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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第118話 死遊の魔女と周到な不意打ち
しおりを挟む白く覆われた視界の中、何もできないだろうと高を括り、障壁魔法に防御を頼り切っていたガリストへ最大限の強化魔法が乗った蹴りが突き刺さる。
「がッ……!?」
完全に油断していたところに意識外からの一撃……それも障壁の綻びを突いた事でガリストは苦悶の声と共に大きく吹き飛ぶ。
ここで一気に畳みかける……!
こんな不意打ちは何度も通用しない。厄介な障壁魔法が揺らいでいるであろう今の内に倒し切ってしまおうと、踏み込み、強化魔法を全開にしたまま連撃を叩き込む。
脇腹、肩、膝、胸、頭、魔力の流れを見極めながら弱い部分をひたすら狙って打撃を仕掛け、ガリストを追い詰めていく。
「ッガァァァ!!調子に乗るなぁぁッ!!」
「っ!?」
一方的に攻撃を受け続けていたガリストが咆哮、全身から魔力を放出させ、周囲の煙幕ごと私を吹き飛ばした。
「……このまま押し切れたらと思ったけど、流石にそんな甘くはないか」
体勢を立て直しながらガリストから目を離さないよう注意しつつ、呟く。
……障壁魔法こそあるけど、私でもここまで圧倒できるって事は、やっぱり接近戦は苦手みたい。
操る魔術的にも、離れたところから戦力をつぎ込み制圧するといった戦法が必勝になりえる以上、接近戦の技術が疎かになるのはある意味、当然なのかもしれない。
まあ、その必勝法で押されたら何もできなかったんだけど、出張ってくる性格が仇になったこの絶好の機会を逃すわけにはいかない。絶対にここで倒しきらないと。
そのためには後手に回らず、常に攻め続ける必要があるため、再びガリストに向かって踏み出すが、相手もそれを分かっているらしく、残っている死体人形を全て差し向けてくる。
「っ近づけない……!」
数体ならまだしも、残った死体人形を全てを相手取るのは難しく、魔力の消費は避けられないし、無視して近付こうにもこの数では厳しい。
……一応、空から近付くって手もあるけど、それをすればガリストは確実にノルンさんを狙ってくるだろうし……その方法は使えない。
ノルンの魔力が万全ならまだしも、魔術と連戦で消費しきった今の状態では確実に殺されてしまうだろう。
「グッ……ハァ……ハァ……ふざけやがって……ボクは〝魔女〟だぞ!お前みたいな木っ端に……良いようにやられていいわけあるかぁっ!!」
息を切らしながらも怒りに震え、癇癪を起したように叫んだガリストは血走った眼でこちらを見つめると、杖を向け、黒い閃光を撃ち放ってくる。
「っ……!」
自らの手駒である死体人形に当たろうが、お構いなしに黒い閃光を乱射してくるガリスト。
やられても替えが利くからか、どうせ再生するからかは分からないが、味方ごと巻き込むその攻撃は避けにくい事この上ない。
魔力の流れを見る事でぎりぎりかわせてはいるが、このままだと防戦一方のなってしまうのは明白、何か策を弄する必要があった。
あの調子で撃ち続けるなら魔力切れを待って……ううん、いくら冷静さを欠いていたとしても自分の魔力量を失念しているとは思えない。
たぶん、先に私の方が魔力切れになるか、攻撃に当たってしまう気がする。
数々の死体人形や切り札の〝剣聖〟の使役、高威力の黒い閃光の乱射で魔力をかなり消費しているガリストだが、腐っても〝魔女〟……この状況でも魔力量で張り合えるとは思えなかった。
「ッルーコちゃん……!」
「っノルンさんはまだ待機しててください!ここは私が何とかしますから!!」
私を心配して動こうとしたノルンをそう言って制し、一度距離を取ってから呪文を唱える。
「――――『濡らし泥濘む霧』」
使ったのは水気をたっぷりと含んだ霧を発生させる魔法。得意の風魔法という訳ではないので細かい調整までは回らないが、これで十分。
発生させた霧が死体人形達の足元に水気を下ろし、地面をぐちゃぐちゃにぬかるませる。
「〝土くれよ、水を持って泥と化し、彼の者らを招け〟――――『泥土の招き手』」
続けて詠唱したのはいつかの模擬戦でお姉ちゃんが使っていた魔法だ。
ぬかるんだ地面から無数の泥の手を出現させて相手の自由を奪うそれは死体人形達に絡みつき、その動きを鈍らせる。
これで死体人形に動きを制限されない……一気に決着をつける。
今のガリストはレイズから受けた一撃と私の連撃も相まって、機敏に動く事はできない筈だと判断し、威力の高い魔法で勝負に出る。
「〝暴れ狂う風、狙い撃つ弓矢、混じり集いて、形を為せ〟」
弓を射る動作と共に呪文を詠唱、圧倒的貫通力を秘めた風矢を生成しながらガリストの頭目掛けて狙いを定める。
――――『一点を穿つ暴風』
弦を離したその瞬間、甲高い音が響き、進行方向の遮蔽物全てを射貫いた風矢がガリストを襲う。
「ッ――――!?」
時間にしてみれば瞬く間の出来事、風の矢は過たずガリストの額を撃ち抜き、その身体は力なく地面倒れ伏した。
「…………やった、の?」
あまりに呆気ない幕切れに戦いを見守っていたノルンからそんな言葉が漏れる。
…………本当にこれで終わったの?
