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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第112話 絶望の魔女と迫りくる襲撃者
しおりを挟む魔力の物質化が順調に進み、始めた頃はまともに出力する事すらできなかったのが、今は三回に一回まで成功率は上がっていた。
「それじゃあ、そろそろ休憩にするか。おーい、ノルン。飲み物ー」
「……私は貴女の使いっ走りじゃないんだけど?あ、ルーコちゃん。お疲れさま、はい」
冷めた声でレイズに返し、二つ飲み物を持ってきたノルンがそのうちの一つを手渡してくれる。
「ありがとうございます。いつもすいません」
「ううん、私は自己満足のお節介でついてきたんだけだから、気にしないで」
それを受け取りながらお礼を口にすると、ノルンは小さく首を振って優しく微笑む。
「おい、俺にも飲み物をさっさと渡せ」
「……貴女は見ているだけなのだから少しは遠慮しなさいよ…………はい」
少しむくれた顔で飲み物を要求してくるレイズに呆れつつも、渋々といった様子で手渡すノルン。
私の時とは打って変わった態度ながら、結局、手渡している辺り、ノルンもレイズの事を心底嫌っているわけではのだろう。
そんな事をぼんやりと思い、受け取った飲み物を口にした私は何の気なしに空を見上げる。
空模様が怪しいなぁ……もしかしたら雨が降るかもだし、今日の修行は早めに切り上げるかも……。
小雨程度なら中止はないが、土砂降りになったら流石に止めざるを得ない。切羽詰まっているのならともかく、今、無理をして体調を崩す方が大分、馬鹿らしい。
……まだ私は〝醒花〟に至れたわけじゃない。だから少しでも修行をしないとって思っちゃうんだけど……焦りは禁物だよね。
『魔力転延』の精度こそ上がったものの、〝醒花〟に関してはほとんど進めていない。
一応、とある可能性は見いだせたが、それは決して褒められたような手段ではないため、真っ当に〝醒花〟へ至る道のりはまだまだ先になりそうだった。
「――――ん?これは…………」
受け取った飲み物を口にしていたレイズが不意にその手を止め、明後日の方向を見つめる。
「?どうかしたんですか、レイズさん」
「飲み過ぎでお手洗いにでも行きたくなったんじゃないかしら」
私の疑問も、棘を孕んだノルンの言葉にも反応を示さないレイズ。その様子から何か異常事態が起きている事を察した私とノルン互いに顔を見合わせ、再びレイズの方へ視線を向ける。
「……ふむ、どうやらこの森に少し面倒な奴らが入り込んできたみたいだな」
「面倒な奴ら?」
「この森にって……ここは表向き何もない場所よ?魔物が出るわけでもないから冒険者も滅多にこないし……」
どうしてそんな事が分かるのかと聞きたいところだが、状況的に雑談をしている暇はないかもしれない。なぜなら――――
「……それでもここにやってくるってのは相応の目的があるって事だ。それもあんなものを差し向けてくる以上、穏やかじゃない目的がな」
相応の目的、思い当たるのはこの森を抜けた先に〝創造の魔女〟の拠点があるという事だ。詳しくは聞いていないけど、拠点の場所を特別隠していたわけではないだろう。
だから〝創造の魔女〟に恨みを持つ誰かが拠点に襲撃を仕掛けてきてもおかしくはないが、〝魔女〟を相手取る危険を押してまで実行する相手がいるとは思わなかった。
……いや、よくよく考えれば確かにいる。〝創造の魔女〟……ううん、私達に恨みを持ってて〝魔女〟が相手でもそれを実行できる戦力を持っている集団が。
「……ノルンさん、それってまさか」
「……ええ、たぶん、そのまさかよ。予想外ではないけれど、意外に早い襲撃ね」
「ん、お前ら何か心当たりがあるのか?」
周囲を警戒しながら簡単に事情を説明すると、レイズは得心のいった顔で頷き、自身の杖である戦斧を巨大化させて構えを取った。
「――なるほど、そういえばアライアのやつがそんな事を言ってたな……なら森に入ってきたアレを見るに今回の首謀者は〝死遊の魔女〟ってところか」
「っ……〝死遊の魔女〟!!」
〝死遊の魔女〟、その単語を聞いた瞬間、私の中で一気に感情の熱が湧き上がってくる。
