〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~

乃ノ八乃

文字の大きさ
119 / 172
第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女

第113話 絶望の魔女と入り乱れる攻防

しおりを挟む

 のろのろと侵攻してくる死体達に向かって最初に動き出したのは私……ではなく、身の丈程の杖を構え、臨戦態勢を取っていたノルンだった。

「――『影武装シャームウェンズ』」

 呪文を唱えたノルンは体勢を低くして疾走、杖に影を纏わせて巨大な鎌を作り出す。

「ふっ……!」

 ノルンはあっという間に死体の群れとの距離を詰め、低い体勢のまま影の鎌を振り抜いて足元を斬りつけた。

「ぁ……」
「ゔぁ……」
「ぁぁぁ……」

 斬りつけられた死体達は痛みを感じないらしく、特に怯んだ様子もなく呻き続けているが、それでも足に攻撃を受けた事で確実に移動速度は落ちていた。

「はぁっ!」

 振り抜いた鎌の勢いを殺さないようノルンがその場で一回転、そのまま速度を乗せて躊躇なく横薙ぎに切り裂くと、死体の首がいくつも宙を舞う。

「次っ」

 数体を行動不能にしてなお、ノルンは止まらない。鎌と化した杖を軽々と振りまわして次から次へと死体の首を落としていく。

「……おいおい、張り切るのは結構だが、お前一人で全部片づけたらルーコの修行にならないだろ」

 瞬く間に死体の群れを切り伏せたノルンに対してレイズは呆れ混じりにそう漏らし、ちらりと私の方に視線を向けてくる。

 たぶん、このままだと全部ノルンが倒してしまうから、早くお前も動けと暗に告げているのだろう。

「……分かってますよ。このまま見ているだけでいるつもりはありません」

 相手は仮にも〝魔女〟……以前よりも劣る死体の群れを寄越しただけで終わるとは到底思えないし、なにより、せっかくどこにいるかも分からなかった〝敵〟がこの先にいるのだ。

 この機会を逃すわけにはいかない。

「ならさっさと行ってこい。ああ、できるなら魔力は温存しておけよ?その内、倒せない事に焦れて〝死遊の魔女〟が直接仕掛けてくるだろうからな」
「それは望むところです。色々と聞きたい事がありますから――――」

