もなさそうだ」
目を泳がせて言いづらそうにしているノルンを他所にレイズがばっさりと言い捨てる。
いや、確かに残り少ない魔力で生成した結晶であるため小さく、内包される量もレイズの言うように魔法一発分もないのだが、そこまではっきり言わなくてもいいだろうと思う。
「ちょっ、なんではっきり言うの貴女は!?ルーコちゃんが一生懸命作ったのに!」
「はっきりも何も俺はただ感想を言っただけだぞ?というか、それを言ったら今のお前の発言の方が絶妙に酷いだろ」
慌てて言い募るノルンと対照的にレイズが眉根を寄せてそう答える。
レイズの言う通り、はっきり言われてないだけでノルンの気遣いの方がぐさりときたのは事実だったのだが、それは内緒にしておこう。
「え、えっとね、ルーコちゃん?あの、違うの。その、確かに小さいなとは思ったけれど、そもそもこの技術自体が凄いんだから大きさなんて気にしなくても大丈夫よ」
「ノルン……お前、喋れば喋るほど言い訳染みて墓穴を掘ってる気がするぞ」
呆れながらも狼狽えた様子のノルンが珍しいのか、レイズは口元を緩めて忍び笑いを漏らしていた。
「……大丈夫ですよ。小さいのは本当の事ですし、別に私は気にしてませんから」
「う……本当にごめんなさい……」
当人である私が気にしていないと言っているのに物凄く申し訳なさそうな顔をしたままのノルンを見て流石に悪いと思ったのか、レイズが咳払いをしてから話を進めようとする。
「……ともかく、だ。ルーコが魔力を結晶化できるのは分かった。それ自体が偉業ではあるし、凄い事は認めるが、それを使ってどう『魔力集点』の欠点を補うんだ?」
「えっと、それは……」
怪訝な表情で表情で尋ねてくるレイズに思わず言い淀んでしまう。
実のところ、何かに使えるとは言ったものの、まさか一発で成功するとは思っていなかったため、具体的な運用方法自体を考えていなかった。
とりあえず思いつくのは魔力の結晶を溜めておいて、底を尽くと同時に取り込む……もしくは『魔力集点』状態で魔力を結晶化させ、通常時にそれを取り込むくらいだけど、前提として結晶化した魔力を取り込めないと話にならないため、まずはそれを確かめる必要があった。
それにもし、取り込む事ができたとして、少ない魔力でしか成功させてない以上、もう一度できるかも不明だし、溜めるといっても、毎日『魔力集点』を使う修行をしているのでそんな余裕もない。
つまり、それらは二重の意味で試せない方法だった。
「……まあ、ある程度、使い方の予想はつくが、言い淀むって事はお前もその問題点には気付いてるんだろ?」
「…………はい、その、こんなにあっさりと成功するとは思わなくて……何かに使えそうって事くらいしか考えてませんでした」
包み隠さず正直に白状すると、レイズは腕を組み、人差し指をとんとん動かしながら黙り込んでしまう。
「ええと、レイズさん?」
「……待ってルーコちゃん。何か考えてるみたいだから」
そんなレイズを不審に思い、声を掛けようとした私をようやく立ち直ったらしいノルンがそれを止めた。
「……そうなんですか?」
「ええ、ああやって指をとんとんするのがアレの考える時の癖なの」
相も変わらずレイズの事をアレ呼ばわりするノルンに思わず乾いた笑いを浮かべる。二人の過去を知らない私がとやかく言える話ではないけど、名前くらい呼んでも良いのにとは思う。
「…………よし、ひとまず考えはまとまった。とりあえずはその魔力の結晶を取り込んでみろ」
どうやら私と同じく、取り込めない事には始まらないと判断したのか、そう促してくるレイズの言葉に従って視線を魔力の結晶へ落とす。
……取り込むのはいいけど、どうやればいいんだろう。
成功した時点で私はこの結晶に一切、干渉していない。だから魔力制御を止めるだとか、そういう話ではないし、こうして掌の上にあっても変化がない時点で自然に取り込む事もできそうになかった。
「……分かりました。やってみます」
なら残された手段は一つだと意を決して、掌の小さな結晶を勢いよく口に放り込んだ。
「ちょ、ルーコちゃん!?」
「うるさいぞ、ノルン。黙って結果を見てろ」
私の行動が予想外だったのか、慌てた様子で声を上げるノルンとそれを制したレイズに見守られながら変化が現れるのを待っていると、すっからかんだった筈の魔力がほんの少し増えたのを感じる事ができた。
「……できました!ほんの少しですけど魔力が戻って――――――っ!?」
瞬間、内側から何かが膨張するような感覚と共に耐え難い苦痛と圧迫感が私を襲い、その場に這いつくばりそうになる。
な、に……これ……ど、う……して…………っ!
苦痛は止むことなく続き、さらには寒気と倦怠感といった症状まで現れる。
「ルーコちゃん!大丈――――」
「っ何でもいい!魔力の吐き出せ!!」
駆け寄ろうとしたノルンを抑え、叫ぶレイズの声に私は無我夢中で魔力を風の塊として掌から解き放った。
僅かな魔力しか残っていなかったのに解き放たれた風は異常な程大きく、派手に土煙を巻き上げる。
「っ……はぁ……はぁ…………」
レイズの言う通りにしたのが功を奏したらしく、さっきまで感じていた苦痛と圧迫感が消え、膨張するような感覚もなくなっていた。
「こほこほ……っルーコちゃん!大丈夫!!」
土煙の中を突っきり、駆け寄ってきたノルンは倒れている私を抱きかかえると、慌てた様子で無事を確認してくる。
「っ大……丈夫……です……魔力を……吐き出し……たら……楽に……なった……ので…………」
魔力切れからくる倦怠感で言葉が途切れ途切れにこそなっているが、それ以外の異常はない。おそらくさっきまでの症状は一度、外に出力した魔力を取り込んだ事で起きたものだろう。
だからその原因となる魔力を吐き出すことで症状が緩和されたと推察できるが、前情報もなしでそれに一瞬で気付いたレイズの判断は流石の一言に尽きる。
「…………どうやらその技術はそこまで都合の良いものではないらしいな」
抱きかかえられた私を見て、少し残念そうな顔をしたレイズがそう言って肩を竦めたところで今日の修行は続行不可となり、解散する運びになった。
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