忘れもしないあの死体騒動、あれからしばらくはその話題に触れようとしなかったけど、いつまでも目を背けていられないとアライアに話を聞いた時に出てきた単語だ。
危険な思想とその残虐性から人々に恐れられ、幾人もの人々を実験と称して虐殺してきた大罪人であり、そしてブレリオの命を奪った張本人……それこそが〝死遊の魔女〟ガリストだった。
「……それは本当なの?いまさら襲撃自体が貴女の勘違いだなんて思わないけれど、その正体まで分かるなんて」
「……ああ、絶対とは言わないが、分かった理由なら直に見えるぞ――――ほら」
そう言ったレイズが顎で指した方向に目を向けると茂みが揺れ、呻き声と共にいくつもの人影が現れる。
「っ死体の群れ……!」
「なるほどね……あれなら確かに誰が首謀者か分かりやすい」
現れた人影は生気のない肌色に加え、ところどころ腐敗しており、あの騒動で見た死体達よりも明確に酷い状態だった。
「死体を弄び、自由に使役する魔術なんて〝死遊の魔女〟以外に考えられないからな。それがお前らと敵対してるっていうならなおさらだ」
「……って、そんな悠長な事を言ってる場合じゃないでしょう?早くアライアさんに知らせないと」
幸いというべきか、死体達の移動速度は遅く、すぐに拠点まで押し入られるという事はないだろうけど、いかんせん、数が多いため、このままでは止める手が足りなくなってしまうのが目に見えている。
「ハンッ、必要ないな。わざわざ知らせなくてもアライアの奴ならその内気付く。それよりもせっかく実戦の機会が降って湧いたんだ。これを活かさない手はないだろ」
「っは?この非常時に何を言ってるの貴女は。だいたいこのままじゃそれ以前に死体達の侵攻を許す事に――――」
まさかの言葉に驚き、怒るノルンを無視したレイズはそれを黙らせるかのように構えていた戦斧を振りかぶった。
「――――『断崖岩壁』」
呪文と共にレイズか戦斧を振り下ろした瞬間、大地が激しく揺れて私達の背後、その地面から巨大な岩壁がせり上がってくる。
「大きな岩壁……?」
「どうだ、これならあの死体どもが拠点まで辿り着く事を防げるだろう?」
「っ……どうだ?じゃないわよ。これじゃあ私達の逃げ場もないじゃない!」
得意げな顔をしたレイズへ青筋を立てたノルンの怒声が向けられる。
確かにここまで巨大な壁ならあの死体達の移動速度も相まって超えられる事はないだろうけど、ノルンの言う通り、拠点まで下がってアライアと合流すると言った手段も取りづらくなってしまった。
「逃げ場なんて必要ない。ここで奴らを全部返り討ちにすれば済む話だ。何、心配はいらん。この〝絶望の魔女〟がいるからな。安心して戦え」
「っだからそういう事じゃ……いいえ、こんな押し問答している暇もないわね」
何を言っても無駄だと判断したのか、レイズに詰め寄るのを止めたノルンは杖を取り出して変化させ、臨戦態勢を取る。
「このままじゃすぐに囲まれます。こっちから打って出ないと……」
「……そうね。でも闇雲に攻撃したところで悪戯に魔力を消費してしまうでしょうし、確実に動きを止める必要があるわ」
ノルンが知っているかは分からないが、あの死体達が騒動の時と同じなら生半可な攻撃では止まらない。行動不能に追い込むためには頭を消し飛ばすか、足を狙う必要があった。
「フフッ……まあ、試行錯誤してどうにかしてみろ。俺は本当のぎりぎりになるまで手は出さないからな」
「……別に期待はしてなかったから問題ないわ。ここまで巨大な岩壁を出した以上、騒ぎに気付いたアライアさんが駆けつけてくれるでしょうし」
「ですね。後は視覚外からの不意打ちだけは気を付けてください……それでブレリオさんはやられましたから」
記憶に刻まれた戦慄の光景を思い起こしながら警告し、私も迫る死体の群れを見据え、いつでも駆け出せるように身構える。
……大丈夫、あの時とは状況が違う。相手が魔女だろうと責任は絶対に取らせる。
自分に言い聞かせるようにそう心の中で呟いた私は死体達のさらに向こう……未だに姿を見せない〝死遊の魔女〟へ憤りを募らせた。
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