〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~

乃ノ八乃

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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女

第117話 絶望の魔女と剣聖の称号

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 追い詰められた〝死遊の魔女〟ガリストが切り札として呼び出した死体人形は生気のない表情ながら、離れている私まで伝わってくる程の威圧感を放っていた。

「…………〝剣聖〟グレイス……ずいぶんと懐かしい名前だな」

 死体人形には似合わない豪華な鎧と両刃の大剣を構える〝剣聖〟を見据えたレイズがそう呟き、口の端を吊り上げる。

「〝剣聖〟……って事はあの死体人形は……」
「……生前は最上位の称号持ちだったって事ね。グレイスという名前に聞き覚えはないけれど」

 最上位の称号を全て知っているわけではないが、ノルンがそう言うのならあの死体人形は間違いなくガリストの切り札なりえるだろう。

 見た事のある例は少ないけれど、それでも最上位の称号を持つ者の強さは身に染みて分かっている。

 生前に比べて能力が劣ると思われる死体人形だが、相手が元最上位の称号持ちとなれば話は別だ。

 多少、能力が劣ろうと、化け物染みた強さの死体人形が驚異的な再生力を持って襲ってくるのだからあまりに厄介と言わざるを得ない。

「……〝剣聖〟グレイス、かつてはとある国の騎士団を率いていたこの男は若くして病に侵され、没したものの、その生涯一度も負けた事がなかったと言われている。ま、真偽のほどは分からんがな」

 私達の疑問に答えたのは真っ直ぐ〝剣聖〟から目線を外さずに構えるレイズ。

 おそらく、思わぬの登場に興奮しているのか、表情から早く戦いたいという感情が滲み出ていた。

「ハッ、よく知ってるじゃないか!そうこいつは常勝不敗、無敵とまで謳われた〝剣聖〟だ。お前がどこの誰だろうとこいつの前じゃ無力……やれ、グレイス!!」

 得意げに語ったガリストが指示を下したその瞬間、〝剣聖〟の姿がかき消え、一瞬にしてレイズの前へ現れる。

「っ……」
「…………!」

 突如として距離を詰められ、目を見開くレイズへ〝剣聖〟の鋭い一撃が突き刺さり、その身体を大きく吹き飛ばした。

「ククッ、アッハハハ!いいぞ!もっとだ!もっと痛めつけろ!!」
「…………!!」

 〝剣聖〟の攻撃はそこで終わらない。

 ガリストの声に呼応するかのように力強く踏み込んだ〝剣聖〟は再び加速、まだ吹き飛ばされている最中のレイズに追いつき、連撃を叩き込んだ。

「――――さて、これであのクソ生意気な子供は片付く。残ったお前らはこいつらで十分だろ」

 レイズを吹き飛ばした事でいくらか落ち着いたガリストが指を鳴らして死体人形達を呼び出す。

 流石に〝剣聖〟を操りながら、大型魔物の死体人形は使役できないようだが、ノルンの残魔力が少ない今の状況ではかなり厳しい。

「……私が残った魔力を振り絞って〝死遊の魔女〟を叩くから、ルーコちゃんは周りの死体人形達を――――」
「……いえ、ここは私が前に出ます。ノルンさんは魔力を温存しつつ、死体人形の数を減らしてください」

 残りの魔力を考えればその方が堅実だ。切り札によって消耗したノルンよりも、まだ『魔力集点コングニッション』を残した私の方が〝死遊の魔女〟を倒せる可能性は高い。

「っそれは――――」
「それじゃあ、お願いしますね。ノルンさん」

 ノルンが抗議の声を上げるよりも早く、それだけ言い残した私は迫る死体の群れに向けて走り出す。

……たぶん、ノルンさんは無茶をしてでも……それこそ刺し違えてでも一人で〝死遊の魔女〟を倒そうとする。だからここは私がやるしかない…………もう自分の目の前で誰かが死ぬのなんて見たくないから。

