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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第121話 死遊の魔女と不死の醒花
しおりを挟む何の技術も込められていないただの拳だが、それでも〝醒花〟による強化魔法の乗った打撃をまともにくらった私は大きく吹き飛ばされ、受け身も碌に取れないまま地面に叩きつけられてしまう。
「がッ……ぐ…………」
『魔力集点』状態の強化魔法を纏っていたおかげで致命傷は避けられたものの、受けた傷は決して軽くない。
できるならこのまま寝転んでいたいところだが、今は一刻も早く起き上がり、体勢を立て直さないとガリストの追撃をくらってしまう。
「――――そぉら、逃げないと潰れるよ?」
案の定、追撃を仕掛けてきたガリストは片手を巨大な肉の塊に変化させ、振り下ろしてきた。
「ッ!?」
まさかの攻撃手段に驚きながらも、痛みを無視して思いっきり地面を叩いて転がるようにその一撃をかわすが、私の体勢は変わらず悪いまま、ガリストの攻撃を受け続けざるを得ない状況が続く。
「そんな状態でいつまでかわせるかな」
転がる私に嘲笑を向けつつ、自らの腕を変化させては戻しを繰り返し、猛攻を仕掛けてくるガリスト。
その速度自体は対処できないものではないが、いかんせん、立ち上がる事もできていない現状ではそれをかわし続ける事も厳しくなってきていた。
「ッ――『暴風の微笑』!」
このままではいずれ避けきれなくなると判断した私は自傷覚悟で魔法を放ち、ガリストとの距離を無理矢理稼ごうとする。
その目論見はひとまず成功し、異形と化した腕の攻撃範囲から脱出する事はできた。
しかし、相も変わらず状況は芳しくない。
元々、近接が弱点だからと私の方から仕掛ける事で優位に立っていたのに、そこから退いてしまった今、ガリストの得意な距離で戦わなければならなくなった。
そこに加えてガリストの言っていた事が本当なら、彼女の〝醒花〟と『魔力集点』の相性は最悪といいってもいいだろう。
不死という特性に対し、私の『魔力集点』は爆発的な火力で短期決戦を狙うもの……時間切れまで耐えられてしまえばそこで終わりだ。
ッ相手はアライアさんやレイズさんと同じ〝魔女〟……格上だって分かっていたつもりだったけど、まだ認識が甘かった……!
〝魔女〟なら当然〝醒花〟も使えるだろうし、死体を操る魔術の特性を考えれば不死という効果に辿り着く事も不可能ではなかったはずだ。
レイズさんを相手にしてその差を目にしたから?最強の手札であろう〝剣聖〟を彼女に使ってしまったから?『魔力集点』なら押し切れると思ったから?それとも……ううん、違う。
全ては私の慢心が招いた事だ。
いくつもの後悔が頭の中を駆け巡るが起きてしまった事は変えられない。今、私がすべきなのは後悔じゃなく、残った手札でどう〝死遊の魔女〟を攻略するかだ。
「――――今、何を考えているのか当ててあげようか。ボクとお前の相性は最悪、おまけに制限時間が近い中で〝魔女〟をどうやって攻略するか悩んでる……だろ?」
「っ…………」
わざわざ答え合わせをしてやる義理はない……けど、内心を言い当てられた動揺から全て顔に出てしまったらしく、ガリストは満足したように笑う。
「その表情……どうやら図星みたいだ。フフ、なら朗報だよ。それ以上、お前は悩む必要はない……だっていくら考えたところでこのボクは倒せないんだからねぇッ!!」
「ッ――――『風を生む掌』!!」
言葉と共に放ってきた無数の黒い閃光を紙一重で避けて、なおも止まない攻撃を高速移動してかわし続けるが、それだけでも魔力が削られ、『魔力集点』の限界時間がすぐそこまで迫っていた。
っもう時間がない……このまま避け続けても限界がくれば一瞬で終わる…………なら――――!