倒れ伏したまま動かないガリストを前にしてなお、そんな疑問が鎌首を擡げる。
確かに虚を突き、策を練り、ここしかないという瞬間を狙ってほぼ防御不可能な魔法で仕留めにかかったが、それでも〝魔女〟がこうもあっさりやられるとは思えなかった。
「ッルーコちゃん!後ろ!!」
「っ……!」
ノルンの叫びで咄嗟に跳び退くと同時に私がさっきまでいた場所へ黒い閃光が降り注いだ。
「――――チッ、外したか」
少しの苛つきを孕んだ呟きを漏らしたのは遥か上空から杖を構えたそこで倒れている死体と同じ顔をした少女だった。
「……どういうこと?あそこにいるのが〝死遊の魔女〟ならあの倒れている死体は一体――――」
「…………あれは死体人形を使った偽物だったんだと思います。きっと、二重で不意打ちを仕掛けるために仕込んでいたんでしょうね」
最初の筋肉魔物を囮にした時と同じだ。倒したと思って油断したところに攻撃を仕掛ける……私もさっき煙幕に紛れて不意打ちをしたが、ここまで周到なのは見た事がなかった。
「――ご明察だ。これはボクがよく使う手でね、自分の力を過信する馬鹿ほど引っ掛かりやすいんだけど……ま、今回は失敗だね」
答え合わせと言わんばかりに語るガリストからは先程までの感情的な様子は見受けられない。
偽物だったからと言われればそうかもしれないが、少なくともさっきまでのガリストは戦術的にはともかく、実力的には本物足り得たように思う。
少なくとも、顔を似せただけの偽物に〝剣聖〟なんて手札を切れるとは思えなかった。
乗っていた箒を下降させ、地面に着地したガリストがゆったりとした動作で首を動かし、私達の方へと目を向ける。
「……おや、納得いっていないといった顔だ。まあ、そうか。偽物のボクが……たかだか死体人形ごときが〝剣聖〟なんて駒を使える筈がないと思っているんだろう?」
「っ…………」
まるでこちらの考えている事を全て見透かしているかのような言葉に思わず表情を変えた私の反応に満足したのか、ガリストは聞いてもないのにその答えを口にする。
「答えは簡単、死体人形に関する魔術はボク本人が遠隔で使っていたってだけだよ。偽物が使ったのは攻撃魔法と障壁魔法だけ……種を明かしてみれば単純な仕掛けだろ?」
「…………そうね、ところで偽物も聞いてない事をべらべら喋ってたけど、性格まで忠実に再現していたのかしら?」
何も言えない私に代わってノルンが挑発めいた言葉をぶつけると、ガリストは目を丸くした後でぷっと吹き出した。
「アッハハハ、面白い事をいうね。確かにあの偽物はある程度ボクの性格を模してるけど……そうか、うん、言われてみればボクはいらない事まで喋る癖があるかもね」
ひとしきり笑って一人で納得したように頷いたガリストはその不健康そうな見た目からは想像もできないくらい弾んだ声でそう言い、その場でくるりと身を翻す。
「――――ま、だから何って話だけどね。性格はともかく、ボクの実力は偽物の比じゃない。お前達はこれから本物の〝魔女〟を相手にどこまで戦えるのかな?」
とんっと、片足を地面で鳴らしたガリストが試すような言葉と共に妖しげな笑みを浮かべた。
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