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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第109話 絶望の魔女と私の強み
しおりを挟む次の日、前日と変わらない場所で修業を再開した私はレイズの指示の下、魔力を物質化する技術の練習に打ち込んでいた。
「っ……はぁ……やっぱり魔力が全快の状態だと上手くいかないみたいです」
もう何度目かの挑戦が失敗に終わり、宙に霧散していく魔力を見やった私はため息と共にそんな言葉を吐く。
「ふむ……物質化する魔力量が増えれば増えるほど操作が困難になるのは仕方ないとして、出力する分を調整できないのか?」
「……難しいですね。魔力を固める時にどうしても想定以上の量を質力してしまうので、そこまで細かな調整はできません」
昨日のように魔力残量が少なければそれを全部使うだけなので、その辺の調整の必要はない。
しかし、なんら魔力を消費していない状態だと、そこを調整するための操作難度が高く、今の私では到底できそうになかった。
「……『魔力集点』みたいな魔力操作の極致を扱えるルーコちゃんが難しいというのなら、それはもう不可能に近いんじゃないかしら」
今日も心配して修業に付き添ってくれたノルンが眉根を寄せてそう呟く。
正直なところ、極致というのは大袈裟だと思うが、魔力操作に関して自信があるのは確かなので、ノルンの言っている事も間違ってはいない気がする。
「……なるほどな。まあ、ノルンの言わんとしている事も分らんでもない。俺から見てもルーコの魔力操作技術には目を見張るものがあるし、それでもできないとなると、不可能という表現は適当かもしれない」
ノルンの呟きに同調を示したレイズが腕を組み、片目を瞑って言葉を続ける。
「しかし、だ。昨日、ルーコは実際に魔力を出力して物質化してみせた。いくつかの条件が重なってできた産物だとしてもその事実は変わらない。つまり、何が言いたいのかというと、俺はお前ならできると思ってるって事だ」
「いや、その、だから肝心の出力調整が難しいって話で……というか、そもそもどうしてこの技術の練習をさせてるんですか?仮に成功しても、物質化した魔力は再度、取り込めないって昨日、分かったんじゃ…………」
理に適ってそうで全く合理的でも何でもないレイズの主張に呆れながらも、私は根本的な問題を問いかける。一応、レイズの指示に従い挑戦していたが、元々の修行目的は〝醒花〟に至る事だ。
確かにこの技術を突き詰め、使えるようになれば〝魔女〟になるために必要な偉業を達成できるかもしれないという話はあったし、〝醒花〟を習得する過程で何か使えないかとも考えたが、魔力を取り込めない時点でそれらは破綻している。
つまるところ、この技術の習得に利点はなく、それなら進みが遅かろうと〝醒花〟に至るための修行をすべきだろうと私は思う。
「ん、何を言ってる?まだ取り込めないと決まったわけじゃないだろ」
「…………え?」
まさかの一言に絶句してしまい、咄嗟に二の句が継げず、口をぱくぱくさせる事しかできなかった。
「……ちょっと、本気で言っているのかしらそれ。少量しか取り込んでいないルーコちゃんがどうなったか忘れたわけじゃないでしょう?」
「ふん、昨日の出来事だ。無論、忘れるわけがないだろう」
問い詰めるようなノルンの口調に鼻を鳴らして答えるレイズ。忘れていないならあの私の様子を見て、なぜ決まったわけじゃないといえるのだろうか。
「……昨日のあれはなるほど、拒絶反応といえるかもしれない。だが、お前達も……いや、当事者であるルーコはなおの事気付いた筈だ。取り込んだ魔力に見合わない魔法の威力に」
「それは……」
レイズの言う通り、無我夢中で放った魔法は少ない魔力ながらもかなりの威力を孕んでいた。だから取り込んだ魔力が引き起こす魔法に可能性を見出すのは分かる。
しかし、取り込んだ際にくるあの苦痛や圧迫感がある以上、まともに動く事すらできないだろうし、なにより少量だけであそこまでの症状だ。
もし、多量の魔力を取り込んだとして、どうなるか想像するだけで恐ろしい。
「……いくら威力があっても使えなければ意味はないわ。あの少量でルーコちゃんは立つ事も困難なほど苦しんでいたのよ?とてもじゃないけれど、まともに魔法なんて使えるわけないでしょう」
「ハッ、俺だってその辺は分かってる。使えるわけないと決めつけるのは早計だって話だ」
もっともな事を言うノルンに対し、レイズは同意しつつも、そう返す。
「……レイズさんがこの技術に可能性を見出してるのは分かりました。けれど、元々の修行目的は〝醒花〟ですよね。そこから逸れるのは本末転倒なんじゃないですか?」
思っていた事を口にしてレイズにぶつけると、彼女は何故か口の端を吊り上げてにやりと笑い、その言葉を待っていたと言わんばかりに修行の理由を話し始めた。
「フッフフ……それがそうわけでもない。そりゃ、あの技術を身に着けるのが困難なのは分かってるし、修行に付き合っている理由も忘れてない……にもかかわらず、俺がこれに拘るのは、その過程が〝醒花〟に繋がるからだ」
「……それはどういう意味ですか?」
魔力の物質化がどう〝醒花〟に繋がるのだろうかと私が問い返すと、レイズは再び片目を瞑り、人差し指を立てる。
「理由は大きく分けて二つ。一つはお前も言っていた通り、効率の問題だ。『魔力集点』を使った修行ではあまりに進みが遅いからな。そしてもう一つはこの技術の練習過程で魔力操作のさらなる向上が見込めるからだ」
「魔力操作って……ルーコちゃんがそれに優れてるのは貴女も認めてたんじゃないかしら?」
レイズの説明に対してノルンが眉根を寄せ、首を傾げながら疑問をぶつける。
「ああ、もちろんそれは認めてるとも。だが、その魔力操作にはまだ伸びしろがあるだろう?それに、だ。『魔力集点』の先……〝醒花〟に並ぶ境地へ昇華させる鍵はそこにある」
ノルンの疑問に同意を以て答えたレイズは意味深な笑みを浮かべて、その先の可能性を示した。
私の生み出した魔術である『魔力集点』は全身の魔力の流れを感じ取って操り集める必要があるため、魔力操作がその根幹だと言える。だからレイズのいう事はもっともなのだが……。
……問題は私が魔力操作の向上をどう『魔力集点』に活かす方法が分からないって事かな。
『魔力集点』による出力の限界突破は私に出せるぎりぎりの領域だ。いくら魔力操作を向上させたところでそれは変わらない。
レイズが何を根拠に魔力操作が鍵だというのか、それは分からないが、少なくとも私にはそう思えなかった。
「……っと、そうは言ってみたが、にわかには納得できないだろう。だからひとまずは一週間だ。その間に何の成果も出なければ修行内容を改めて見直す。いいな?」
私の方を見やってそう言うレイズにまるで心の内を見透かされているかのような感覚を覚えつつも、その言葉を受け止め、自分の中で考えて答える。
「…………分かりました。レイズさんの言う通り、一週間は魔力の物質化の修行に注力します。その間は『魔力集点』の使用は控えるって事でいいんですよね?」
「無論だ。あれを使ってしまえば魔力切れで動けなくなるからな。それでは修行方法を変える意味がない」
正直、私としてはそれで〝醒花〟に近付けるとは思えないが、魔力操作を磨くこと自体は無駄にはならないだろうと了承し、ここからの一週間はその修行に費やす事が決まった。
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