 ブレリオの死を脳裏に浮かべながら、そう決意し、一番最初に接敵した死体人形の頭を強化魔法で蹴り抜き、一撃で行動不能にさせる。

「次――――」

 強化魔法の出力を抑え、魔力消費を最低限にして踏み出した私は距離を詰めつつ、周囲を確認、そのままある一点に狙いをつけて死体人形の胴体に掌底を叩き込んだ。

 当たる瞬間だけ強化魔法の出力を上げたその一撃は狙い通り、死体人形を吹き飛ばし、余裕の笑みで見学を決め込んでいた〝死遊の魔女〟への不意打ちへと変わる。

「おっと――――」

 突然飛んできた死体人形の砲弾に対して〝死遊の魔女〟ガリストは特に慌てた様子もなくそれをかわすが、それこそが私の狙いだ。

「――――『風を生む掌ウェンバフム』」
「なっ……!?」

 吹き飛ばした死体人形によってできた死角を隠れ蓑にし、風の魔法で加速した私は完全にガリストの虚を突き、勢いのままに拳を振り抜いた。

「――――なーんて、ね」
「ッ!?」

 完璧に決まった筈の不意打ちだったにもかかわらず、それはガリストの寸前で見えない壁によって防がれてしまっていた。

これは障壁の魔法……そうかさっきのレイズさんの一撃もこれを使って……!

 想定外の事態に驚きながらも、このままでは反撃を受けると距離を取り、ひとまず体勢を立て直す。

「まさかとは思うけど、ボクがお前の戦い方を知らないとでも?さっきの子供みたいな一撃ならともかく、その程度の威力じゃ、この障壁は抜けないよ」

 不意の一撃を防いだ事で得意げになり、自分から種を明かすガリスト。

 予想はしていたけれど、わざわざ自分から答え合わせをしてくれるなんて好都合だ。

……強化魔法の一撃で抜けないなら単純に出力を上げるか、それとも貫通性の高い魔法で仕掛ける必要があるけど……ここで『魔力集点』を切るわけにはいかない。どうにか他の手段で突破するしかないか。

 まだ〝死遊の魔女〟ガリストの手札が全て明かされたわけじゃない。

 最大の切り札である〝剣聖〟の死体人形こそ、レイズに向けているものの、何か強力な死体を隠し持っていても不思議じゃないし、単純に物量で押された場合、時間制限のある『魔力集点』では詰んでしまうだろう。

 まして、ガリスト本人の口から私の戦い方を知っているという風な口ぶりで話していたのだから、『魔力集点』を使った瞬間に数のごり押しをされる可能性は十分にある。

「……それならこれで――――『白煙の隠れ蓑モクロークビシティ』」

 選んだ魔法は白く、不透明な煙を生み出すもの。

 最早、風以外の得意魔法といっても差し支えない程に愛用しているこの魔法は魔力操作の向上を経て、細部まで出力を調整できるようになっており、必要最低限……ガリストの周りと自分を包み込む程度の量で放出した。

「チッ、煙幕なんて無駄な事を……」

 白く染まった視界の中で鬱陶しそうなガリストの声が響く。

 おそらく私が自分もろとも包み込んだ事で互いに視界が塞がれているから、せいぜい時間稼ぎにしかならないと思っているのかもしれない。

……少し前までの私なら時間稼ぎくらいにしかこの魔法を使えなかったけど、今は違う。

 魔力操作の向上は私に様々な恩恵をもたらした。魔法の出力調整もその一つだが、それよりも大きく恩恵を受けたのは『魔力集点』なしでも魔力の流れを見る境地に至れるようになったという部分だ。

「煙の中でも魔力の流れなら見える……後は――――」

 一方的にこちらが向こうの位置を特定できるという状況は戦闘において圧倒的優位に立っていると言える。

 たとえ、ガリストが常時、障壁魔法で全身を守っていようと、この状況での不意打ちなら対処はできない。

 そう判断した私は死体人形達を全て無視し、ガリストに向かって再び攻撃を仕掛けた。

ッここ――――!

 音を殺して背後に回った私は障壁魔法の流れを見て、一番脆い部分を見つけ出し、強化魔法の出力を最大にしてガリストへ強烈な蹴りを見舞った。
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