 レイズの言葉に答えた私は強化魔法を纏って飛び出し、ノルンの邪魔にならない位置取りで死体の群れへと迫る。

行動不能にするなら頭を狙う必要がある……だからまずはノルンさんみたいに機動力を削ぐ。

 向かう先の二体を見据え、強化魔法を一瞬、解いてから足元を狙って腕を振り抜いた。

「――『風の飛刃ウェンフレイド』」

 生み出した風の刃は過たず死体の足を捉え、私の狙い通りその機動力を奪って体勢を崩させる。

魔力を必要最低限に抑えたけど、それでも十分。後は体勢の崩れたところを――――

 位置の低くなった頭に向けて強化魔法を乗せた蹴りを放ち、嫌な音と感触を覚えながらも、その首ごと吹き飛ばした。

「ぁぁ……」
「ぅぅ……」
「っ……まだまだ出てくるって事か」

 奥の方から聞こえてくる呻き声に辟易しつつも、次の相手見据えて体勢を整える。

……私が倒した二体も含めて向かってくるあの死体の群れは元々、人間だったんだよね……襲い掛かってくる以上は手加減なんてできないけど、せめて一瞬で終わらせる。

 悪いのはあくまで死体を操り、仕掛けてくる〝死遊の魔女〟だ。

 街での騒動を含めて責任は取ってもらうのは当然だが、それでも死体の群れを倒すのに思うところがないと言ったら噓になる。

「らぁっ!」

 次の相手との距離を詰めて跳躍、攻撃する瞬間に出力量を上げた強化魔法を纏って首ごと蹴り潰した。

「――――『影千刃シャフレウド』」

 踵落としを放った私が着地したのと同時にノルンが呪文を唱え、細い影の刃が死体の群れ……その首を正確に貫いて落としていく。

「……これで目に見える範囲は倒せたと思うけれど、まだ終わりそうにないわね」

 臨戦態勢をそのままに、森の奥を見据えて呟くノルン。そこからは茂みを搔き分けて進む音と呻く声が聞こえてくる。

「このまま消耗するまで死体の群れで押すつもり……?だとしても襲ってくる数がまばらな気が……」

 いくら〝魔女〟でも操れる死体が無限にあるわけではないだろう。仮にもこの先が〝創造の魔女〟の拠点だと分かっているのならこの程度の戦力だけとは思えない。

「――――ガルアァァァッ!!」
「なっ!?」

 そう考えていた矢先、呻き声がひしめき合う森の奥から大気を震わす咆哮と共に巨大な四足の魔物が木々を薙ぎ倒しながら突進してくるのが見えた。

「ルーコちゃん!!」

 突然の出来事に私を心配して声を上げ、駆け寄ろうとするノルンだったが、魔物の突進と同時に死体の群れが機敏に動き出し、彼女の進路を塞ぐ。

「ッなんで急に速く……!?」
「ノルンさん!私は大丈夫ですからそっちに集中してください!!」

 急変した死体達を掻き分けて無理に押し通ろうとするノルンを叫んで止め、向かってくる魔物を見据えた。

 いきなりだったから驚きはしたけど、あの腐敗した姿からいってあれも〝死遊の魔女〟の手駒だ。あのくらいの速度、分かってしまえば十分に対処できる。

「あの手の魔物なら…………」

 過去の戦いを思い出しながら突進してくる魔物に向かって駆け出し、魔法を使って加速、滑り込むようにその巨大な身体の下を潜り抜ける。

――――『浅傷を刻む下風シャーロンカウェン

 潜り抜ける事で背後をとった私は振り返り様に腕を払って魔法を撃ち放ち、地を這う風の刃で魔物の足を切り刻んだ。

「ガルルァ……ッ」

 この魔物もあの死体達と同じく痛覚がないらしく、魔法なんて効かなかったように再び突進を仕掛けてこようとするが、体勢を崩し、倒れ込んでしまう。

「……いくら痛みを感じなくても生き物の構造を無視して動かす事はできないでしょ」

 〝死遊の魔女〟の魔術の詳細は分からないが、効率を考えれば一体、一体に注ぐ魔力は多くないはずだ。

 倒した死体の群れを見ても、魔力で無理矢理動く様子がない事から魔物が相手だろうと、同じ手は通じると思って行動したのはどうやら正解だったらしい。

「これでとどめ……!」

 倒れ伏し、動けなくなった魔物の頭を蹴り抜いて潰した私は飛び散った返り血を拭ってから死体の群れに囲まれていたノルンの方に目を向けた。

「……流石はノルンさん。機敏になった相手でも問題なかったみたい」

 首を刈り取られた死体達と息一つ乱していないノルンにそんな感想を抱きつつ、今度は周囲を見回し、警戒を強める。

魔物の死体人形が出てきた時点で一体じゃ終わらないとは思ってたけど、案の定だね……。

 森の奥から聞こえてくるのは明らかに人のものとは違う獣の鳴き声にそう確信した私はノルンに目配せをして一度、合流する事に。

「ウォォォッ……」
「ガルァァァッ……」
「フシュルルル……」

 やはり聞こえてきた鳴き声は魔物の死体人形だったようで、茂みを掻き分け、木々を薙ぎ倒し、身体のいたる所がぐずぐずに崩れたその醜悪な姿を現す。

「……原形が崩れ始めてるから分かりづらいけど、あの魔物達はどれも討伐するのに一級以上の資格が推奨される個体ね」
「一級以上……それがあんなにいるなんて…………」

 戦ってみた感覚的にあの死体人形の性能は生前に劣る。

 だから一級以上が推奨される魔物でも戦えはするだろうが、それでも私たち二人で複数を相手取るのは厳しいと言わざるを得ない。

「……仕方ないわね。ここで出し惜しむと逆に魔力を消費しそうだし、あの魔物達は私が引き受けるわ」
「引き受けるって……私も戦いますよ!その方が消耗だって分散できますし……」

 ノルンの実力を全て知っているわけじゃないけど、二人でも厳しそうなあの魔物達を一人で相手するのは流石に無謀が過ぎる。

「大丈夫、ルーコちゃんは魔力を温存してて。あの魔物達を倒してもそれで終わりだとは限らないし、〝死遊の魔女〟本人がまだ控えてる。アレに動く気がない以上は私達でなんとかするしかないからね」
「でも……」

 言い募ろうとする私の口を人差し指で止めたノルンはもう一度大丈夫といって微笑むと、魔物の方へと向き直った。

「――――ルーコちゃん、しっかり見ておいて。これが私の本気よ」

 杖を胸の前に掲げたノルンはそう言うと、全身から魔力を放出して足元から膨大な影を生み出し、辺り一面を黒一色に染め上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です

モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。 小説家になろう様で先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n0441ky/

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

処理中です...