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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第113話 絶望の魔女と入り乱れる攻防
しおりを挟むのろのろと侵攻してくる死体達に向かって最初に動き出したのは私……ではなく、身の丈程の杖を構え、臨戦態勢を取っていたノルンだった。
「――『影武装』」
呪文を唱えたノルンは体勢を低くして疾走、杖に影を纏わせて巨大な鎌を作り出す。
「ふっ……!」
ノルンはあっという間に死体の群れとの距離を詰め、低い体勢のまま影の鎌を振り抜いて足元を斬りつけた。
「ぁ……」
「ゔぁ……」
「ぁぁぁ……」
斬りつけられた死体達は痛みを感じないらしく、特に怯んだ様子もなく呻き続けているが、それでも足に攻撃を受けた事で確実に移動速度は落ちていた。
「はぁっ!」
振り抜いた鎌の勢いを殺さないようノルンがその場で一回転、そのまま速度を乗せて躊躇なく横薙ぎに切り裂くと、死体の首がいくつも宙を舞う。
「次っ」
数体を行動不能にしてなお、ノルンは止まらない。鎌と化した杖を軽々と振りまわして次から次へと死体の首を落としていく。
「……おいおい、張り切るのは結構だが、お前一人で全部片づけたらルーコの修行にならないだろ」
瞬く間に死体の群れを切り伏せたノルンに対してレイズは呆れ混じりにそう漏らし、ちらりと私の方に視線を向けてくる。
たぶん、このままだと全部ノルンが倒してしまうから、早くお前も動けと暗に告げているのだろう。
「……分かってますよ。このまま見ているだけでいるつもりはありません」
相手は仮にも〝魔女〟……以前よりも劣る死体の群れを寄越しただけで終わるとは到底思えないし、なにより、せっかくどこにいるかも分からなかった〝敵〟がこの先にいるのだ。
この機会を逃すわけにはいかない。
「ならさっさと行ってこい。ああ、できるなら魔力は温存しておけよ?その内、倒せない事に焦れて〝死遊の魔女〟が直接仕掛けてくるだろうからな」
「それは望むところです。色々と聞きたい事がありますから――――」
レイズの言葉に答えた私は強化魔法を纏って飛び出し、ノルンの邪魔にならない位置取りで死体の群れへと迫る。
行動不能にするなら頭を狙う必要がある……だからまずはノルンさんみたいに機動力を削ぐ。
向かう先の二体を見据え、強化魔法を一瞬、解いてから足元を狙って腕を振り抜いた。
「――『風の飛刃』」
生み出した風の刃は過たず死体の足を捉え、私の狙い通りその機動力を奪って体勢を崩させる。
魔力を必要最低限に抑えたけど、それでも十分。後は体勢の崩れたところを――――
位置の低くなった頭に向けて強化魔法を乗せた蹴りを放ち、嫌な音と感触を覚えながらも、その首ごと吹き飛ばした。
「ぁぁ……」
「ぅぅ……」
「っ……まだまだ出てくるって事か」
奥の方から聞こえてくる呻き声に辟易しつつも、次の相手見据えて体勢を整える。
……私が倒した二体も含めて向かってくるあの死体の群れは元々、人間だったんだよね……襲い掛かってくる以上は手加減なんてできないけど、せめて一瞬で終わらせる。
悪いのはあくまで死体を操り、仕掛けてくる〝死遊の魔女〟だ。
街での騒動を含めて責任は取ってもらうのは当然だが、それでも死体の群れを倒すのに思うところがないと言ったら噓になる。
「らぁっ!」
次の相手との距離を詰めて跳躍、攻撃する瞬間に出力量を上げた強化魔法を纏って首ごと蹴り潰した。
「――――『影千刃』」
踵落としを放った私が着地したのと同時にノルンが呪文を唱え、細い影の刃が死体の群れ……その首を正確に貫いて落としていく。
「……これで目に見える範囲は倒せたと思うけれど、まだ終わりそうにないわね」
臨戦態勢をそのままに、森の奥を見据えて呟くノルン。そこからは茂みを搔き分けて進む音と呻く声が聞こえてくる。
「このまま消耗するまで死体の群れで押すつもり……?だとしても襲ってくる数がまばらな気が……」