意を決した私は黒い閃光をかわしつつ、高度を上げて身を翻し、ガリストへ狙いを絞る。
あの不死性に対して貫通力に特化した『一点を穿つ暴風』は意味を成さない。
だから今の私が使える最大火力で再生力ごと押し切る。
『風を生む掌』での高速移動も止め、強化魔法さえ切った状態のまま、自由落下に身を任せて残った魔力を一気に練り上げた。
「ッ……〝大気渦巻く空、降りろ、巻き込め、風の牢獄、天より落つるは荒ぶる圧槍――――〟」
使うのはジアスリザードキングを葬った風の魔術。本来の威力で放てば味方を巻き込んでしまうが、消耗しきった『魔力集点』状態の今ならぎりぎり範囲を抑えられる。
この威力調整もまた修行の賜物ではあるものの、懸念点があるとすれば、威力を抑えてなお、ノルンが避けるのを前提にしなければならないという事だ。
っ後はノルンさんがこの魔術に気付いてくれるのを信じるしかない。
ひゅるひゅるひゅると渦巻く風と共に範囲を絞り、ガリスト目掛けてそれを解き放った。
「――――〝穿てッ〟『凄風の天獄穿』!!」
渦巻く風が大気を震わせ、ガリストの周りを囲み、あらゆるものを巻き上げる。
それは死体人形やガリスト本人も例外ではなく、暴れ狂う暴風の槍はそのまま轟音と共に呑み込んだ全てを地面へと叩きつけ、圧殺した。
っまずい……思ったよりも魔力が…………
魔術を撃った後、風で着地の衝撃を和らげるつもりだったが、今の一撃に全て持っていかれて『魔力集点』も解けてしまい、私の魔力は文字通りのすっからかんになってしまったらしい。
「――――っルーコちゃん!!」
魔力の欠乏で朦朧とする意識の中、自由落下していく私を助けたのは魔術に気付いて一時的に退避していたノルンだった。
影の塊を使って私を受け止めたノルンが慌てた様子で顔を覗き込んできたので心配させまいと笑顔でそれに返す。
「ノ……ルン……さん……良かっ……た……避……けて……くれ……て…………」
「ッもう無茶して……私の心配よりも貴女自身の心配をしなさい!」
私の反応に対し、目尻に薄っすらと涙を浮かべながら叱るノルン。
普段の何気ない事を含めても、ノルンに叱られたことがなかっただけに驚き、それと同時に何故だがお姉ちゃんを思い出して、少し笑ってしまった。
「もう!笑ってないで真面目に聞きなさい!!」
「ふふ……ごめん……なさい……なん……だか……色……々……思い……出しちゃっ……て…………」
ガリストを倒せた安心感からか、完全に力が抜け、甘えるように身体を預ける私の姿にノルンも叱る気力を無くしたらしく、呆れ交じりの優しい笑みを浮かべている。
「……まあ、でも大きな怪我がなくて良かった。後はアレが戻ってくればひとまず一件落着ね」
「……まだ……あれ……呼び……なんです……ね」
ここまできて未だにレイズを名前で呼ばないノルンに苦笑しつつ、この弛緩した空気に浸ろうとした次の瞬間、背筋にぞくりとした冷たい感覚が走った。
「――――まだ終わらせるには少し早いとボクは思うけどなぁ」
「ッ……!?」
あの魔術をくらって生きているはずがない。たとえ不死だとしてもばらばらに切り裂かれ、風の圧力で押し潰されてなお、死なないなんて事があるわけがないと恐る恐る目を向けた先にそれは立っていた。
「……人があんな状態で生きていられるものなの?」
私の魔術をまともにくらった影響なのだろう。
両の手足は変な方向へ複雑に折れ曲がり、あらゆる場所から切り傷による出血、箇所によっては骨まで露出しており、おまけに首は直角に折れ曲がっていた。
「いやぁ……流石にさっきのは痛かったよ。不死といっても痛覚が消えるわけじゃないからね。今も全身に激痛が走ってるところだ」
めきめき、ぼきぼき、ぐちゅぐちゅ、おおよそ人体から出ているものとは思えない音と共にガリストの身体が再生され、あっという間に元通りになってしまう。
「……ふぅ……さて、と。これでお前達の万策も尽きたかな?ならそろそろ終わりにしようか」
首を左右に曲げて鳴らし、嗜虐的な笑みを浮かべて杖をこちらに向けてくるガリスト。今の私達はまさに絶体絶命といえる状況に陥っていた。
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