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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第111話 絶望の魔女と魔力転延
しおりを挟む魔力の物質化を修行として始め、一週間。今日がレイズの指定した期限……その最後の日だ。
「――――今日の成果いかんとしてはこの修行を中断するが、問題ないな?」
「……はい、大丈夫です。この三日間で最低限の形はできましたから」
レイズの最終勧告に頷いて答えた私は大きく息を吐き出し、心を落ち着けてからゆっくりと両手を前に突き出す。
……心配はいらない。大丈夫。まだ成功率は低いけど、きちんとできる事さえ見せればいい。
そもそもとして、レイズはここまでの修行の過程を目にしているため、実際のところ、この確認は形式的なもの。だから緊張する必要はないはず……たぶん。
少しの不安はあれど、ここまでやってきた通りにすればいいと心の中で割り切り、目を瞑って全身の魔力の流れを感じ取る。
「〝命の原点、万物の素となる力、理を捻じ曲げ手に入れる……」
詠唱に合わせて出力するのに必要な魔力だけを動かし、掌へと集束させていく。
「形なき在り方よ、歪め〟――――『魔力転延』」
集束させた魔力を放出するのと同時に呪文を唱え、霧散しようとするそれを固めて圧縮、弾け飛ばないように細心の注意を払う。
詠唱と呪文、四小節以上の言葉からなるこれはれっきとした魔術……ずっと失敗が続いていた私が思いつき、辿り着いた答えだ。
詠唱や呪文の補助があればそのまま魔力を出力させる技術も安定するはず。
その考えの元、技術を魔術として捉え、レイズとノルンに意見を求めながら創り上げたのがこの『魔力転延』にだった。
っここで固めきる……!
初めは外へ逃げるように荒ぶり、暴れていた魔力の塊が一気に収縮されて、術者である私の掌に目玉ほどある空色の結晶が生成された。
「――できたっ……!」
思わず弾む声と共に成功の証である空色の結晶を掲げた私は嬉しさのあまりはしゃぎ飛び回ってしまう。
「……よっぽど嬉しかったのね。ルーコちゃんがそんなにはしゃぎ回るなんて」
「……まあ、成功率が決して高くないアレを一発で成功させたからな。無理もない」
普段の私からは考えられないはしゃぎっぷりに付き添いできていたノルンだけでなく、レイズまでもが生暖かい視線を向けてくる。
「…………んんっ、えっと、レイズさん。これで文句はないですよね?」
その視線に気付いた私は誤魔化しの咳払いをしてから、何事もなかったようにレイズへ尋ねた。
「……いや、別に元から文句はなかったぞ?というかこの修行を提案したのは俺だしな」
「…………そういえばそうでしたね。それじゃあ、これでこの修業は続行ですか?」
当初、どちらかといえばこの修行に否定的だったのは私の方だった。『魔力転延』が完成してからようやく私はこの修行が有用な事を理解したが、レイズは始める前から気付いていたのだろう。
「ん、続行でいいだろ。ま、もう少し成功率を上げたら〝醒花〟の方にも注力してもらうがな」
元々は〝醒花〟に至るための修行だ。そっちに注力するのは当然だし、こちらの修行も続ける事ができるなら何一つ文句はない。
「……続行するのは良いとして、結局、その出力した魔力の結晶はどうするの?」
私の掌にある魔力結晶に視線を向けながらノルンがそう聞いてくるが、それに対しての答えを持ち合わせていなかった。
「どうと言われても……どうしましょう?」
「……俺に聞かれても困る。確かに使えないと決めつけるのは早計だとは言ったが、具体的な利用方法までは知らん」
困った末にレイズの方へ目を向けると、彼女は肩を竦めながら知らないとばっさり切り捨てる。いや、まあ、自分の魔術なのだから活用方法を人任せにするなという話なのだけれど。
「知らんって……元はといえば貴女が焚きつけたんじゃない」
「それは、そうだが……あれは修行を続けさせるための言葉の綾だ。実際、目的であった魔力操作も向上した事だし、結果的には良かっただろ」
半眼で言い募るノルンにレイズは少しばつが悪そうにしつつも、最終的には開き直ったようにそう答えた。
「…………とりあえず活用法が見つかるまではどこかに保存しておこうと思います。幸いかさばるようなものでもないですし」
このままだとまた二人の言い合いが始まってしまうと危惧した私はひとまずそう言ってこの場を収める。
……具体的な方法を思いついてないのは本当だけど、ぼんやりと試してみたい方向性みたいなのは見えてる……言えば確実に止められそうだから黙っておこう。
仮に私の考えている方向性で上手くいったとしても、たぶん、得られる成果と背負う危険性が釣り合わない。だからこそこれは二人に内緒で進める必要がある。
「そうね。それが良いと思う。聞いた事はないけど、もしかしたら魔力の結晶を使った魔道具とかがあるかもしれないし……」
「……普通に考えて、魔力の物質化っていう前例が観測されてないのにそんな物があるわけないだろう」
レイズからの大丈夫かお前と言わんばかりの言葉にぴきりと青筋を立てたノルンだったが、大きく息を吐き出す事でどうにか怒気を抑えた。
「……そうやって決めつけるのは早計だって、誰の言葉だったかしら?それに物がなくても専門の技師に依頼すれば作ってもらえるかもしれないでしょう」
訂正、ノルンは怒気を抑える気はなかったらしい。ノルンは冷ややかな声音と煽るような言葉選びでレイズに反論をぶつける。
「ハッ、俺はただ物自体があるわけないと言っただけでお前の言うような事柄は否定してない。人の言葉をさらって揚げ足を取ったつもりだろうが、それとこれとでは論点が違う」
「…………戦闘狂を気取る割に相も変わらず口がよく回るわね。小難し言い回しをすれば煙に撒けるとでも?」
「……二人共、言い合いはその辺で勘弁してください。せっかく修行の継続が決まったのに、その時間がもったいないです」
これ以上、二人の舌戦が白熱してしまうと修行が進まないまま日が暮れる。そう思った私は間に割って入り、無理くり修行を再開させようと試みた。
「……それもそうだな。それじゃあさっさと再開するか」
「……私もルーコちゃんの邪魔をするのは本意ではないし、今日のところは引き下がるしかないわね」
二人が思いのほかあっさりと矛を収めてくれた事に安堵しながら、魔力結晶を懐にしまって再び『魔力転延』を使うべく、その準備に入る。
結局、この日は五回に一度の確率で成功させる結果に止まり、日が暮れる前に修行を終えて帰る事になった。
そしてそこから約一か月、魔力の物質化と〝醒花〟に至るための修行が続く事になるが、その水面下で暗い意思が動き始めていた事を、この時の私は知る由もなかった。
――とある廃屋、建物の体裁は保っていながらも、おおよそ人が住んでいるとは思えない室内で、黒い装いに身を包んだ不健康そうな少女が一人、仄暗い笑みを浮かべていた。
「クハッ……ようやく、ようやくだよ。何度もボクの実験の邪魔をしたアイツらを潰せる機会がきた」
誰もいない空間で独り言を呟くのは街での騒動を引き起こした集団の一人にして、ブレリオの命を奪った〝死遊の魔女〟……ガリストだった。
「他の奴……特にストレイドにバレたら面倒だから準備に時間が掛かるけど、始まってしまえばどうとでもなる。待ってろよ、ボクの材料ども」
黒く淀んだナニカを操りながら隈の酷い瞳を動かし、廃屋の底を見つめたガリストはもう一度、不気味に笑う。
暗くて何も見えないソコには怨嗟の籠った呻き声が響いていた。
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