いくら〝魔女〟でも操れる死体が無限にあるわけではないだろう。仮にもこの先が〝創造の魔女〟の拠点だと分かっているのならこの程度の戦力だけとは思えない。
「――――ガルアァァァッ!!」
「なっ!?」
そう考えていた矢先、呻き声がひしめき合う森の奥から大気を震わす咆哮と共に巨大な四足の魔物が木々を薙ぎ倒しながら突進してくるのが見えた。
「ルーコちゃん!!」
突然の出来事に私を心配して声を上げ、駆け寄ろうとするノルンだったが、魔物の突進と同時に死体の群れが機敏に動き出し、彼女の進路を塞ぐ。
「ッなんで急に速く……!?」
「ノルンさん!私は大丈夫ですからそっちに集中してください!!」
急変した死体達を掻き分けて無理に押し通ろうとするノルンを叫んで止め、向かってくる魔物を見据えた。
いきなりだったから驚きはしたけど、あの腐敗した姿からいってあれも〝死遊の魔女〟の手駒だ。あのくらいの速度、分かってしまえば十分に対処できる。
「あの手の魔物なら…………」
過去の戦いを思い出しながら突進してくる魔物に向かって駆け出し、魔法を使って加速、滑り込むようにその巨大な身体の下を潜り抜ける。
――――『浅傷を刻む下風』
潜り抜ける事で背後をとった私は振り返り様に腕を払って魔法を撃ち放ち、地を這う風の刃で魔物の足を切り刻んだ。
「ガルルァ……ッ」
この魔物もあの死体達と同じく痛覚がないらしく、魔法なんて効かなかったように再び突進を仕掛けてこようとするが、体勢を崩し、倒れ込んでしまう。
「……いくら痛みを感じなくても生き物の構造を無視して動かす事はできないでしょ」
〝死遊の魔女〟の魔術の詳細は分からないが、効率を考えれば一体、一体に注ぐ魔力は多くないはずだ。
倒した死体の群れを見ても、魔力で無理矢理動く様子がない事から魔物が相手だろうと、同じ手は通じると思って行動したのはどうやら正解だったらしい。
「これでとどめ……!」
倒れ伏し、動けなくなった魔物の頭を蹴り抜いて潰した私は飛び散った返り血を拭ってから死体の群れに囲まれていたノルンの方に目を向けた。
「……流石はノルンさん。機敏になった相手でも問題なかったみたい」
首を刈り取られた死体達と息一つ乱していないノルンにそんな感想を抱きつつ、今度は周囲を見回し、警戒を強める。
魔物の死体人形が出てきた時点で一体じゃ終わらないとは思ってたけど、案の定だね……。
森の奥から聞こえてくるのは明らかに人のものとは違う獣の鳴き声にそう確信した私はノルンに目配せをして一度、合流する事に。
「ウォォォッ……」
「ガルァァァッ……」
「フシュルルル……」
やはり聞こえてきた鳴き声は魔物の死体人形だったようで、茂みを掻き分け、木々を薙ぎ倒し、身体のいたる所がぐずぐずに崩れたその醜悪な姿を現す。
「……原形が崩れ始めてるから分かりづらいけど、あの魔物達はどれも討伐するのに一級以上の資格が推奨される個体ね」
「一級以上……それがあんなにいるなんて…………」
戦ってみた感覚的にあの死体人形の性能は生前に劣る。
だから一級以上が推奨される魔物でも戦えはするだろうが、それでも私たち二人で複数を相手取るのは厳しいと言わざるを得ない。
「……仕方ないわね。ここで出し惜しむと逆に魔力を消費しそうだし、あの魔物達は私が引き受けるわ」
「引き受けるって……私も戦いますよ!その方が消耗だって分散できますし……」
ノルンの実力を全て知っているわけじゃないけど、二人でも厳しそうなあの魔物達を一人で相手するのは流石に無謀が過ぎる。
「大丈夫、ルーコちゃんは魔力を温存してて。あの魔物達を倒してもそれで終わりだとは限らないし、〝死遊の魔女〟本人がまだ控えてる。アレに動く気がない以上は私達でなんとかするしかないからね」
「でも……」
言い募ろうとする私の口を人差し指で止めたノルンはもう一度大丈夫といって微笑むと、魔物の方へと向き直った。
「――――ルーコちゃん、しっかり見ておいて。これが私の本気よ」
杖を胸の前に掲げたノルンはそう言うと、全身から魔力を放出して足元から膨大な影を生み出し、辺り一面を黒一色に染め上げた。
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